実は奥が深いフォーミュラE

アヘッド 奥が深い

9月13日、フォーミュラEの開幕戦が中国の首都、北京で行われた。2008年北京オリンピックのメインスタジアム、通称「鳥の巣」の周囲に設定された全長3・453㎞の公道がコースである。レースは、ガードレールに挟まれたこの市街地コースを25周して行われた。

「フォーミュラ」とは4本のタイヤがボディに覆われておらず、むき出しになった形態を指す。フォーミュラ・ワン、すなわちF1を思い浮かべればわかりやすい。フォーミュラEの「E」はエレクトリック、すなわち「電気」だ。F1のような形をした電気自動車でレースを行うのがフォーミュラE(以下FE)である。

そう思ってFEを眺めると拍子抜けするかもしれない。スタートの瞬間からしてF1とは違うからだ。F1では各車がエンジン回転を高めるため、スタートの瞬間は轟音がサーキットを包み込むが、FEの場合はまったくの無音である。エンジンは回転数を高めないと力を出せないが、モーターは回転を始めた瞬間に大きな力を発生させられるからだ。

静かだから間を持たせようというわけではないだろうが、観客席には大きなスピーカーが設けられており、そこから常にエレクトリックサウンドが流れている。表彰台にはDJならぬ「EJ」ブースがあって、奇抜なコスチュームに身を包んだEJが選曲を行っている。ミックスが気に入ったなら、オフィシャルアプリからダウンロードすることが可能だ。

これまでの説明でも、「なんだか様子が違う」と感じたことだろう。FEはF1の電気版なのではない。車両もレースの形態もまったく異なる。あるドライバーがF1との違いについて聞かれ、こんなふうに答えた。
「比べることに意味はないよ。F1とWRCを比べて、あっちが遅いとかこっちが速いとか比較することに意味はないだろ。それと同じ。FEはまったく新しいカテゴリーだ」


FEを牽引するCEOのA・アガグ氏は「FEは電気自動車が持つ可能性を示すショーケース」だと語り、つぎのようにつづけた。
「開幕戦に北京を選んだのには理由がある。この地域は深刻な大気汚染に悩んでおり、街の空気をクリーンにする取り組みに積極的だ。そのひとつが電気自動車の推進。この国の子供たちが初めて買うクルマは電気自動車になるかもしれない。その意味で、電気自動車の可能性を示すレースを見せることはとても重要だ」

高い理念を掲げてはいるが、未完成な部分も含めて包み隠さず見せているのが実状だ。レースでは各車必ず1回ピットに入り、マシンを乗り換える。娯楽性を高めようとしているのではなく、単に電池が持たないからだ。レース距離はたった86・325㎞(F1は約305㎞)なのだが、現時点での技術ではレースの途中で充電済みのマシンに乗り換えるのが合理的なのである。

もちろん、大きなバッテリーを搭載すれば乗り換えなしに走り切ることは可能。だが、それでは重くなってしまい、運動性能を大きく損なってしまう。同様に300㎞/hの最高速を実現することも技術的には可能だが、電費を優先するためにあえて225㎞/hに抑えている。

モーターの最高出力は200kWだが、レースでは150kWに抑えて使うのも同様の理由。ただし、ファンブーストと呼ぶ人気投票の上位3名は5秒間だけプラス30‌kWのパワーブーストを使う権利が得られる。アドバンテージのように感じるかもしれないが、貴重なエネルギーを浪費することにもつながるため、使うタイミングには熟慮が必要だ。

FEは最先端の技術を集めた電動車両で行うレースだが、実は成熟した技術を用いているわけではなく、進化が求められてもいる。ワイヤレス充電の設備をコースに埋め込み、走りながら充電する夢のような構想もある。我々は歴史的な進化のスタートを目の当たりにしているのだ。

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