ミラノ・コモ湖・ヴェネチア イタリアン・ジョブ up & Passat 試乗会

アヘッド パサート

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2012年に『up!』が発表されたとき、フォルクスワーゲンにしては随分と思い切ったクルマを出したものだな、という感想を持ったのを今でも覚えている。

text:ahead編集長・若林葉子、竹岡 圭、三代やよい [aheadアーカイブス vol.165 2016年8月号]
Chapter
新しくなったup!で行く壮麗なるミラノの街
涼しげな顔したパサートでドラマティックなヴェネチアへ
up!を、もっともっと若い人たちへ
セダンの不文律はそのままに余裕をまとうパサート 2.0ℓTSI

新しくなったup!で行く壮麗なるミラノの街

私は3年ほどポロのオーナーだったのだが、飽きのこないシンプルで端正なポロのデザインを最後まで気に入っていた。いい意味で人の感情に障らないニュートラルなデザインは、どこにでもあるようで、探してみると案外見つからないものだ。

そういうデザインがフォルクスワーゲンのスタンダードだと思っていたから、ガジェット的な色合いの濃いup!に驚いたのである。

発表と同時に来日した、当時のデザイン責任者、ワルター・デ・シルヴァ氏が、「プロダクトデザイン的なアプローチでデザインした」というのを聞いて、なるほど、と納得したのだった。
今回、up!のマイナーチェンジに合わせて行われた海外試乗会に女性ばかり5名(ジャーナリスト3名、編集者2名)が招待された。試乗したのはミラノ~コモ湖を往復する200㎞弱のコース。

ミラノはup!をデザインしたデ・シルヴァ氏の故郷であり、デ・シルヴァ氏にはup!をミラノに似合うクルマにしたいという想いがあったと聞いた。そう言われてみると、確かにミラノの街にup!はとても似合っていた。

up!はガジェット的ではあるが、シンプルであることもまた事実である。「携帯電話のような最先端のテクノロジーに囲まれた現代の若者は機能的でシンプルなデザインを求めている」(デ・シルヴァ氏)

だからか、私たちは今、何もかもが複雑なものに囲まれすぎている。そのうえ、デザインまで複雑になったらお手上げだ。
交通量の多いミラノの中心部を撮影しながらコンボイで移動するのはなかなか神経を使うわけだが、up!は結構、無敵だった。小さいから停めやすい。狭い路地でも取り回しやすい。MTも扱いやすい。第一、にっかりと笑ったような親しみやすい顔が、異国の道を走る私の緊張感をほっこりと和らげてくれる。

この日、外気温は38℃まで上がって、外にいると意識が朦朧とするほど。ヨーロッパきっての避暑地と言われるコモ湖でも、これでもかと照りつける太陽に閉口した。up!のエアコンは温度設定をめいいっぱい下げて、風量は全開。1ℓ3気筒のエンジンで、3人乗って、それでも高速道路ではしっかり130㎞/h巡行できる実力はさすがと感心した。

涼しげな顔したパサートでドラマティックなヴェネチアへ

up!でミラノ~コモ湖を往復した翌日は、パサート(2ℓTSI)でミラノからベルガモ、そしてヴェネチアに向かう試乗である。乗るクルマが違うと、気分もこんなに違うものなのだろうか。

ベルガモの旧市街の、車幅ぎりぎりの狭い路地を行くのは神経をすり減らしたが、高速道路を走る時の自信にあふれた感じと言ったらない。どこに出ても恥ずかしくありません。そんな気分だ。

というわけで、追い越し車線をがんがん走ったのだけれど、それには他にも訳があって、宿泊地のヴェネチアへと気持ちがはやっていたからだ。
水の都、ヴェネチア。本当は特別、行きたいと思ったこともなかったのだけれど、今回の行程に含まれていると知って、急に期待が高まったのだから、げんきんなものだ。

ヴェネチアに入るには当然、橋を渡らなければならない。が、そこからして想像していたのとは違った。鉄道と並行して走る自動車専用道路、リベルタ橋がまっすぐに伸びており、海の向こうの街が少しずつ大きくなっていくところからしてドラマティックだ。

