幕末の香り漂う山々へ〜マツダ・アクセラ

アヘッド アクセラ

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鹿児島というと何を連想するだろうか。桜島、錦江湾、開聞岳。薩摩隼人、島津氏、西郷隆盛、篤姫…。改めてクルマを走らせてみると、山々を行くうち、心に浮かぶのは幕末のことだった。

text:伊丹孝裕 photo:長谷川徹
[aheadアーカイブス vol.137 2014年4月号]

Chapter
歴史の深い山々を、縦走の道しるべに。
山を基軸に道を結び、霧島から指宿へ。
開聞岳を見ながら、知覧へ。

歴史の深い山々を、縦走の道しるべに。

●杉に包まれた参道を抜けると、朱塗りの華麗な社殿が現れる。パワースポットとしても有名な霧島神宮は、天孫降臨に由来する「ニニギノミコト」を祀る神社として6世紀に創建された。当時は高千穂峰山頂にあったが、度重なる噴火と消失によって移転、現在の社殿は1715年に藩主・島津吉貴によって再建されたものだ。神宮内にそびえる樹齢約800年の御神木は、南九州の杉の祖先とも言われている。

九州を司る7県のうち、最大の土地面積を誇るのが鹿児島だ。その広さは約9100平方キロメートル。全国47都道府県に照らし合わせても、それは10番目に大きい。にもかかわらず、どことなくこじんまりとしていて、どちらかと言えば常に手の内に収まっているようなスケール感が色濃く漂う。そんな風に思えるのは、鹿児島独特のいくつかの地理的な要因があるからだろう。
地図を広げて、俯瞰して見るとイメージが掴みやすい。なによりその土地の大部分が、近しいふたつの大きな半島から成っていることが挙げられる。ひとつは鹿児島市中心部や指宿のある薩摩半島、そしてもうひとつはその向かいに位置し、沖合いに種子島を臨む大隅半島で、それを繋ぐ鹿児島湾の幅は最大でも20㎞程度。狭いところなら2㎞ほどしかない。つまり、どちらかの半島の海岸線に立てば対岸の半島の大部分を見渡すことができるため、全体を把握しやすい。まず、ここが大きなポイントだ。そうした距離感を、さらに掴みやすくしているもうひとつのポイントがある。それが印象的ないくつかの山の存在だ。

鹿児島の代名詞的な存在とも言える桜島の御岳はもちろんのこと、薩摩半島南端の開聞岳、霧島連山のひとつである岳や高千穂峰など、県内のどこをどう進もうともそうした山々が道標になってくれるからだ。時代を遡れば遡るほど、その役割は大きかったに違いないが、現代においてもそれは変わらず、特にクルマで鹿児島を縦走する際にはその立ち姿が明確なランドマークになってくれる。尾根の向こうに見え隠れする山頂に向かって、あるいはそれを背に感じながらクルマを走らせると、方向感覚を狂わせることがなく、目指す方向へ向かうことができるのだ。

山を基軸に道を結び、霧島から指宿へ。

そんな鹿児島を2日間に亘って自由にクルマで移動した。

今回、そうした機会を与えてくれたのがマツダである。'13年秋にデビューしたアクセラを改めて用意し、都内近郊の試乗では引き出せないパフォーマンスを堪能できるステージとして鹿児島を選定。しかもガソリン、ディーゼル、ハイブリットという、3種すべてのパワートレインが試せるゆとりのあるスケジュールを組んでくれたのだ。

鹿児島空港をそのスタート地点とし、乗り換えポイントの時間さえ守れば、行く先はドライバー次第。土地勘に乏しいため、ともすればやや途方に暮れるシチュエーションではあるが、地図を眺めることしばし。その時に山を基軸にして、それを結ぶように走れば方角を誤ることは無さそうだと気づかされたのである。
最初にキーを選んだのはアクセラスポーツだった。1・5ℓガソリンエンジンと6速マニュアルという組み合わせ。タイトなワインディングとのマッチングが良さそうだったことから、空港の北東に連なる霧島連山の方角へとステアリングを向けることにした。

空港からほど近い県道2号線を東進し、やがて県道60号線へ。そこからは一気に北に向かい、高千穂峰方面へと走らせる。無論、クルマで行けるわけではないが、標高1574mの高千穂峰山頂には神話に由来する「天の逆鉾」が突き立てられている。原物は奈良時代よりそこに存在(現在は複製)していたとも言われ、神聖視されていた矛ではあるが、かの坂本龍馬がそこに訪れた際、それを抜いてしまったというエピソードが、姉に宛てた龍馬自身の手紙によって明かされている。

そう、大河ドラマの影響もあって、近年このあたりの名を一躍広めたのが坂本龍馬のこうした足跡である。今からおよそ150年程前、寺田屋事件で一命を取り留めた坂本龍馬は西郷隆盛の薦めもあって、妻お籠とともに湯治の旅へ出ることにした。その行く先が霧島周辺であり、この時のふたりの旅が日本初の新婚旅行と呼ばれていることも手伝って、今も多くの観光客やファンがこの地へと導かれている。
高千穂峰の麓にある霧島神宮もそのひとつ。慶応2年(1866年)の3月29日に龍馬とお籠のふたりが参拝し、その後、宿坊に泊まったという正確な記述が残されている。現在の社殿も境内にそびえる大杉も多くが当時のまま。つまり、龍馬達が目にし、触れたものがそのまま今も立ち並んでいるのである。

