安全性への警鐘“R75”

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アルファベットの「R」と数字を組み合わせ、物や場所の曲率半径を表すことがある。例えば、レースファンならよく知る「スズカの130R」などがそれに当たり、これを細かく言えば「円周を描けば半径(=Radius)が130メートルに達するコーナー」となる。90Rならよりタイトな、300Rならより緩やかなコーナーというわけだ。

text:伊丹孝裕 photo : 長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.133 2013年12月号]

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安全性への警鐘“R75”

安全性への警鐘“R75”

ヘルメットの世界でも、こうした曲率半径は浸透している。通称「R75規定」と呼ばれるもので、もともとはヨーロッパで定められ、その後日本にも導入された、いわゆるJIS規格のひとつだ。その概要は、「ヘルメットの形状は半径75㎜以上の連続した凸曲面でなくてはならない」というものである。

いまひとつピンとこないかもしれないが、もし帽体が尖っていたり、極端に小さなRで構成されていたりすると、この規定外になるため、日本ではバイク用品としての販売が認められなかった。

もちろん、すべてはユーザーの安全性確保のためであり、世界中のトップレーサーが愛用する老舗ヘルメットメーカー「アライヘルメット」の全製品にも適用されている。

「ヘルメットの役割は、いかに衝撃を〝吸収〟するか、ということになりますが、弊社では社内独自の規定を設け、様々な衝撃実験を繰り返すことで、性能向上に努めています。しかし、万が一のアクシデントが起こった際、真っ先に求められる、もうひとつの重要な役割があります。それが、いかに衝撃を〝かわす〟かです。

というのも、帽体の素材や構造はいくら進化しても、強さには必ず限界があります。ならば、衝撃を吸収する前にできるだけそれを分散できれば、頭部へのダメージを最小限に留めることができるはずと考えたのです。そのためにヘルメットは強いだけではなく、表面の形状がなめらかでなくてはなりません。R75規定は、安全のために決められた基準なのです」と、同社広報の上 幸一さんは語る。
もし、ヘルメットの形状がデザイン性を優先して尖っていたとすると、転倒の際にそこに衝撃が集中したり、路面に引っ掛かるなどして、首や体がひねられたり、一部に衝撃が集中したりしてしまう。結果的に必要以上のダメージを負うことになり、リスクを高めてしまうのだ。

この「R75」という単語は、最近ではアライヘルメットの契約ライダーのシールドに見つけることができる。しかし、この規定自体は1974年に定められたもの。それを今、こうして改めてPRしているのには理由がある。

というのも、実はこの規定は数年前に日本でもヨーロッパでも撤廃され、現在ではヘルメット形状に対する自由度が増しているのだ。その結果、曲率が小さく、鋭利なデザインのものや、凹凸の多いヘルメットが出回り始めたのである。

確かに、ひと昔前と比較すれば帽体の構造は進化し、安全性は増したが、〝かわす〟ことを忘れてはいけない。それゆえ、アライヘルメットはR75規定を今も遵守。安全性低下への警鐘と自社製品の誇りのため、今一度提唱しているのである。

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text : 伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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