クルマやバイクのテイストとは何か

アヘッド ポルシェ911

ポルシェ911にみる哲学に基づくテイスト

アヘッド ポルシェ911

text:嶋田智之

テイストとは何なのか、というそのものズバリじゃないけれど、長年にわたり、クルマにちなんだ似たようなことばっかり文字にしてきたところのある僕の気持ちの中では、その問いに対する回答はあらかた固まっている。

テイストとは何か。哲学、である。そのクルマ──あるいは自らのブランド──に対して作り手たちが込めた、確固たる思想の顕在。

例えば、そう、誰もが知っているポルシェ911というクルマを例にすると解りやすいだろう。

アヘッド ポルシェ911

911というスポーツカーは、1963年のフランクフルト・モーターショーで発表され、以来、今に至ってもRR=リア・エンジン+リア・ドライブという、人によっては〝黴の生えたような〟 と揶揄する基本レイアウトを変えていない。

今やポルシェのラインアップの中には、スポーツカーとしての純粋な運動性能に関しては911をもはや凌駕しているといえる、ボクスター/ケイマンというミドシップ・レイアウトのモデルがあり、キラリと輝いている。でも、改良こそ繰り返されてきたけど、911は911のままだ。しかも相変わらず、より高価でもあるのに、世界的にボクスターとケイマンより売れている。

それは一体なぜなのか。理由は明白なのだ。

アヘッド ポルシェ911

ポルシェの水平対向エンジン+RRというレイアウトは本当に筋金入りだ。911の先代にあたる356の時代から70年近くも、〝スポーツRR〟 をやり続けている。

RRは後輪の車軸の真上から車体後端にかけて重量のかさむエンジンを配置するため、後ろのタイヤが路面に強く押しつけられるかたちになり、エンジンが生むパワーを路面に伝達しやすいというメリットを構造的に持っている。そしてタイヤというものは、路面に接する面積が大きく、接する力が強いほど性能を発揮しやすい。つまりRRは先天的に、強力な加速を得やすい。いわゆる〝トラクションがいい〟 というヤツだ。

もちろんデメリットもあって、後ろに重い物があることで、コーナリング中に車体にかかる横Gが強くなればなるほど、後部の方から先にコーナー外側へ飛び出そうとする動きが強くなる。簡単にいえばスピンしやすいわけだ。同じ理由で前のタイヤに重量がかかりにくいため、基本的には加速しながらだと曲がりにくいし、高速走行時には安定しにくい傾向がある。速度が高くなればなるほど、そうした逃れられない物理特性に司られる諸々の現象が顔を出す。

クルマの運動特性というのは、〝軽さ〟 を別にすればほとんど重心の低さと重心の中心性、つまり〝重心位置〟 で決まるといっていいだろう。重心の低さに関しては、911はその点で最も有利な水平対向エンジンを使っている。そして重心の中心性は、RRの宿命でかなり後ろ寄りだ。

けれど、それは静止した状態での話。クルマの重心位置は、加速、減速、旋回といった走行状況に応じて、前後方向に左右方向に斜め方向にと絶え間なく移動する。ポルシェが延々と研究し続けているのは、その動的な重心位置を状況に応じて最も適切なところへ移動させ、速さへと結びつけていくこと。

例えば911のブレーキが世界一と評されるほど効きが良く、また効き具合の調整がしやすいのも、実はその動的中心位置=動的重量配分をドライバー自身がコントロールしやすいものにするため。50年以上にわたって繰り返されてきた基礎的な改良は、全てそうしたRRのメリットを最大限活かし、デメリットをプラスの方向に作用させることに結びついている。

腰の辺りを後ろから強力に蹴り上げられるような加速、後ろから巨大な手で掴み取られたような減速、自分を中心にクルリと素早く世界が回るような旋回。それは古くも新しくも全ての911が等しく持つものであり、911乗り達は皆一様に、その気持ちよさに惹かれてきた。〝テイスト=哲学〟とは、つまりそういうことなのだ。

とはいえ、最も大切なのはクチに合うか合わないか。ストレートな濃い味を好む人もいれば、薄味の中に感じられる出汁に喜びを見出す人もいる。無味無臭を選ぶ人だっている。そしてその無味無臭であることだって、実はテイスト=哲学だったりもする。僕は50を過ぎていまだに濃厚でピリ辛で隠し味もあり、なんていうのが好きで好きで堪らないのだけど、いつか〝おかゆ+白湯〟 みたいなものが食べたくなる日が来るのだろうか。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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