橋を渡りトロンケット島の駐車場にクルマを停めて、水上タクシーに乗り換える。ここからは船に揺られながら、サン・マルコ広場に近い船着場まで、短い運河の旅。

まるごとディズニーランドのよう、と言って、「6000万人のイタリア人が怒るぜ」と顰蹙を買ったが、それほどに、最初、私には、ヴェネチアがこの世のどこでもない場所のように思えた。

戦いで追われた人々によってヴェネチアの歴史は始まった訳だけれど、水の上にこんな都市を築いてしまうとは。しかもヴェネチアを囲むラグーナ(潟)は生きた自然で、満ち引きもあれば高潮もある。今も豊かな漁場なのだ。生きた自然の上に作られた完全なる人口の都市。
ホテルにチェックインしてから夕食までの短い時間、ぶらぶらと路地を歩く。縦横無尽に細い水路が巡り、小さな橋がいくつも掛かっている。この世のどこでもない場所のように思えた街には、しかし案外、しっかりと人の暮らしがあるようだった。

水路に停まった船から荷物を降ろし、手押車で運ぶ人夫の姿もあった。考えてみれば、あらゆるものを外から運び込まなければならないが、街の中はクルマの往来はできないから、人の手に頼ることになる。縞模様のシャツを着た船の漕ぎ手たちといい、どっしりと、人が生きている。

水の上に築かれた都市という物理的な条件によって、おのずと昔ながらの暮らしのスタイルが守られていると言えるかも知れない。
夕食の後、楽団の奏でる音に誘われてサン・マルコ広場に出た。広場の周囲はカフェが埋め尽くしている。中東のアラブ世界に起源を持つカフェが、最初にヨーロッパにもたらされたのはヴェネチアと言われている、ということを後から知った。飲み物としてのカフェがもたらされたのは1638年、店舗としてのカフェが登場したのは1683年だそうである。

調べ始めると興味は尽きないが、ヴェネチアにはこれまでの旅では感じたことのない高揚感というのか浮遊感というのか、とにかく不思議な感覚を抱かされた。

帰りの水上タクシーを待つ間、ひっきりなしに船着場から降りてくる人たちや、水際の石畳を埋め尽くす観光客を眺めていた。肌の色も背格好も話す言葉もさまざま。あらゆる人種が集まっている。交易都市として発展したヴェネチアには珍しくもない光景なのかもしれない。

嵐の前の、うねり立つ波に船ごと大きく揺られながら、観光客で沸く水の都を後にした。おまえはいったい何者なのか。仮面祭でも有名なこの街にそう問いかけられているようで落ち着かない私を、駐車場のパサートは、「自分は自分」と、少しも変わらない涼しげな顔で待っていた。


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text・若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

up!を、もっともっと若い人たちへ

text:竹岡 圭


VWのエントリーモデルの最大の特徴は、手抜きがないこと。シュコダやセアトといったカジュアルブランドを有するVWグループが、あえてVWブランドでエントリーモデルを作るわけですから、やはりこだわりの質感が光ります。

そんなup!のマイナーチェンジの最大のポイントは「もっともっと若者にアピールすること」  現在も、購入層は20〜30代と50〜60代がメイン、VWにしては珍しく6:4で女性が多いという販売比率を誇っていますが、実は意外と親が子供に買ってあげるクルマという側面が多いのだとか。そこで、若者に自主的に積極的に選んでもらえるクルマになろうというのが今回の狙いなのです。

積極的に手が入れられたのはデザイン。正直ガラリと変わったわけではないけれど、まずフロントマスクがVWらしい顔つきに。リアはコンビランプの変更くらいだけれど、やはり全体的に上質な雰囲気にまとめられています。

大きく変わったのはインテリア。外板を内装に取り入れるという、ルポから続く手法はそのままに、インパネやシートのデザインやカラーが増えて、よりポップさを強調。なにより斬新なのはインターフェイスで、センターにドーンと構えたコネクティビティが目を惹きます。

このインターフェイス、スマホを組み合わせることが前提。up!専用のアプリをダウンロードする寸法です。確かにこのクラスでは、スマホをナビ代わりに使う人が多く、日本ではすでに軽自動車がそういった手法を取り入れています。

とはいえ、現在はスマホの画面を備え付けのディスプレイに映し出して使うのが主流。そこからさらに一歩進んで、スマホの画面をそのまま使うというところが新しいんですよね。これって、コンサバティブに見えて実はチャンレジングなVWらしい挑戦だと思います。

