今、私が伝えたいこと

二輪、四輪を問わずモータージャーナリストの役割は、時流に沿った新しい情報や社会的な問題を発信していくことである。しかし情報発信の専門家であるがゆえ常に中立であり、考えていることを率直に語ることは少ない。今回は、自らの想いや普段から感じていることを4人のジャーナリストにフリースタンスで語ってもらった。

text:清水和夫、後藤 武、吉田拓生、小林ゆき photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.161 2016年4月号]

W124の神話性

アヘッド 今、私がしたいこと

text:吉田拓生


英国の友人、サイモンはバイセクシャルだった。彼らのような人物は幅広い「性」を愛することができるので、結果的に知能指数が高いのだと言っていた。それが直接的に「今、私が伝えたいこと」ではもちろんない。けれど今回の自分のホメ方とは方向性が似ているかもしれない。

古いクルマだけを愛しているわけではない。英国車だけを愛しているわけでもない。かつての愛車はアメ車だったり、フランス車だったり、日本車だったことももちろんあるし、ドイツ車である時期も長い。年式にしたって新車から半世紀落ちまで新旧様々。

ようは気の向くままに雑食。良く言えば、視野が広いのだ。だからといってボクのクルマ知能指数が高い? こればっかりは自分で言っちゃカッコ悪い(言ってるか……)。

クルマ好きなら誰でも、愛車遍歴は壮大な旅としてあるはずだ。大枚をはたいた趣味の結晶、その連鎖なのだから、それはきっとアテのない旅と言うわけではないだろう。それをボクは、いつしか「ホンモノ探しの旅」だと考えるようになった。

アヘッド 今、私がしたいこと

サーブやポルシェ、モーガンやランチアには大いに興味が湧いたが、今のところ縁がない。インポーターが撤退するから言うのではなく、惚れ込んで都合5台乗り継いだから言うのだけれど、フォードは気のいい友達だったが、ホンモノかといえばそうではなかった。

あれは引き算から生まれた産物。E30のBMWには大いに感心させられたが、メルセデス190Eに乗り換えたら、ビーエムのイメージはとたんに色褪せた。ホンモノはメルセデス、という結論ほどありきたりなストーリーはないだろう。けれども、これはひとつの真実だ。

イチキューマルに惚れ込んだ好き者が向かう先はイチニーヨンしかない。W124型のEクラスである。W124は「ボディ剛性とはなにか?」、「ロールスピードなんたるか?」といった自動車評論に欠かせない表現を実際に体感するためのシミュレーターとしてある。

実際にギョーカイの中には、今なおけっこうな数のW124オーナーがいる。新車のメルセデスを取材する現場に、編集者、カメラマン、そしてライターであるボク自身がそれぞれ20年落ちのW124で駆け付けたこともあったぐらいだ。

ヤナセの担当も「W124にお金を注ぎ込み続けるオーナーは珍しくありません」と言い切るし、清水和夫先生だってその操安性が「宇宙一」だと断言していた。ホンモノだからこそ今でも熱狂的な信者が多く、補修部品だって純正以外にたくさんのジェネリックが出回り、オドメーター20万キロはヒヨッコ、みたいな話になってきているのである。

個人的には、部分的にヤレが進んで違和感が出はじめる190Eより、バランスよくヤレることでストレスを感じさせないW124の方がやっぱりいい。伝え聞いていた通りのホンモノだと実感している。

アヘッド 今、私がしたいこと

ここまでチューコのメルセデスをホメちぎっておきながら、しかし「今、私が伝えたいこと」のオチは「みんなでW124を買いましょう」ということではない。W124だけがホンモノだなんて言うつもりは毛頭ないし、ボク自身そろそろ新たな発見を求めて旅に出なければ、と考えているところでもある。

今回のオチは「ホンモノを探すための視野はできるだけ広く持ちましょ~」ということ。新車主義の人も多いし、認定中古車じゃないと色々コワい、輸入車は不安だ、7人乗れないとヤダ、軽自動車なんて安っぽくてキライなんて人もいるだろう。けれどもそんなチッポケな概念に縛られていたら、探し物は見つかるまい。

戦前のベントレーにはスロットルペダルとブレーキペダルの位置が逆のモデルがある。アストン・マーティンDB7はニューポートパグネル製ではないし、実はけっこうユーノス・ロードスターの部品が使われていたりする。KTMクロスボウをドリフトさせるのはF40を滑らせるより難しい。けれどみんな、ガッツリと、紛うことなきホンモノなのである。

じゃあホンモノ、ホンモノって、一体ホンモノの基準はどこにあるのか?  

とどのつまり、自分が納得できるクルマがあれば、それがホンモノなのである。出会いを求めて本誌あたりを熟読していれば、それなりに「W124はスゴイ」、「○×は意外とダメだ」とかなんとかヒントが書いてあるので的は絞れるだろう。それでも、決めるのはあくまで自分であるべきだ。

さぁ、出発の時間ですよ。

●メルセデス・ベンツ W124
メルセデス・ベンツが1985〜1995年にかけて製造したミディアムクラスであり、初代Eクラスのこと。安全最優先の高いボディ剛性、人間工学に基づく機能重視のデザイン設計が“メルセデス・ベンツらしい乗り味”“ドイツ車らしさ”を生み出し、世界中で支持を集めた。「最善か無か」という開発哲学を体現した最後のモデルとして、未だに人気が衰えない名車である。なお「W124」はコードネームであり、吉田氏の愛車は、直列6気筒のE320。


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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。

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