埋もれちゃいけない名車たち vol.70 幸せの赤いファミリア「マツダ・4代目ファミリア」

アヘッド マツダ・4代目ファミリア

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誇りを失わないでいるために見栄のひとつぐらい張らなきゃならないとき、というのがある。それはもう致し方ない。でも張らずにすむのなら、そっちの方が穏やかに過ごせるというのも確かな事実。クルマ選びに関しても同じで、フトコロ具合的にも精神的にも等身大といえるチョイスができ、満足がいくのなら、それに越したことはないと素直に思う。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.186 2018年5月号]
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vol.70 幸せの赤いファミリア「マツダ・4代目ファミリア」

vol.70 幸せの赤いファミリア「マツダ・4代目ファミリア」

そんなことを考えていたら、1台のクルマが頭に浮かんできた。1977年に少なくとも物心がついてた人じゃないと話に乗れない可能性もあるけれど、ある映画に登場するクルマが、それを駆る登場人物にとっての見事なほど等身大なチョイスだったように思えたのだ。クルマはマツダの4代目ファミリア。映画は当然『幸せの黄色いハンカチ』である。

同年に公開されたこの映画は、今もって〝日本のロードムービーの最高傑作〟と評され続けている。監督は山田洋次。出演は高倉 健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり、渥美 清……と今にして思えば素晴らしく豪華な布陣だ。御覧になったことのない方には、ぜひ機会を設けていただくことをオススメしたい。

その方達へのネタバレになるのはイヤだから詳細には触れないが、話はとある若者がディーラーでファミリアを購入して北海道を目指すところから始まり、旅の途中で出逢ったワケありの男を彼の本来の住処へ送り届けるところで終わる。その間、北の美しい風景の中を、赤いファミリアがほとんど出ずっぱりで走り続けるのだ。

4代目ファミリアは当時の欧州の流れを睨んで2ボックスのハッチバックへと転身したモデルで、ファミリアとしては最後の後輪駆動。エンジンは1.3リッター直4の72‌psながら車重が800㎏少々と軽量で、後年になって走らせてみたとき、思いのほか活発で驚かされた。

そうした小さくて身軽なところ、どことなく野暮ったくて不器用そうでいいヤツっぽい雰囲気、当時としては珍しかった分割可倒式の後席を倒してフラットにできる荷室に様々なモノを──夢さえも──積んで走れそうなところなど、このドラマの主役のひとりである若者に見事に重なる。

温かな気持ちになれるハッピーエンドの映画は見た者に感動を与え、幸せな気持ちをもたらした。映画は様々な賞を総ナメにして、大ヒットした。

〝町工場をヤメた若者が退職金で買える4ドアのスポーツ・タイプ〟ということで選ばれたファミリアも、デビュー3年で90万台近くをマークするほどのヒット作となった。

黄色いハンカチの魔法だけがファミリアのヒットの理由ではないが、〝ファミリア〟と〝幸せ〟が僕達の意識の中でイコールで結ばれることになったのは確かだ。あれほど街を走っていたのに今やまず出逢うことがないのが、ちょっと寂しい。

マツダ・4代目ファミリア

4代目マツダ・ファミリアは、1977年1月デビュー。それまでは3ボックスのセダンとクーペだったが、ヨーロッパで2ボックス・スタイルが急速に普及していた動きを鑑みて、後輪駆動のまま2ボックスの3ドア/5ドア・ハッチバックとして開発された。

ハッチバックという見た目も使い勝手も活動的で遊び心のあるスタイルや、1.3リッターながら走りが軽やかだったことなどが受けて、若者を中心に人気となり、販売も好調。オイルショックにより燃費の悪いロータリー・エンジン搭載車が大打撃を被って危機的状況に陥ったマツダを支える救世主的なモデルだった。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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