鈴木大五郎のビッグシングル論

アヘッド 鈴木大五郎のビッグシングル論

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クルマやバイクに詳しい人なら、そのエンジンのシリンダー数によって、性能やフィーリングが異なることを知っているはずだ。そんななかで、もっともシンプルなのがシングル(単気筒)エンジン。

text:鈴木大五郎 photo:長谷川徹 撮影協力:ブリティッシュビート [aheadアーカイブス vol.115 2012年6月号]
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鈴木大五郎のビッグシングル論

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でも、なんだか性能的にはあまり走らないようなイメージがある。クルマでいえば10気筒だとか12気筒が偉そうな雰囲気。バイクだって、そんな雰囲気がないわけでもない。例えば単気筒の日本が誇る名車、ヤマハのSR。なんだか性能よりも、ドコドコ鼓動感のあるテイストだったり、その見た目だったりが先行しているイメージもある。

しかし、「シングルエンジンは、スポーツ走行に向かない」というのは間違った見解だ。確かに、最高速を争ったり、単純に馬力で優劣がついてしまうような勝負では分が悪いものの、さほどスピードが出ないシチュエーションや土の上では、驚くべきポテンシャルを発揮することがある。圧倒的にシンプル&コンパクトなエンジンは、当然マシンのコンパクト&軽量化に貢献し、見えない運動性の高さを生み出す。

ほかにも、トラクションの掴み易さはアクセルの開けやすさにもつながる。僕が愛するフラットトラックの競技では、エンジンブレーキが非常に重要な役割を持ち、これまたトラクションを得たり、スライドに持ち込む切っ掛け作りなどに重宝する特性が戦闘力となり、古くから活躍の中心となっている。

さらに、このシングルエンジンはここ10年で、大きく進化を遂げている。その要因がモトクロス競技。環境問題による、2ストロークから4ストロークへの移行により、開発が本格化。従来の重々しい雰囲気は全くなく、これって本当にシングル? と疑いたくなるほど軽快な吹けあがりやレスポンス。開発にも、多気筒モデルほど大掛かりなコストや問題点が少ないのだろう。

進化のスピードももの凄く早かったりする。そこからさらに進化したエンジンは、現在モトGPのMOTO3クラスで活躍したりもしているのだから、スポーツ性が低いなんてもう言ってられない状況だ。

従来どおりのテイスト系シングルは不変の魅力を備えているし、最新のシングルはモトGPマシンのテクノロジーすら備えたハイテクが満載だったりもする。しかも、それが非日常的な速度域でなく、人間がまだ楽しめる範疇で感じられる意味が大きい。
可能性はまだまだ広がっていきそうな予感がする。


●ノートン マンクス/1940年代から50年代に掛けて世界のレースシーンを席巻したのは、4サイクルシングルエンジンだった。中でもこのNorton Manxは、DOHC 500ccを搭載し、後輪出力55ps、最高速度は220km/hに達する高性能を発揮した(実測値)。この数字からも分かるように「シングル=テイスト重視で遅い」という概念は、単なるイメージでしかない。



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