女性がモータースポーツをするということ

アヘッド 女性がモータ ースポーツをするということ

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二輪四輪問わず数々の走行会やイベントを主催しているWithme Racingの丸山 浩さんからの誘いを受け、「袖ヶ浦・マル耐」に参加することになった。初めての人もレースに参加しやすいようにと、さまざまな工夫の元、レギュレーションが定められている。この4時間耐久レースを、腰山峰子さんと二人で組み、シトロエンDS3とルノー ルーテシアR.S.の2台で、それぞれ40分を3スティントずつ走った。マル耐を無事終えて、これまでのレースを振り返り、女性がモータースポーツをすることの意味について、もう一度考えてみた。

text:若林葉子 photo:山下 剛
[aheadアーカイブス vol.145 2014年12月号]
Chapter
女性がモータースポーツを するということ
マル耐を終えて

女性がモータースポーツを するということ

腰山峰子さんは、本誌にも何度か登場していただているが、伝説の女性ライダー、堀ひろ子さんの相棒として彼女と友情を分かち合った人である。今は関西を中心にオートバイのレースに参戦したり、若い女性ライダーをサポートしたりしながら、モータースポーツに関わっている。彼女自身、F1ドライバーになるのが夢だった、と聞いていたので、今回、思い切って声を掛けてみたのだ。

クルマでのレースはほぼ初めて、袖ヶ浦フォレストレースウェイも初めて、私と組むのも初めてということで、気も遣い、緊張もし、大変だったと思うのだが、クルマのトラブルもなく、二人で4時間を走りきった。

結果はともかくとして、私が最も感心したことは(予想通りでもあったのだが)、誰に何を言われるまでもなく、わずか2週間ほどの間に、峰子さんが一人で完璧にこのレースの準備を整えていたことだった。レーシングウェア、レーシングシューズ、四輪用フルフェイス・ヘルメット、グローブ(マル耐のレギュレーションでは長袖・長ズボンOK、レーシングウェア等は推奨となっている)。

それから参加申込みに必要な情報などを、私が問い合わせる前に連絡してくれたし、「タイヤ代などは現地で清算させてくださいね」と先んじて言ってくれたし、当日の練習走行の申込みや費用の振込もさっさと済ませてくれていた。つまり、レースには費用も含めて何が必要かを全て把握し、それを自分で負担し、準備するのは当然という前提で動いているのだ。

もちろん、レース歴が長いから当然なのかもしれないが、最初から、必要なコストやリスクを引き受けようとする姿勢の人だからこそ、長い間続けて来られたのだと思う。
私たちがこの耐久レースを走っている同じ日、折しも筑波サーキットではロードスター・パーティレースの最終戦が開催され、このレースで初めて女性がクラス優勝し、表彰台にあがった。小松寛子さんだ。予選でポールを取り、そのまま決勝も順位(NC1―Sクラス)を守りきった。後日、電話をしてみたら、「なんか優勝しちゃいました。まだ実感ないんですよ」と嬉しそうに話してくれた。来年、発売が予定されている新型ロードスターNDの購入も決めていて、レースを続けて行くとのことだった。

普段の小松さんは、肩肘を張らない、いい意味でいたって普通の女性だ。当然だが、仕事をしながら、週末にサーキットで練習をしたり、レースに出たりしている。

そう言えば、2012年にモンゴルラリーにオートバイで出場し、完走を果たした陣内みさきさんは、今は九州の福岡で自ら歯科医を開業し、院長として医院を切り盛りしている。開業に当たってはそれなりの資金も必要だ。銀行との折衝、場所の選定、工事に当たる職人さんとのやりとりなど、すべてをこなしたのだから大したものだ。そして今でも、休みの日には林道を走り、可能な限りラリーのイベントにも参加している。

アマチュアであっても、モータースポーツで結果を出したり、長く続けようとすれば、いや、ただ楽しむために走るのであっても、受け身であっては絶対に無理なのだ。オートバイやクルマで速く走れる、という才能があってさえ、難しい。

モータースポーツにはお金が掛かる。リスクも大きい。それを受け入れた先に、自分に足りていないものを知り、自分で解決できないことは、お金をかけて人に頼む、あるいは誰かの力を借りる。自分を客観的に見つめ、必要な環境を整える。人間関係の構築、お金のやりくり、時間の捻出。社会の中で必要とされるものは、モータースポーツでもやはり必要条件なのである。

前述の腰山峰子さんは、普段は会社の経営者でもある。彼女のバランス感覚の良さや、人を包み込む器の大きさは、元々の性格に加え、仕事によって培われたものであるに違いない。

結局、趣味といえども、それは仕事や生活と切り離して存在するものではない。仕事や生活というベースがあってはじめて趣味は可能となり、趣味で得たものがまた仕事や生活を豊かにする。趣味が深まれば、それは趣味の域を超えて、その人自身と不可分なものとなるのだ。

モータースポーツは女性のハンデが極めて少なく、男性と互角に闘える数少ないスポーツであると言われている。しかしやはり、男性社会の中で女性が同等に力を発揮するのと同じくらいには、強い意識が求められる。そうしてようやく、そのフィールドで男性からも「同じ仲間」として受け入れられるのだ。それだけに、自分の定めた目標を少しずつでもクリアしたり、何らかの結果を出すことができれば、男性よりハードルが高い分、大きな自信を手に入れることができるだろう。
その昔、モンゴルラリーの主催者である山田 徹さんがこんなことを言っていた。「もっとたくさんの人が出場できるように、レギュレーションや費用などモンゴルラリーのハードルを下げてください、と言われることがよくあるんです。でもね、僕はそれは違うと思っている。高いハードルを超えてその場に来た人でなければダメなんです」