霧島神宮を後にし、霧島連山を右手に感じながら、途中、丸尾の滝の横を過ぎる。ここはその上流にある林田温泉や硫黄谷温泉の温泉水が直接流れ込んでくるため、冬場にはその温度差によって盛大な湯煙が見られるらしい。いずれにしろ、このあたりは少し移動すれば必ず温泉に行き当たる。龍馬はひと月程をこの周囲で過ごしたと言われるが、刀傷を癒すだけでなく、山々に囲まれた土地の性格上、心理的な安心感も高かったことだろう。もしかすると、山を従え、眼下には海が広がるというその風景に、龍馬は自身が生まれ育った高知・桂浜の景色を重ね合せていたかもしれない。鹿児島での日々は、幕末のさらなる激動に身を投じた龍馬とお籠にとって束の間の、そして最後の安らぎのひと時でもあったことだろう。

開聞岳を見ながら、知覧へ。

いくつかのワインディングをやり過ごし、今度は一転してアベレージスピードの上がる九州自動車道へと入った。その往路で試したのがガソリンとモーターによるハイブリット仕様のセダン、そして復路では2・2ℓのディーゼルターボ仕様のハッチバックである。九州自動車道を下り、やがて指宿スカイラインへ。その道すがら、左手に見え隠れするのが、御岳、中岳、南岳等から成る桜島だ。火山大国としてのシンボリックな存在でもあり、この日も山頂は噴煙に包まれていた。そのまま南下を続け、指宿へと向かう途中では、やがて正面に開聞岳が見えてくる。薩摩富士の別称を持つ通り、見事な円錐を描く山だ。

坂本龍馬が霧島を訪れた幕末の時代からおよそ80年後のこと、ここで新たな激動の時代に飲み込まれていったのが若き特攻隊員達である。知覧の訓練基地を飛び立った彼らはまず開聞岳を目指し、それを富士山に見立てることで故郷や家族、そして戻ることのない日本の地に別れを告げたという。その美しい佇まいの下には、いくつもの時代の重い礎があることも知っておくべきだろう。

信仰、癒し、望郷……様々な人の、様々な心の拠り所になりながら、鹿児島の山々は静かに、そして雄々しく今日も立っているのである。
モーターとエンジンの駆動力を状況に応じて組み合わせるのが、このハイブリッド仕様。モーター技術はトヨタ・プリウスと共有しながら、オリジナルの2.0ℓ・スカイアクティブエンジンを組み合わせ、燃費とドライバビリティの向上が図られている。モーターによるアシストやエンジンの作動性は極めて自然で、乗り手の意志と同調するようにスムーズに回転数が上がっていく。そのためハイブリッドであることに気がつかないドライバーもいるだろう。それくらい、いい意味で自然な特性が与えられている。このユニットはセダンにのみ搭載されるため、必然的にハンドリングは軽快というよりも安定性を意識したものになっている。重量とスペースが嵩みがちなバッテリーを上手く活用し、しっとりとした乗り心地に仕上げているところに巧みさが感じられる。

●AXELA HYBRID-S L Package(AT)
車両本体価格:¥2,700,000(税込)
車両重量:1,390kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,997cc
最高出力:73kW(99ps)/5,200rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4,000rpm
JC08モード燃費:30.8km/ℓ
最も若々しくスポーティな仕様。111psを発揮する1.5ℓ4気筒エンジンを搭載し、アクセラシリーズ中、最軽量となる1,240kgのボディを軽快に引っ張る。その印象をより強くしているのが、「小気味よい」という表現がピッタリな6MTだ。排気量に限りがあるため、トルク感自体は平均的だが、それを最大限引き出すためのMT操作がまったく苦にならず、そのスムーズさゆえにシフトダウンもアップも積極的に行いたくなる。また、ボディの軽さはフロント周りに顕著な効果をもたらし、旋回時の動きは他のグレードと比較して明らかに軽快。鼻先をスッと曲がりたい方向に向けるコーナリング特性に、マツダの言う人馬一体感が強く感じられるのは間違いない。

●AXELA Sport 15S(6MT)
車両本体価格:¥1,900,800(税込)
車両重量:1,240kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,496cc
最高出力:82kW(111ps)/6,000rpm
最大トルク:144N・m(14.7kgf・m)/3,500rpm
JC08モード燃費:19.2km/ℓ
2.2ℓの直噴ディーゼルターボを搭載。175psというパワーもさることながら、印象的なのは途方もなく分厚い低速トルクの方である。1.5ℓはもちろん、2.0ℓのガソリンと比較しても倍に相当する42.8kgf・mというトルクを、わずか2,000rpmで発揮。アクセル開度に対して、間髪入れずにエンジンが反応するリニアさを持ちながらも唐突さはない。どの回転域でも自由自在に車速をコントロールでき、扱いやすく、ドライバビリティに優れている。1.5ℓ6MT車とは真逆のアプローチながら、やはり人馬一体感に優れるのもマツダならではのこだわりだろう。このあたりのノウハウや仕上げには、どんな体型もカバーするドライビングポジションの自由度も深く関係しているので、試乗の際はチェックしてみて欲しい。

●AXELA Sport XD(ディーゼル)
車両本体価格:¥3,067,200(税込)
車両重量:1,450kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
排気量:2,188cc
最高出力:129kW(175ps)/4,500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2,000rpm
JC08モード燃費:19.6km/ℓ
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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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