YAMAHAのエンスージアズム
更新日:2024.09.09
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有象無象の2輪メーカーがひしめいていた50年代の半ば、一風変わった一台のバイクが登場した。通称「赤トンボ」。日本楽器製造(現ヤマハ発動機)が手掛けた初めての量産車であり、正式名称をYA-1という。
text:伊丹孝裕 photo : 長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.166 2016年9月号]
text:伊丹孝裕 photo : 長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.166 2016年9月号]
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YAMAHAのエンスージアズム
YA-1が独特だったのは、なによりその見た目だ。バイクと言えばあくまでも庶民の足であり、道具然としていた時代の中にあって、それは極めて流麗。外装も黒一辺倒が多勢を占めていたにもかかわらず、アイボリーとマルーンで塗り分けられた斬新さに加え、七宝焼のエンブレムを燃料タンクに備えるという上質さも併せ持つなど、実用に留まらない優美さで異彩を放っていた。
YA-1はそうした外観だけではなく、富士登山レースや浅間高原レースといったメジャーな大会を制することによってパワーとハンドリングでも秀でた性能を発揮。今につながる独創性やデザイン性、技術力といった「ヤマハらしさ」のほとんどすべてはこの時からすでに始まっていたと言えるだろう。
以来、ヤマハは時代の折々で意欲作を送り出して2輪界を牽引、もしくは変革をもたらしてきた。
例えば、80年代に花開くレーサーレプリカという概念を初めて国産車にもたらしたYDS1('59年)。公道を走れる市販車でありながら、本格的なオフロード走行性能を追求したDT-1('68年)などは歴史に欠かせないエポックメイキングな存在だが、稀代の名車として名高いトヨタ2000GT('65年)の開発にも深く関与するなど、その存在は4輪の世界でも燦然と輝いている。
そんなヤマハの独自性は70年代以降も衰えることなく、さらに発信力を強めていく。
それらを数え上げていけばキリがないものの、時代が大排気量&多気筒化に移り変わる中、鼓動というテイストを守り続けたSR、排ガス規制によって風前の灯だった2ストロークを復権させたRZ、トラクションという言葉を日本に浸透させたTRX850、1000㏄のビッグマシンで俊敏なスポーツ性を突き詰め、それを成し遂げたYZF-R1……と、その功績は常に新しい価値を創造し続けてくれたことにあった。
また、それらがいつしか定着し、時代を超えてスタンダードになったモノもヤマハには数多い。
先に挙げたSRは誕生してから38年が経過している他、万能なトレールモデルとしてブレることなく存在し続けるセローは登場から31年、唯一無二のスタイルと存在感はヤマハ史上でもイチニを争うであろうVMAXもやはり31年と、モデルライフが長いのもまたヤマハらしいところ。その意味で、ある種の文化に貢献してきたとも言えるだろう。
もちろんその逆もある。250㏄の2ストローク2気筒エンジンを搭載し、ダート最速をコンセプトに掲げたTDR250や1人乗り専用で開発され、乾燥車重わずか105㎏に過ぎなかった超ライトウェイトスポーツのSDRなどはかなりの短命に終わった。とはいえ、TDRの破天荒な速さやSDRの繊細で美しいデザインはそれまでにないカテゴリーを生み出し、今なお熱狂的なファンを有しているのだ。
創業以来、脈々と受け継がれてきたそうしたチャレンジ精神を、近年で最も具現化しているのがMTシリーズだろう。2気筒エンジン(688㏄)のMT-07と3気筒エンジン(845㏄)のMT-09、MT-09トレーサー、XSR900から成るこのファミリーは、パワーではなくトルク特性でスポーツを語るという新たなアプローチで多くのライダーを魅了。
エンジン形式の起源をそれぞれ辿ればTX750('72年)やXS750('76年)にまで遡ることができるものの、そこにノスタルジックさを求めず、YZF-R1のエンジンにヒントを得た最新のクロスプレーン・コンセプトを注入してこれまでにない回転フィーリングを実現するなど、時代にもカテゴリーにもとらわれず、それらを見事にバランスさせた稀有な例でもある。
決してモノマネはせず、新しい価値の創造へ挑戦し続ける。それこそがエンスージアズムであり、ヤマハらしさの所以なのだ。
YA-1はそうした外観だけではなく、富士登山レースや浅間高原レースといったメジャーな大会を制することによってパワーとハンドリングでも秀でた性能を発揮。今につながる独創性やデザイン性、技術力といった「ヤマハらしさ」のほとんどすべてはこの時からすでに始まっていたと言えるだろう。
以来、ヤマハは時代の折々で意欲作を送り出して2輪界を牽引、もしくは変革をもたらしてきた。
例えば、80年代に花開くレーサーレプリカという概念を初めて国産車にもたらしたYDS1('59年)。公道を走れる市販車でありながら、本格的なオフロード走行性能を追求したDT-1('68年)などは歴史に欠かせないエポックメイキングな存在だが、稀代の名車として名高いトヨタ2000GT('65年)の開発にも深く関与するなど、その存在は4輪の世界でも燦然と輝いている。
そんなヤマハの独自性は70年代以降も衰えることなく、さらに発信力を強めていく。
