オンナふたりでスーパーセブン

〝楽しい〟という言葉は安易に使わないようにしているが、このクルマを〝楽しい〟と言わずして何と言おうか――。

「セブンでツーリングに行きませんか」というお誘いを、Facebookのメッセージを通して受けたのは9月のことだ。メッセージの送り主は篠原紀子さん。ご主人の篠原祐二さんは本誌にも何度かご登場いただいたが、ウィザムカーズというブリティッシュカーのショップを経営されている。紀子さんとはそんなご縁で知り合った。彼女は働きはじめてすぐ、23歳のときにロードスターNAを買って練習したというから、クルマのキャリアは長い。

当然、お店のお客さんはコアなクルマ好き。ゆえにそんな男性陣に混じってツーリングに行くと、めいいっぱい走る、走る、走る。たまにはトコトコ走って、出掛けた先でゆっくりお茶でもしながらおしゃべりして。そんなツーリングもしてみたい。それで、私に声を掛けてくれたのだ。

だから本当は完全プライベートで出掛けるつもりだったのだが、直前になって、やっぱりもったいない、と撮影することになった。

当日、いきなりでは不安なので、紀子さんに隣に乗ってもらい、お店の周辺をぐるっと一周回ってみることにした。私がお借りしたのはケータハム『セブン160』。SUZUKIの660cc直列3気筒DOHCターボエンジンを積み、軽自動車枠で登録されたことが話題となった。今、もっとも注目されているスーパーセブンだ。

クルマに乗り込むところから、すでに普通のクルマとは違う。まず左足を入れて、手で体を支えながら右足を入れて、よっこいしょと運転席に身体を納める。

アクセル、ブレーキは問題ないが、身体の小さい私にはクラッチが…遠い。背中にクッションを足して、クラッチを奥まで踏み込める位置に調整。次に、ひと通り操作方法を教わる。ウィンカーはトグルスイッチを右・左へ倒すだけだが、自動では戻らないので、自分で元にもどさないといけない。

ギアは5速。走り出す前に、試しに順にシフトチェンジしてみる。シフトノブがとても短い。まだちょっと不安だが、私以上に不安そうなお店の人たちに見送られながら、ギアをローに入れてゆっくりとアクセルを踏んでみる。すーっと発進。おっ、意外と素直だ。最初のフィーリングが良かったので、その後はいつも通りに2速に入れ、次に3速に入れ、シフトアップしていく。

おーー、何だか気持ちいい。風で髪がばたついている。少し慣れて来て調子に乗って走っていたら、水たまりを踏んでしまった。そのとたん、ビシャッ。水が跳ねて顔にまで掛かった。なるほど、セブンに乗るということはこういうことなのだ。普段なら考えられないが、泥水が掛かったというのに、少しも嫌にはならず、むしろ益々楽しくなってしまった。子どもの頃に戻った気分だ。

クルマの鼻先が長いことにも初めはとまどったが、すぐに慣れた。重ステと聞いて心配していたが、タイヤが細いせいかハンドルの重さもほとんど感じない。アシスト機能が付いていないのでブレーキの効きがやや甘い気がしたのだが、車重が軽いから踏めば踏んだだけしっかり効くことにも気付いた。試乗しているうちに、不安材料はほぼ払拭された。

紀子さんも一応、安心したのか、いよいよツーリングに出発することになった。紀子さんが乗るのはロードスポーツ200(現行のセブン250)。最もベーシックなスーパーセブンと言ったらよいだろうか。

向かう先は群馬県の赤城。高速道路を走るので、二人とも髪をまとめ、日除けも兼ねて帽子をかぶる。準備OKだ。お店を出るとほどなく高速道路に入る。こんなに車高が低くて屋根がないと、高速道路は大変なだけじゃないかと思っていたけれど、全然そんなことはなかったのが自分でも意外だった。時速80㎞くらいでも十分に速度感を感じられるし、それにとにかく周囲がよく見える。周りのクルマの動きも把握しやすいし、自分がこうしたいと思って操作をすれば、クルマがクイックに反応してくれるのでストレスがない。軽自動車と同じエンジンと聞くと「本当のところ、どうなの?」と思っていたのだけれど、エンジンの〝味付け〟とはこういうことなのかと感心する。

「これはいいな」と心でつぶやいているうち、高速道路から一般道へ。下道は何もかもが近い。少し背の高い草が群生していると、本当に緑の海原の中を走っているように思えるし、いろいろなものの匂いが真近を通り過ぎて行く。ウィンカーの戻し忘れを何度もしたけれど、それもご愛嬌。途中、坂道で止まったとき、サイドブレーキをうまく引けずに発進に難儀していると、紀子さんが後ろからクルマを押してくれた。ギアをニュートラルに入れれば女性でも一人で動かせるほどにこのクルマは軽い(車重はわずか490kg)。

運転している間、ずっと、いいなー、いいなーとつぶやいていた気がする。ロードスポーツ200の方は、ベーシックモデルとは言え、それなりに元気な走りをする。でも160は本当に女性でも問題なく運転できると思う。乗り心地もなかなかのもので、ゴツゴツもしないし、跳ねたりもしない。今回は3000回転くらいでシフトアップしながらトコトコと走っていたのだが、まったくピーキーな動きはしなかった。安心して運転できる。でももっと回せば、恐らく、ピュアスポーツと言われるような、かなりスポーティな走りもできるはずだ。逆に言うと、男性でも、詰まらないなんてことには全くならないだろう。

アヘッド オンナふたりで

●CATERHAM SEVEN160
車両本体価格:¥4,135,000(消費税込)
車両重量:490kg
エンジン:Suzuki660cc 直列3気筒DOHCターボ
最高出力:80ps/7,000rpm
最大トルク:10.9kgm/3,400rpm

●SEVEN250
車両本体価格:¥4,752,000(消費税込)
車両重量:550kg
エンジン:FORD Sigima 1,596cc DOHC
最高出力:120ps/6,000rpm
最大トルク:15.8kgm/4,000rpm

問い合わせ先:ウィザムカーズ
03(5968)4033 www.witham-cars.com

このクルマに乗ると「シンプル・イズ・ベスト」は真理だと改めて思う。クルマに関わらず、今はいろいろなものにいろいろなものが「付き」過ぎてはいないだろうか。「付き」過ぎると、その分、クルマは重くなり、本来の仕事をこなせなくなる。いろいろなものが「付いている」とお得だと思っているけれど、実はその分何かを失っているのだ。

もちろん、といって、私自身も今すぐセブン160のような思い切った選択ができるとは思わない。でも、安全に関わるものはともかくとして、操作ボタンが多すぎて、使い方を覚えきれないようなクルマに乗りたいとも思わない。何もかもが複雑になり過ぎている今、クルマで同じようなストレスを抱えたくはない。クルマの原点は走ること。それをどれだけ楽しめるか。

この時代に、セブン160のようなクルマが、クラシックカーではなくて新車で発売されていることはすごいことだ。それはとりもなおさず、こういうクルマを求めている人がいるということであり、こういうクルマを造り続けるメーカーがあるということなのだ。

この日以来、他のクルマがちょっと色褪せて見えて、困っている。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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