ドライバーの責任

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便利で愉しく、暮らしに役立つクルマ。しかし時に人を傷つける凶器にも変わる。事故を起こさない、事故に遭わない。そのためには日々緊張感を持って運転し、ドライバーとしての責任を自覚することが何より大事。今回は“子ども”に焦点を絞り、私たちドライバーにできること、必要なことを考えてみる。

text:緒方昌子 photo:長谷川徹、山岡正和 取材協力・豊田市交通安全学習センター [aheadアーカイブス vol.127 2013年6月号]
Chapter
子どもの行動特性を知ろう
子どもの交通事故はなぜ起こるか
子供の交通事故を巡る状況
豊田市交通安全学習センターで行われていること
小学4年生講習
「親だからこそできること」
[チャイルドビジョン]
豊田市交通安全学習センターで使用している、子供の視野を体験するための装置。掛けてみると、子供の視野はこんなにも狭いのかと改めて大人の配慮の大切さに気づかされる。

子どもの行動特性を知ろう

前のページにあるチャイルド・ビジョンは、幼児の視界を体験できるメガネだ。かけて驚くのはその視界の狭さである。大人の視界と比べると、水平方向の視野は大人が150度であるのに対し幼児は90度、垂直方向に対しては、大人が120度であるのに幼児はわずか70度しかないことが分かる。

幼児は周りをよく見ないと言われるが、もともと視界が狭いのだから仕方がないのだ。そのことを踏まえると、横断歩道を横断する際、「手を挙げて、右、左、右、クルマよし」と、頭を振って左右を見るよう促すのには理由があることがよく分かるだろう。同じ理由で、子どもは高い位置にある信号機を見落としやすいということも知っておきたい。

このように、まだ成長過程にある子どもは、身体的に不利なだけでなく、ときに大人からは思いもかけない行動をとることがある。だから、私たち大人が、交通の場面での子どもの行動特性を知っておくことは大変有益なことなのである。

子どもは急に止まれない


ページ下の囲みからも分かるように、まず知っておきたいのは「子どもは飛び出す」ということ。歩行中であれ、自転車乗用中であれ、飛び出しによる事故はとても多い。子どもの動きは素早く、とっさの時に次の行動が出ないため、急に止まることもできないと認識しておきたい。

また、道路の向こう側や広い駐車場で、友達や親の姿が見えたりすると、追いかけて飛び出すケースが多い。これは何かに興味があると、そのことに夢中になって周囲の状況が目に入らなくなり、危険なことの判断ができなくなるからだ。道路で小さな子どもに呼びかけるときは、周囲の状況を見極め、慎重にも慎重を重ねたい。

そのほか、予測がつかない子どもの行動として、横断歩道を渡っている途中で歩行者用青信号が点滅を始めたら、どうしたらいいのか分からなくなり、あわてて引き返してしまうという事例がある。同時に2つのことに注意するのも苦手で、信号を気にしながら右左折するクルマに注意を払うのも難しい。大人の歩行者と同様に考えると危険だ。

駐車場や停まっているクルマの前後からの横断を危険とは考えていないので、駐車場での走行や、駐車スペースにクルマを入れる時は、細心の注意を払いたい。

「大きいものは危険」でも…

そして覚えておきたいのは、子どもは空間認知能力が未発達だということ。それゆえ、クルマと自分の位置関係を正しく判断することは、小学生ではまだ難しいのだ。大きいものや大きい音は近くに感じ、小さいものや小さい音は遠くに感じる。つまり、遠くを走る大きいトラックには危険を感じても、近くを走る小さいクルマやオートバイには危険を感じないこともあるということ。

自分のそばにいるクルマには注意できても、遠くから走ってくるクルマには危険を感じにくいということもある。ドライバーは、時と場合によっては、驚かさない程度にクラクションを軽く鳴らし注意を促すことも必要だろう。

自分を中心に思考体系を組み立てているため、当然ながら、ほかの立場に立って客観的に判断することも苦手である。子どもを事故から守るには、子どもの行動特性を踏まえ、注意を払い、思いやりを持って運転することが大切だ。それがクルマを運転するものの責任なのである。

子どもの交通事故はなぜ起こるか

警視庁が発表している「子供の交通人身事故発生状況〜平成24年中〜」によると、幼児・小学生・中学生までの子どもの交通人身事故は、平成18年以降、発生件数は減少傾向にあるものの、平成24年(発生件数2,690件)の死者数は前年の平成23年(発生件数3,126件・死者数1)に比べ、6人多い7人に増加していることが分かる。

年齢層別発生件数では、幼児が10.3%、小学生が64.8%、中学生が24.9%。小学生の事故が過半数を占めている。さらに男女別では各年齢層とも男子の発生件数が女子よりも多く、なかでも動きの活発な小学生の男子の事故件数は女子の約2.1倍にものぼる。時間帯では16〜18時の夕方に多発している。

また、自宅から500m以内で多発していることも、子どもの交通事故の特徴だという。夕方という時間帯や自宅近くという結果を見ると、学校や遊びから帰宅するときに急ぐ子どもの心理が表れているようだ。