運動性能面でも、本国では新しく1.0LTSIエンジンがお目見えしましたが、日本へはASGの設定のあるNAモデルのみが導入される予定とか。こちらのパワートレインは基本変更ナシですが、乗り心地には若干手が加えられ、高速域での直進安定性のよさはそのままに、よりコンフォータブルなものに仕上がっていました。

日本への上陸は来年を予定。アメリカのオーディオメーカーbeatsとのコラボモデルなどもあり、またもや軽自動車とのバトルが繰り広げられそうです。

text:竹岡 圭

セダンの不文律はそのままに余裕をまとうパサート 2.0ℓTSI

text:三代やよい


VWの代名詞的存在といえばゴルフ。その年間販売台数およそ80万台。でも、それを優に上回る110万台(2013年度)という数字を誇るのがパサートと聞いて、いささか驚かれる方もいるかもしれない。

年間110万台というのはつまり、1日3000台、約29秒に1台の割合で世界のどこかでパサートを買っている人がいるということ。イタリアで開かれた国際試乗会で、ミラノからヴェネツィアまでの300km、そのベストセラーモデルのステアリングを握りながら「29秒に1台」のワケを考えた。
パサートは、まるで呼吸するように運転できる。誰が乗ってもクセなくソツなく走ることができる。そういうクルマというのは、ありそうだけど実は少ない。現在日本で買えるのは150psの1.4ℓTSI直4もしくはPHV仕様のGTEだが、今回試乗できたのは国内未導入の2.0TSIモデル。

1.4ℓでも非力と感じたことはないけれど、やはり出力に100ps、トルクに100Nmの余力がある分、低速域からぐいぐいと体を後押ししてくれるし、スピードに乗ればミズスマシのようにすいすいと駆け抜けていってくれる爽快感がある。

大人3人と3人分の旅行ケースを満載してアウトストラーダを130km/h巡航で走っていても、スロットルペダルに置いた足の親指をついと踏み増すだけで、相当のペースで滑空するEクラスを余裕しゃくしゃくで追い越したときは清々しい思いさえした。6速DSGとの相性もことのほかよく、ベルガモの石畳の急坂も、一切のギクシャク感なしに涼しい顔して登っていく。

1.4ℓモデルを日本で試乗したときに書いた個人メモ帳を見返すと「品川区御殿山の幻坂。エンジンルームからそれなりのうなり声」と書きつけていたが、今回は、それはそれは静かなものだった。
実用的で控えめでフォーマルでアフォーダブルで、かつ乗員みな快適であるべし、というセダンの不文律を頑なに守る潔さもいい。Eクラスや5シリーズ並のボディサイズ/居住空間ながら、Cクラス/3シリーズよりも安い価格設定。

先代からのフルモデルチェンジ時に全高と全長は低く短くなったのにも関わらず、ヘッドクリアランスとレッグスペースはともに拡大。ペタンコの屋根の下に押し込められて、寝そべるような着座位置を強いられる格好重視の流行セダンと違って、背筋をぴんと伸ばした正しい姿勢がきちっと取れて気持ちがいい。

歴代パサートのよき伝統に従い、じつにSクラスや7シリーズをも上回る586リットルという広大な荷室も背中に背負う。私など余裕でふたりくらい飲み込んくれそうなトランクを前にすると、「荷物を積むならワゴンかSUV」という思い込みを綺麗に消し去ってくれる。
個人的には、パサートのハイライトはデザインだと思っている。セダンもスポーツカーも、いまやミニバンですら、背後からひた迫るアクの強いフロントマスクをルームミラー越しに見てぎょっとしてしまうことが多い昨今、目元涼しいパサートの顔はかえって一頭地抜きんでて見える。

虚勢も張らない。外観にも内装にもゴテゴテ盛りつけたような厚化粧は一切なく、シンプルだけど折り目のパリッと入ったシャツとスーツをまとったような清潔感がある。

パサートは地に足のついたセダンだ。実直で堅実で真面目で、何気なく過ごしてていく平凡だけど大切な日々。そこにいつのまにか、控えめに、そっと寄り添ってくれる。不惑の二文字がちらつく私の目に、パサートがやたら魅力的に映るのは、だからなのかもしれない。

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