ジャガーはなぜ男から愛されるのか
更新日:2024.09.09
※この記事には広告が含まれます
女心と秋の空、ほどではないにせよ自動車世界のキーワードは変化し続けている。国産車においては、ここ数年「動的質感」という言葉をプレスリリース等でも目にするようになった。クルマが走っている時の感触の良さ、数値化できないフィーリングの部分を、エンドユーザーにまでアピールしたいというわけだ。
text:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]
text:吉田拓生 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]
- Chapter
- ジャガーはなぜ男から愛されるのか
ジャガーはなぜ男から愛されるのか
■XJ
車両本体価格:¥9,970,000〜(SWB LUXURY、税込)
エンジン:2.0ℓ 4気筒 240PSターボチャージド ガソリンエンジン
総排気量:1,998cc
最高出力:177kW(240ps)/5,500rpm
最大トルク:340Nm/1,750rpm
車両本体価格:¥9,970,000〜(SWB LUXURY、税込)
エンジン:2.0ℓ 4気筒 240PSターボチャージド ガソリンエンジン
総排気量:1,998cc
最高出力:177kW(240ps)/5,500rpm
最大トルク:340Nm/1,750rpm
ステレオタイプな頭で輸入車選びをするならば、ドイツ車がその筆頭にあることは販売台数が証明している。ドイツ車がどうも好きになれないという人が、他に流れる。その筆頭がジャガーだろう。
イギリスを代表する自動車ブランドであるジャガーは、男から愛されるクルマである。というのは、男性オーナーが多いという統計的な話ではなく、サー・ウィリアム・ライオンズが考案したジャガーというブランドネームが女性名詞だったに違いない、という仮説に基づいている。
ロールスロイスやベントレーは筋肉質で紳士的、アストンマーティンもセビロを纏ったスポーツマン、BMWミニは女性に好かれる気さくな草食男子。
その点ジャガーは頭の切れる、細くしなやかな肢体を持った、キュッとウエストの引き締まった女性なのである。古くからジャガーのアイコンとして崇められている初代のXJサルーンの、細身で張りのあるスタイリングに触れて、筋骨隆々の男性を想像する人がいるだろうか。
ジャガーに含まれる女性的な匂いを肌で感じているオーナーは、愛車に乗る時に当然のように身だしなみを整える。ドレスコード云々と言われなくたって、男なら誰でも好意を持っている女性に逢う時にはそうするものである。つまりジャガーはカッコマンが好んで乗るクルマなのではなく、オーナーにお洒落の感覚を自然と植え付ける存在なのである。
「ジャガーの室内は狭い」などと吹聴するのは、このクルマの女性的な匂いに気づかず、単なる移動手段としか捉えていない鈍感な人に違いない。好きな女性が余計なことも言わずにただしっとりと寄り添ってくれたら、それに優る幸せはない。故にジャガーは男から愛されるのだ。
だがここで注意すべきは、女性的なスタイリッシュな外観こそがジャガーの伝統、という考え方である。「イギリス伝統の……」という使い古された言葉の後には、紅茶やビッグベンやユニオンジャックやビートルズのようにイメージが何百年も変わらないものが続く場合が多いのだが、しかし形象的ではない、数値化できない伝統だってある。
故徳大寺有恒氏は、ジャガーの神髄はタッチにある、と自らの著書「ダンディー・トークⅡイギリス車の精神」の中で述べていた。ドアハンドルのタッチ、スイッチのタッチ、ステアリングのタッチ、その積がドライビングフィールとして結実する。これはつまり、昨今になってようやく国産車が高らかに謳いはじめてきた動的質感そのものである。
時代がそんなジャガーの伝統にようやく追いつこうとしている?確かに方向性としてはそうかもしれない。けれどブランドが誕生した瞬間から動的質感に拘ってきた当のジャガーははるか先をひた走っている。
ドライブフィールに優れるジャガー、佇まいの良いジャガー。自らの伝統を具現化するために、ジャガーが水面下で行ってきた努力は相当なものだ。
初代XJサルーンのネコ足フィールを生み出したリアサスは、ル・マンのウイニングカー由来の簡潔なシステムをベースとして、ショックアブソーバーを片側に2本ずつ使用するという前例のない贅の尽くし方によって完成していた。現行のジャガーではXFのフルモデルチェンジによりついにラインアップの全てがフルアルミニウムのアーキテクチャーを持つに至っている。
せいぜい10年先ぐらいしか見通すことのできない自動車世界にあって、ジャガーはフルアルミ化という30年先まで通じるような大投資を行ったのである。とはいえ自らが作るべきクルマの未来像がしっかりと見えている彼らにとって、それは勇気のいる決断ではなかっただろう。
優れたプラットフォームに組み合わさるパワーユニットが静粛な電気モーターに置き換われば、ジャガーの伝統は深化し、さらにしっとりとした乗り物となることは容易に想像がつく。そして今現在、ジャガーのエンジニアの頭の中は、EVのことでいっぱいである。これから先の世でも、男はジャガーのタッチに焦がれ続けるに違いない。
時代がそんなジャガーの伝統にようやく追いつこうとしている?確かに方向性としてはそうかもしれない。けれどブランドが誕生した瞬間から動的質感に拘ってきた当のジャガーははるか先をひた走っている。
ドライブフィールに優れるジャガー、佇まいの良いジャガー。自らの伝統を具現化するために、ジャガーが水面下で行ってきた努力は相当なものだ。
初代XJサルーンのネコ足フィールを生み出したリアサスは、ル・マンのウイニングカー由来の簡潔なシステムをベースとして、ショックアブソーバーを片側に2本ずつ使用するという前例のない贅の尽くし方によって完成していた。現行のジャガーではXFのフルモデルチェンジによりついにラインアップの全てがフルアルミニウムのアーキテクチャーを持つに至っている。
せいぜい10年先ぐらいしか見通すことのできない自動車世界にあって、ジャガーはフルアルミ化という30年先まで通じるような大投資を行ったのである。とはいえ自らが作るべきクルマの未来像がしっかりと見えている彼らにとって、それは勇気のいる決断ではなかっただろう。
優れたプラットフォームに組み合わさるパワーユニットが静粛な電気モーターに置き換われば、ジャガーの伝統は深化し、さらにしっとりとした乗り物となることは容易に想像がつく。そして今現在、ジャガーのエンジニアの頭の中は、EVのことでいっぱいである。これから先の世でも、男はジャガーのタッチに焦がれ続けるに違いない。
--------------------------------------------
text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。
text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。