ECO 時事通信 vol.11 日本発がもたらした変化

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日本に比べると、ガソリンやディーゼルなどエンジン(内燃機関)への思い入れが強く、また現実的で合理主義的なところもある欧州の自動車メーカーは電気自動車にはあまり積極的ではないのかと、以前は思っていた。

text:石井昌道 [aheadアーカイブス vol.111 2012年2月号]
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vol.11 日本発がもたらした変化

vol.11 日本発がもたらした変化

実際に欧州メーカーのエンジニアにインタビューすると「将来的に電気駆動へ向かっていくことは間違いなく、マイルドなものも含めてハイブ
リッドカーは拡がっていくだろうが、まだ当分はエンジンが主役。電気自動車はごく一部のニーズに限られる」というニュアンスがほとんどだった。そういった際の表情からも、エンジンへの愛着が深く、

どこか電気系に醒めているように見えたものだ。日本と違って自動車を自動車らしく走らせられる欧州の道路環境は羨ましいもので、ユーザーも操る実感を持てるエンジンを支持するだろうとも感じていた。日本でもクルマ好きほど電気自動車に懐疑的な人が多いが、その傾向が強いのだということで納得がいく。   

また、自動車業界の大方の予想とも反していない。例えばボッシュは2020年の世界の新車販売台数は、現在の約7000万台から約1億台にまで増えると見積もっているが、そのうち電気自動車は300万台(3%)と予測。他にも、自動車メーカーのトップや幹部エンジニアにインタビューしてみると、2020年の電気自動車の販売シェアは5%程度というのがほとんどだ。
 
だが、最近になって微妙にニュアンスが変わってきている。一応は電気自動車をやっていますというアリバイづくり的に欧州メーカーもモーターショーで多くのコンセプトカーをリリースしてきているが、それが現地でも若い人からのウケが想像以上にいいようなのだ。

以前は電気自動車に対して醒めていたエンジニアも「電気自動車のコンセプトカーを造ったら、うちの社内の若者たちが『発売されたら絶対に買う!』と騒ぎ出してね。意外な反応だった」と少々困惑気味に語っていたりする。
 
日本では若者のクルマ離れが叫ばれて久しいが、どうやら欧州でも徐々にそれが進行し始め、意識が変わってきているようだ。クルマから興味を失ったように見える若者たちは、電気自動車になら関心を示すことが多い。おそらくそれは環境意識の高さというよりも、スマフォなどとの親和性が高く『繋がるクルマ』であることが要因。スタンドアローンなだけのエンジン車では愛着が持てる対象にならないのだ。

「日本の自動車市場で起きる現象は、数年後の欧州を予測するうえで参考になる」と言われている。日本は新しいモノに飛びつくのが早く、流行すると一気に拡がっていくという特徴があって、アンテナショップのような市場であるのは間違いない。

古くはパワーウインドーやカーエアコン、少し前ならカーナビやETC、最近ならハイブリッドカーに『ぶつからないクルマ』と称する予防安全技術。これらの普及率は他の国を圧倒するほど高いのだ。  

電気自動車にしても、すでに一般ユーザー向けに市販されているモデルが2車種もあるのは日本だけ。まだ大成功というところまではいっていないが、高くて不便なわりには順調なスタートを切ったとみていいだろう。この現象が欧州にも波及するという見方が出始めているのだ。
 
ボク自身も、冷静に電気自動車をみた場合、車両価格や利便性からしてあまり早期の普及は見込めないと思っていたのだが、若い世代の意識がブレークスルーの原動力となり、日欧米など自動車成熟市場では予測よりずっと早いペースで拡がっていくかもしれないと感じ始めている。旧世代のクルマ好きとしてはエンジン車も大切にしたいところだが、潮目が変わり始めているのは間違いないだろう。

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text : 石井昌道/Masamichi Ishii

自動車専門誌編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦経験も豊富。エコドライブの研究にも熱心で、エコドライブを広く普及させるための活動にも力を注いでいる。
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