新たなるアガリのバイク

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写真のオートバイの前輪をよく見てほしい。フロントフォークを使用しない「ハブセンターステアリング」と呼ばれる構造になっている。

text:神尾 成 photo : 渕本智信 [aheadアーカイブス vol.132 2013年11月号]
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新たなるアガリのバイク

新たなるアガリのバイク

〝ハブセンターステアリング〟といえば、'80年代初頭の世界耐久選手権や、「ロン・ハスラム」が世界GP500㏄クラスで駆ったフランスの「elf(エルフ)」を思い出す人もいるだろう。また市販車においては、「ビモータ」の「tesi(テージ)」が1990年から歴代のシリーズにこの方法を取り入れている。

ハブセンターステアリングのメリットを簡単にまとめると、ブレーキング時の姿勢変化が少ない(ノーズダイブがほぼない)、コーナリング中の安定感が高い(横方向の剛性に優れる)、マスが集中して軽量化できるなどが挙げられる。

反対にネガな部分としては、ハンドル切れ角が少なく小回りが利かない、リンクを介するのでハンドル操作のダイレクト感が乏しいなどだ。いずれにせよ構造が複雑でパテントも絡むせいか、表舞台に登場して30年以上たった現代でもハブセンターステアリングはレアな存在と言えよう。

あまり一般的な〝仕組み〟ではないハブセンターステアリングは、自分には関係ないものと今まで見向きもしないでいた。だが40代最後の年齢を迎え、「やり残している新しいこと」はないかと考えているうちに急に興味が湧いてきたのだ。
今回紹介するイタリアの「VYRUS(ヴァイルス)」というメーカーが制作したハブセンターステアリングの「VYRUS 984C3 2V」は、ドゥカティの空冷2バルブエンジンをオリジナルのアルミフレームに搭載した個性的なオートバイだ。

実際にVYRUSを試乗してみると、慣れ親しんだコーナリングとは異なる新たな特性を持っていた。そのコーナリング感覚は硬質かつ二次元的で、例えるならジェットコースターの曲がり方に近い。乗り方もハブセンターステアリングの利点を生かすため、ニーグリップに頼らず踵で車体をホールドし、膝の下でエンジンを遊ばせておく必要がある。

そして意識的に深くリーンさせると、VYRUSはプログラムされたようにラインをトレースしていくのだ。コーナリングに対する組み立て方が、どこか四輪車的だったのは驚きの発見であり「乗りこなしたい」と久しぶりに思わせるものだった。

'80年代の性能競争の中でオートバイ生活をスタートさせた自分たちの世代は、「歳をとったのでゆるいバイク」とは簡単に割り切れないはず。なぜなら、「性能を追求していくことが正義」と刷り込まれているからだ。

その機械の〝仕組み〟が興味深く魅力的で、それを征服してみたいと気概が生まれるチャレンジングなカタチこそ、この世代がオートバイに求める大きな要素ではないだろうか。

機能美とも取れる斬新な出で立ちや、多勢に対しての〝立ち位置〟なども含めて、アラフィフ世代におけるVYRUSの存在価値は高い。
VYRUS(ヴァイルス)984C3 2V
為替レートやオーダーする装備内容によって変動するが、乗り出し価格は日本円で500万円から。センターアップのドゥカティ水冷4バルブ仕様も存在。「トム・クルーズ」の愛車としても有名である。

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text:神尾 成/Sei Kamio 
1964年生まれ。神戸市出身。新聞社のプレスライダー、大型バイク用品店の開発、アフターバイクパーツの企画開発、カスタムバイクのセットアップ等に携わり、2010年3月号から2017年1月号に渡りahead編集長を務めた。現在もプランナーとしてaheadに関わっている。
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