レア度最高レベル!! たったの100馬力で地味目なプジョーだけど、1992年式プジョー309 SIは、ほぼトラブルフリーな1台 オーナーズレビュー

プジョー 309 遠藤イヅル

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日本でも一斉を風靡した名ホットハッチ、プジョー205GTIの“兄貴分”のようなクルマがあった。それがプジョー309GTIだ。でも、その陰に隠れて「非GTIの309」が日本に入っていたことをご存知だろうか。

文/写真・遠藤 イヅル

遠藤 イヅル|えんどう いづる

1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー&モデラーとして勤務。その後数社でデザイナーやディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、WEBで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に知識を持ち、中でも大衆車、実用車、商用車を好む。これまで所有した19台のうちフランス車は13台。現在の愛車はプジョー309とサーブ900。

遠藤 イヅル
Chapter
プジョー205の兄貴分、309
憧れ?のクルマは思いも寄らないカタチでやってきた
地味ながらよくできた実用車
プジョー309は本来プジョーのクルマではなかった
日本で数台の希少車に乗る、という愉しみ

プジョー205の兄貴分、309

プジョー309は、プジョー205とパーツ、コンポーネンツの多くを共有して、ひとクラス上のフォルクスワーゲン・ゴルフに対抗できるサイズを持って1985年に登場した。小さなノッチがあるので、一瞬セダンかと見まごうが、実は大きなテールゲートを持つハッチバックだ。全長3.7mの205に対して309は、ホイールベースの延長とともに全長も4mまで伸ばされており、広い室内を獲得。205の代名詞とも言えるスポーツモデル「GTI」も309に用意され、長めのホイールベースから直進安定性もアップ。

ハンドリングも落ち着いたものとなり、205GTIより高い評価が下されることさえあった。でも小粋な205に比べると大きなキャビンやどことなく垢抜けない雰囲気から、309GTIは爆発的なヒット作にはならなかった。

憧れ?のクルマは思いも寄らないカタチでやってきた

当時も今も日本では、上級モデルやスポーツモデルなど、「わかりやすいアイコン」が輸入される傾向が強いが、309もまた然りで、上陸当初はGTIのみの展開だった。しかし2度ほど「非GTI」モデルがラインナップされたことがある。1回目はル・マンでのプジョー優勝を記念した限定車「ブロンシュ」で、2回目は末期に追加されたカタログモデルの「SI(エスアイ)」だった。どちらも右ハンドルのオートマチックで5ドアという、輸入車としては選びやすいモデルだったが、GTIのイメージが強いこともあって販売は低迷。当時からレア車の誉れ高いクルマになってしまった。
90年代からそんな珍しいクルマが好きだった自分は、元来309自体がレアゆえに好きで、さらに309を買うならSI以外ない、と思っていた。しかし驚異的なレアグレードのため、中古でも早々に出てこない。チャンスがないまま、気がついたら2013年になっていた。

そんなある日。SNSで「309SIが欲しい」と何気なく投稿したら、懇意にしているイタリア車・フランス車に強いショップから「あるよ」という返事が。迷わずに店に見に行き、そして僕は迷わず契約書にサインをしていた。ここで逃したら、もう2度と出てこない。そう思った。

地味ながらよくできた実用車

買ったのは1992年式の309SI。迷わなかったのは、程度が抜群だったこともある。ウインドウを支持するゴム類の劣化がほぼなくて、内装の割れもない。控えめに言っても、まるで5年落ちくらいの状態。間違いなく車庫保管だろう。さらに走行距離がなんと7500km。ほとんど走っていない!それなのに整備は定期的に行われていた。中古車は随分買ったが、こんな個体あるんだなと思った。しかも価格も破格値だったのだ。
そして数日経って手元にやってきた309SIに乗って、感心した。実にいい。GTIじゃないから外装は地味だ。ハンドリングも、GTIほど俊敏じゃない。だけどハンドリングはスポーティでファン。直進安定性もよく、シートも乗り心地も良いので、遠乗りは楽チンである。4mしかないのにリアシート足元の広さは相当なもの。
トランクも広い。高速道路を走れば、燃費も13km/L 以上に伸びることもあった。突出したところは一切ないし、高級感も皆無だ。でも、全体的にとてもよくできた実用車である。こういうクルマを佳作というのである。

プジョー309は本来プジョーのクルマではなかった

ここで話を逸らそう。プジョーの車名命名方法は、現在永遠に「末尾8」になってしまったが、そもそもは百の位で車格を、一の位で登場順を示していた。205が出た時はいわゆる「05世代」である。でも、309は05世代なのに末尾が「9」なのだ。
というのも、309は本来プジョーとして開発されたクルマではなかった。当時プジョーが持っていた「タルボ」ブランド用に、205をベースにして開発した「アリゾナ」が原型なのである。しかし開発中にプジョーがタルボブランドを廃止することになって、無理矢理にラインナップに組み込まれることに。そこで悩んだのが車名だった。200番台では小さい、400番台では大きい。では300番台だ……「305」がすでにあるが、「306」は全く新しいクルマに与えたい。そのため、暫定的に、空いている「末尾9」を付与したのではないか、と思われる。

その事実を知ると、309があの時代のプジョーと少し違う理由が腑に落ちるのである。

日本で数台の希少車に乗る、という愉しみ

この309SIは、今でも手元にある。元々の状態が良かっただけに、買ってから6年経っても大きなトラブルがない。マフラーが落ちたり、エアコンが効かなくなったりしたが、これはパーツの寿命から来るもの。レッカーを呼ぶようなことは1度しかなく、この時代のフランス車としては極めてトラブルがないと言っても良いだろう。日本の酷暑でも水温計の針は真ん中から上を示すことがないのも有難い。暑いとエアコンは流石に効きが弱くなるが、27年落ちのフランス車にそれを求めるのは酷というものだ。そして、トラブルの少なさは、もちろん普段整備をお願いしている専門店によるメンテナンスの賜物でもあることは言うまでもない。
地味な実用車は得てして残りにくいもの。僕が知る限り、日本に現存し実動する309SIは一桁しかないと思われる。このレアさは、オークションで億の値段がつくビンテージカーの一部よりも少ないのだ。正直なところ309SIは高い価値がつくクルマではないが、日本で数台のクルマに乗っている、という喜びがある。自己満足なのかもしれないが、それもまた、クルマを持つ愉しさであることに間違い無いだろう。
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