ミラノ・コモ湖・ヴェネチア イタリアン・ジョブ up & Passat 試乗会

新しくなったup!で行く壮麗なるミラノの街

アヘッド パサート
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私は3年ほどポロのオーナーだったのだが、飽きのこないシンプルで端正なポロのデザインを最後まで気に入っていた。いい意味で人の感情に障らないニュートラルなデザインは、どこにでもあるようで、探してみると案外見つからないものだ。

そういうデザインがフォルクスワーゲンのスタンダードだと思っていたから、ガジェット的な色合いの濃いup!に驚いたのである。

発表と同時に来日した、当時のデザイン責任者、ワルター・デ・シルヴァ氏が、「プロダクトデザイン的なアプローチでデザインした」というのを聞いて、なるほど、と納得したのだった。

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今回、up!のマイナーチェンジに合わせて行われた海外試乗会に女性ばかり5名(ジャーナリスト3名、編集者2名)が招待された。試乗したのはミラノ~コモ湖を往復する200㎞弱のコース。

ミラノはup!をデザインしたデ・シルヴァ氏の故郷であり、デ・シルヴァ氏にはup!をミラノに似合うクルマにしたいという想いがあったと聞いた。そう言われてみると、確かにミラノの街にup!はとても似合っていた。

up!はガジェット的ではあるが、シンプルであることもまた事実である。「携帯電話のような最先端のテクノロジーに囲まれた現代の若者は機能的でシンプルなデザインを求めている」(デ・シルヴァ氏)

だからか、私たちは今、何もかもが複雑なものに囲まれすぎている。そのうえ、デザインまで複雑になったらお手上げだ。

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交通量の多いミラノの中心部を撮影しながらコンボイで移動するのはなかなか神経を使うわけだが、up!は結構、無敵だった。小さいから停めやすい。狭い路地でも取り回しやすい。MTも扱いやすい。第一、にっかりと笑ったような親しみやすい顔が、異国の道を走る私の緊張感をほっこりと和らげてくれる。

この日、外気温は38℃まで上がって、外にいると意識が朦朧とするほど。ヨーロッパきっての避暑地と言われるコモ湖でも、これでもかと照りつける太陽に閉口した。up!のエアコンは温度設定をめいいっぱい下げて、風量は全開。1ℓ3気筒のエンジンで、3人乗って、それでも高速道路ではしっかり130㎞/h巡行できる実力はさすがと感心した。

涼しげな顔したパサートでドラマティックなヴェネチアへ

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up!でミラノ~コモ湖を往復した翌日は、パサート(2ℓTSI)でミラノからベルガモ、そしてヴェネチアに向かう試乗である。乗るクルマが違うと、気分もこんなに違うものなのだろうか。

ベルガモの旧市街の、車幅ぎりぎりの狭い路地を行くのは神経をすり減らしたが、高速道路を走る時の自信にあふれた感じと言ったらない。どこに出ても恥ずかしくありません。そんな気分だ。

というわけで、追い越し車線をがんがん走ったのだけれど、それには他にも訳があって、宿泊地のヴェネチアへと気持ちがはやっていたからだ。

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水の都、ヴェネチア。本当は特別、行きたいと思ったこともなかったのだけれど、今回の行程に含まれていると知って、急に期待が高まったのだから、げんきんなものだ。

ヴェネチアに入るには当然、橋を渡らなければならない。が、そこからして想像していたのとは違った。鉄道と並行して走る自動車専用道路、リベルタ橋がまっすぐに伸びており、海の向こうの街が少しずつ大きくなっていくところからしてドラマティックだ。

橋を渡りトロンケット島の駐車場にクルマを停めて、水上タクシーに乗り換える。ここからは船に揺られながら、サン・マルコ広場に近い船着場まで、短い運河の旅。

まるごとディズニーランドのよう、と言って、「6000万人のイタリア人が怒るぜ」と顰蹙を買ったが、それほどに、最初、私には、ヴェネチアがこの世のどこでもない場所のように思えた。

戦いで追われた人々によってヴェネチアの歴史は始まった訳だけれど、水の上にこんな都市を築いてしまうとは。しかもヴェネチアを囲むラグーナ(潟)は生きた自然で、満ち引きもあれば高潮もある。今も豊かな漁場なのだ。生きた自然の上に作られた完全なる人口の都市。

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ホテルにチェックインしてから夕食までの短い時間、ぶらぶらと路地を歩く。縦横無尽に細い水路が巡り、小さな橋がいくつも掛かっている。この世のどこでもない場所のように思えた街には、しかし案外、しっかりと人の暮らしがあるようだった。

水路に停まった船から荷物を降ろし、手押車で運ぶ人夫の姿もあった。考えてみれば、あらゆるものを外から運び込まなければならないが、街の中はクルマの往来はできないから、人の手に頼ることになる。縞模様のシャツを着た船の漕ぎ手たちといい、どっしりと、人が生きている。

水の上に築かれた都市という物理的な条件によって、おのずと昔ながらの暮らしのスタイルが守られていると言えるかも知れない。

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夕食の後、楽団の奏でる音に誘われてサン・マルコ広場に出た。広場の周囲はカフェが埋め尽くしている。中東のアラブ世界に起源を持つカフェが、最初にヨーロッパにもたらされたのはヴェネチアと言われている、ということを後から知った。飲み物としてのカフェがもたらされたのは1638年、店舗としてのカフェが登場したのは1683年だそうである。

調べ始めると興味は尽きないが、ヴェネチアにはこれまでの旅では感じたことのない高揚感というのか浮遊感というのか、とにかく不思議な感覚を抱かされた。

帰りの水上タクシーを待つ間、ひっきりなしに船着場から降りてくる人たちや、水際の石畳を埋め尽くす観光客を眺めていた。肌の色も背格好も話す言葉もさまざま。あらゆる人種が集まっている。交易都市として発展したヴェネチアには珍しくもない光景なのかもしれない。

嵐の前の、うねり立つ波に船ごと大きく揺られながら、観光客で沸く水の都を後にした。おまえはいったい何者なのか。仮面祭でも有名なこの街にそう問いかけられているようで落ち着かない私を、駐車場のパサートは、「自分は自分」と、少しも変わらない涼しげな顔で待っていた。


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text・若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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