今ならその言葉の意味がよく分かる。︎

一方で、丸山 浩さんのように、↘︎初心者にもレースの醍醐味を味わってもらえるように、と工夫を重ね、マル耐のような「レース形式の走行会」を主催する方もいる。実際、マル耐は何人で参加してもよく、クルマごと交代してもよく、マシンのレギュレーションもガチガチにはしていない。7回目を迎える今も、参加者には毎回ブリーフィングで、「慣れている人は初心者に対して無理な追い抜きなどをしないように」と言い続けている。そのせいか、皆とても紳士的で、パッシングをされたり、真後ろにぴったり付かれたりということはなく、楽しめた。

主催者の努力によって実現しているマル耐のようなレースが今後もなくならないように、初心者は、初心者の立場に甘んじないように準備をしなければならないと思う。

かつて堀ひろ子さんが自ら立ち上げた女性だけのバイクレース「パウダーパフ」を解散したときの言葉を私たち女性は忘れてはいけない。

『これだけのおぜん立てをしなければ集まらないようなレースなら、つづけても無意味だと思ったからだ。レースは各人にヤル気がなければできるものではないし、安易な気持ちで参加することは、とても危険だ。そこでは男も女もないはず。女だからといっていつまでもぬるま湯につかり、そういう環境が保証されなければつづけることができないのならやめるべきだ、と考えた』

私自身、振り返るのも恥ずかしいほど甘々な人間だった。周りに叱られたり、痛い目にあったりするうち、少しずつレースに参加することがどういうことなのかを理解するようになった。ある意味、レースによって鍛えられたのだ。

このページは「女性がモータースポーツをするということ」というタイトルだが、もはやこのタイトル自体が時代に合わないなと思い始めている。男性の真似をしたり、男性と同じようなことをする必要はないが、女性だからという発想を超えたところがスタート。

峰子さんのようにモータースポーツに関わりながら実生活でも輝いている女性に接するたび、自分もそうなりたいと思わずにはいられない。

マル耐を終えて

みんなの「お母ちゃん」的存在で若い女性のサポートをしています。

初めて四輪のレースを走ってみて、やはり二輪のレースとは全く別物だと思いましたね。何が一番違うかというと、バックミラーです。二輪にはバックミラーはないので、基本的に後続車には気付かない。速い人が勝手に抜いて行ってくれるんです。だから自分の走りに集中できる。

でも四輪はバックミラーに全ての後続車が映る。後ろから他車が迫って来ると、「うわぁー、インをあけなきゃ」ってものすごいプレッシャー。周りのクルマが気になってしまって、なかなか自分の走りに集中できない。

40分を3スティント走りましたが、最初のスティントはコースに慣れるのに精一杯。上手く走れず、落ち込みました。神尾さんに「勝手に抜いて行ってくれるから、他のクルマは気にしないで」とアドバイスをもらって走った2スティント目は、ものすごく楽しめました。タイムも大分縮まりました。最後のスティントはさすがにスタミナ切れ。それとタイムをもっと出そうという気負いもあって、コースに出てから3周目に左コーナーで思いっきりスピンしてしまって。後続車がフルブレーキングしたのが分かりました。でも皆さん紳士的で、とても楽しめました。

私たちの若い頃と違って、レースを取り巻く環境は決して恵まれているとは言えません。そんな中で仕事をしながらレースをするのは本当に大変なことですよね。大したことはできないのですが、少しでも役に立てたらと、「みんなのお母ちゃん」という感じで、女性ライダーのサポートをしています。結局、私がしてあげている以上に、彼女たちからいろんなものをもらっています。
自分でリスクを取りに行くことで、危機に強い人間になる。

今の社会は安定志向で、みんなリスクを回避することばかり考えているように見える。でもそれはかえって危険なことのように思えるんです。この世を取り巻く状況は常に変化していて、何が起こるかなんて誰にも予測できない。実際に何かが起こったとき、それまで何のリスクも経験していなければ、どうしていいか分からないんじゃないでしょうか。

でもモータースポーツは常にリスクの中にいる。自分からリスクの中に飛び込んでいるわけです。そこで鍛えられるものは大きいんですよ。僕には日本は強い社会であって欲しい、という思いがどこかにあるんです。だからたくさんの人に、レースを楽しんでもらうことはもちろんですが、リスクと向き合う体験もしてもらいたいと思っている。

マル耐は初心者がレースを体験できる場として主催しています。一般のレースはクルマにしても、レーシングギアにしてもレギュレーションでがちがちに固められているので、ものすごくお金が掛かる。出たいと思っても出られないんですよ。今回が7回目でベテランも多いのですが、マル耐に関してはベテランに我慢してもらうことにしています。理想的にはベテラン勢が本格的なレースにステップアップしてくれればいいのですが、お金が掛かり過ぎて難しいんです。それが現状。だからマル耐では、ベテランが同じレースを走ることで、初心者のお手本になる、というか、うまく初心者をリードしていってくれたらと思っています。

レースからリスクは切り離せない。でもそれに自ら立ち向かうことで得るものは大きい、と声を大にして言いたいですね。
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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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