状況別では、自転車乗用中が全体の60.2%、歩行中が39.6%。自転車の事故は安全不確認や一時停止をしないなどの出会い頭の事故が66%にも及ぶ。歩行中では違反なく歩行している場合が56.5%、飛び出しが22.4%となっている。このように子どもが安全確認せずに飛び出したことが事故を招くことも多いが、信号機のある交差点の横断歩道を横断中に起きる事故も多い。その要因として、クルマの右左折時、信号の変わり目で無理やり交差点に進入した、横断中の子どもに気付かなかったなど、運転者の不注意によるものが挙げられている。

子供の交通事故を巡る状況

*子供の交通事故とは、幼児・小学生・中学生が関係した
事故を言う。データは警視庁HPより。平成24年中。

時間帯発生状況
夕方4時〜6時に多発

年齢層別・男女別発生状況
幼児・小学生・中学生のうち、小学生が64.8%を占め、男女別では男子の方が多く、中でも、活発な小学生の男子が最も多い。

事故現場から自宅までの距離
歩行中では500m以内が6割を超え、自転車乗用中でも約半数が自宅から500m以内で発生している。

状態別発生状況
歩行中が39.6%、自転車乗用中が60.2%。歩行中では横断歩道や横断歩道付近での事故が多く、自転車乗用中では出会い頭の事故が最も多い。

豊田市交通安全学習センターで行われていること

ここでは豊田市交通安全学習センターで行われている講習の中から、幼児対象の講習と、小学4年生対象の講習の一部を紹介する。ドライバーの方々にも、子どもの行動特性を踏まえて行われる講習内容を、ぜひ参考にして欲しい。

幼稚園講習

幼稚園年中(5歳児)クラスの講習プログラムは、道路の安全な歩き方、信号・横断歩道の渡り方、飛び出しの危険性についての3項目。はじめにシアターで、道路でのさまざまな危険なことを見て、クイズ形式で楽しく学習。次に街のように作られた市街地ゾーンへ出て、実際に歩道や道路での安全な歩き方や、信号・横断歩道の渡り方、飛び出しの危険を体験的に学ぶ。
1 シアター
大型ワイド画面のシアターには、豊田市交通安全学習センターのキャラクター「ひまわりちゃん」が登場。道路を歩くときは手をつないで歩く、道路ではボール遊びはしてはいけないなどをクイズ形式で学習。クイズには椅子の手元にあるボタンスイッチで回答する。園児たちも飽きずに楽しく学べる。
2 信号・横断歩道の渡り方
市街地ゾーンでは、信号の赤は止まれ・青は進め・黄色は注意して止まれという意味を学び、赤信号で待っているときは、歩道の端で待たずに、歩道の奥の方で待つことを習う。横断歩道を渡るときは、「手をあげて、右・左・右、クルマよし」と、子どもは視界が狭いため頭を振って確認することを実践して学習する。幼児の場合は、「危ない」と言うよりも、「こうした方が安全です」と教える方が忘れない、ということを覚えておきたい。
3 道路の危険性
道路で遊ばない、飛び出しは危険だということを学ぶ。市街地ゾーンの狭い道路でボール遊びをし、飛んで行ったボールを追いかけて道路に飛び出したら、走ってきた自転車と衝突! という場面を再現。見ていた子どもたちは驚き、道路でのボール遊びや道路への飛び出しの危険性を、その場で認識した。幼児は時間が経過すると忘れてしまうため、繰り返し教えていくことが大切。
3 踏切の意味
遊園ゾーンにあるミニSLの踏切では、実際にSL用の踏切があり、ここでは踏切の意味を学習。SLが近づいてくると、子どもたちは夢中になって寄って行ってしまうが、警報灯が赤く光ってカンカンカンと警報が鳴り、遮断機が下りてくるのを見ながら、音が鳴ったら、踏切の中へ入ってはいけないこと、音が止んで遮断機が上がったら、「右、左、音よし」と、安全を確認して渡ることを学んだ。
園児達へのご褒美はSLに乗ること。

小学4年生講習

小学4年生の講習プログラムは、飛び出しの危険性、自転車の乗り方の基本、自転車の市街地走行の3項目。シアターでは、自転車で歩道を走る時は車道寄りを走る、止まれの標識があるところでは止まる、自動車の死角に入ってしまうとなぜ危険なのかなどを映像で見てクイズ形式で学習する。次に屋外へ出て、実際にヘルメットをかぶって自転車に乗り、市街地ゾーンで走行練習をする。
1 乗車前の自転車の点検
自転車に乗る前には、「ブタハトしゃべる」で自転車の6つの項目を点検。ブ=ブレーキは前(右側)後(左側)ともしっかりきくか、タ=タイヤに空気が入っているか、ハ=ハンドルは曲がっていないか、ト=灯火(ライト)は明るく光るかどうか、しゃ=車体はゆがんでいないか、反射板はついているか、べる=ベルは大きく鳴るか、自転車に乗る前の点検の仕方を学んだ。

ブ=ブレーキ
タ=タイヤ
ハ=ハンドル
ト=とうか
シャ=しゃたい
ベル=ベル
2 正しい自転車の乗り方
自分に合った自転車は、サドルにまたがったとき、両足のつま先が地面につき、両ひじが軽く曲がることがポイント。動き始めるときは、道路の左端で両手でハンドルを握り、サドルをまたいで左足を地面につけ、右足をペダルにかけて、必ず右後ろの交通状況を確かめて「後ろよし」で右足のペダルからこぎ出す。止まるときは左足を地面につけて、右後ろの安全を確かめ、左側に降りることを学習。
3 ヘルメットの重要性
「生卵をそのまま落とす」→割れる。「生卵をヘルメットに入れて落とす」→割れない。これを実演してみせることでヘルメットが自分の頭を保護してくれる大事なものであることを学習する。
4 市街地走行(大型車による巻き込みに注意)
市街地ゾーンでの走行練習は、自転車が走れる歩道では車道側を走り、車道では左端を走ることを練習。交差点の赤信号でとまったとき、内輪差による左折巻き込み事故の危険を学習するために、交差点の停止線ぎりぎりにとまった自転車の代わりにパイロンを置き、実際にトラックが左折する実験を行なった。つぶされたパイロンに子どもたちも驚き、クルマやトラックの死角を避けるように、運転手から確認されやすい位置で待つことを印象付けた。
5 その他
踏切での安全確認と、安全な渡り方。停止しているクルマがいるときの安全な走行の仕方など、実際の交通状況に応じた走行を学ぶ。

「親だからこそできること」

豊田市交通安全学習センター 伊藤嘉康センター長
交通を巡る学問領域のひとつに、交通場面での人間の行動特性を解明し、交通事故や交通トラブルの防止に寄与することを目的とする交通心理学がある。伊藤センター長は交通心理士でもある。
豊田市交通安全学習センターでは、悲しい交通事故を少しでもなくすために、幼稚園4歳児・5歳児、小学1年生・4年生、中学1年生、高校1年生、老人クラブなどを対象にした交通安全教育を実施している。なかでも、13歳未満の子どもについて、子どもの行動特性をふまえた学習プログラムを組み、各家庭での交通安全教育を呼び掛けている。そこで、伊藤嘉康センター長に子どもの特徴と交通安全教育についてうかがった。

「子どもの特性として認識しておきたいのは、大人と比べて視界が狭いことです。しかも一般的に人間は上方のものを見るのが苦手なので、身長が低い子どもは信号も見落としやすいのです。また身長が低いことによる危険は他にもあります。例えば親子で手をつないで歩いていて、道路を渡ろうと手を挙げたら、手前のクルマが1台止まってくれても、その奥のクルマが止まらない場合もあります。大人は先のクルマの様子を見ることができても、子どもからは手前のクルマに隠れて奥のクルマは見えないので、手を放すと、子どもはそのまま走り出してしまいます」

また、子どもは、信号が青になればパッと走り出してしまうもの。だからこそ、「親は子どもの手をしっかり握って歩くことが大切」と伊藤センター長は強調する。
 
空間認知能力が未発達で、距離感が正しく把握できていないことも、親はぜひ覚えておきたいことだと言う。

「大型トラックは遠くにいても〝大きいから〟飛び出すことは少なく、近くにいる二輪車や小型車は〝小さいから〟大丈夫と誤認してしまいます。大人と違って知識や経験にも乏しいので、危険を危険と感じにくいということもあります」
 
危険を危険と感じない子どもに対して、親の果たす役割は大きい。

「どんな場所でも、通学路にはたいていひとつやふたつは危険な場所があるものです。子どもが小学校に上がったら、一度は子どもと一緒に通学路を歩いてみて欲しいですね。そして、幼児、低学年の頃は褒めて教え、高学年になったらなぜ危険なのか理由を教える。適切な時期に、適切な教育をすることが何より重要なのです。個人差があるのでタイミングをはかれるのは親だけです。大事なのは親子の会話。親は子どもにとって最も身近な存在であるからこそ、会話を通して子どもの成長を確認し、タイミングよく交通安全教育をすることができるのです」と、伊藤センター長。
 
子どもを交通事故から守るには、親にしかできないことがある。親が子どもに関心を持ち、親子で交通安全の意識を持つことを心掛けたい。
豊田市交通安全学習センターは、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を民間の資金と経営能力・技術力を活用して行なうPFI(Private-Finance-Initiative)事業で整備運営されている。豊田交通教育(株)の構成企業であるトヨタ中央自動車学校が維持管理・運営している。
豊田市交通安全学習センター
体験学習を中心として交通安全教育を実施、交通事故の減少を目指すことを目的とし、交通安全学習館のほか、市街地ゾーン、遊具のある広場ゾーン、ミニSLやゴーカートなどで遊べる遊園ゾーンなどの屋外施設がある。幼児から高齢者までが体験学習を中心に、楽しみながら交通安全を学ぶことができる。詳しくは問い合わせを。

所在地:愛知県豊田市池田町小山田494番地24
開館時間:9:00〜17:00 利用料金:無料
休館日:月曜日(国民の休日にあたる日は開館)
TEL:0565(88)5055
URL:www.kotsuanzen.jp
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