それらを数え上げていけばキリがないものの、時代が大排気量&多気筒化に移り変わる中、鼓動というテイストを守り続けたSR、排ガス規制によって風前の灯だった2ストロークを復権させたRZ、トラクションという言葉を日本に浸透させたTRX850、1000㏄のビッグマシンで俊敏なスポーツ性を突き詰め、それを成し遂げたYZF-R1……と、その功績は常に新しい価値を創造し続けてくれたことにあった。
また、それらがいつしか定着し、時代を超えてスタンダードになったモノもヤマハには数多い。
先に挙げたSRは誕生してから38年が経過している他、万能なトレールモデルとしてブレることなく存在し続けるセローは登場から31年、唯一無二のスタイルと存在感はヤマハ史上でもイチニを争うであろうVMAXもやはり31年と、モデルライフが長いのもまたヤマハらしいところ。その意味で、ある種の文化に貢献してきたとも言えるだろう。
もちろんその逆もある。250㏄の2ストローク2気筒エンジンを搭載し、ダート最速をコンセプトに掲げたTDR250や1人乗り専用で開発され、乾燥車重わずか105㎏に過ぎなかった超ライトウェイトスポーツのSDRなどはかなりの短命に終わった。とはいえ、TDRの破天荒な速さやSDRの繊細で美しいデザインはそれまでにないカテゴリーを生み出し、今なお熱狂的なファンを有しているのだ。
創業以来、脈々と受け継がれてきたそうしたチャレンジ精神を、近年で最も具現化しているのがMTシリーズだろう。2気筒エンジン(688㏄)のMT-07と3気筒エンジン(845㏄)のMT-09、MT-09トレーサー、XSR900から成るこのファミリーは、パワーではなくトルク特性でスポーツを語るという新たなアプローチで多くのライダーを魅了。
エンジン形式の起源をそれぞれ辿ればTX750('72年)やXS750('76年)にまで遡ることができるものの、そこにノスタルジックさを求めず、YZF-R1のエンジンにヒントを得た最新のクロスプレーン・コンセプトを注入してこれまでにない回転フィーリングを実現するなど、時代にもカテゴリーにもとらわれず、それらを見事にバランスさせた稀有な例でもある。
決してモノマネはせず、新しい価値の創造へ挑戦し続ける。それこそがエンスージアズムであり、ヤマハらしさの所以なのだ。
YA-1
通称「赤トンボ」と呼ばれるYA-1は1955年に発売された。バイクの色は黒が当たり前だった時代にアイボリーとマルーンを組み合わせたカラーリングは革新的ですらあった。機能と同様にデザインにこだわるヤマハの「礎」を創ったバイクと言える。
通称「赤トンボ」と呼ばれるYA-1は1955年に発売された。バイクの色は黒が当たり前だった時代にアイボリーとマルーンを組み合わせたカラーリングは革新的ですらあった。機能と同様にデザインにこだわるヤマハの「礎」を創ったバイクと言える。
DT-1
1968年に発売のDT-1は、本格的なオフロード走行を考慮して開発された初の市販車となる。現代に続く「トレールバイク」と言われるジャンルの創始車。公道走行可能なモトクロッサーとしてアメリカでも人気を博す。スタイルの美しさも注目を集めた。
1968年に発売のDT-1は、本格的なオフロード走行を考慮して開発された初の市販車となる。現代に続く「トレールバイク」と言われるジャンルの創始車。公道走行可能なモトクロッサーとしてアメリカでも人気を博す。スタイルの美しさも注目を集めた。
SDR
レプリカブーム真っ只中の1987年に突如登場した2サイクル単気筒のSDRは、レプリカとは異なる「バイクを操る楽しさ」を提案。1985年に発売されたSRX4 / 6と同様に「所有する悦び」を満たすべく、メッキされたトラスフレームを採用している。
レプリカブーム真っ只中の1987年に突如登場した2サイクル単気筒のSDRは、レプリカとは異なる「バイクを操る楽しさ」を提案。1985年に発売されたSRX4 / 6と同様に「所有する悦び」を満たすべく、メッキされたトラスフレームを採用している。
TDR250
1988年に発売されたTDR250は、レーサーレプリカTZR250(1KT)のエンジンを採用し、250ccクラス最大の45馬力を発揮する。現在、「スーパーモタード」と言われるジャンルの始祖的存在。当時は「スーパーバイカーズ」と呼ばれていた。
1988年に発売されたTDR250は、レーサーレプリカTZR250(1KT)のエンジンを採用し、250ccクラス最大の45馬力を発揮する。現在、「スーパーモタード」と言われるジャンルの始祖的存在。当時は「スーパーバイカーズ」と呼ばれていた。
SR400
1978年に発売されたSR400は、現在も一線級の人気車。SRをカスタムすることが発端となり沸き起こったクラシックイメージのバイクブームは、国内外から多くのフォロワーを生み出した。
¥550,800(税込)空冷SOHC単気筒399cc
1978年に発売されたSR400は、現在も一線級の人気車。SRをカスタムすることが発端となり沸き起こったクラシックイメージのバイクブームは、国内外から多くのフォロワーを生み出した。
¥550,800(税込)空冷SOHC単気筒399cc
VMAX
アメリカンともネイキッドとも異なる孤高の存在として独自の世界感を持つVMAXは1985年に輸出専用モデルとして登場した。2008年のフルモデルチェンジで現在のスタイルとなる。
¥2,376,000 (税込)DOHC V型4気筒1,679cc
アメリカンともネイキッドとも異なる孤高の存在として独自の世界感を持つVMAXは1985年に輸出専用モデルとして登場した。2008年のフルモデルチェンジで現在のスタイルとなる。
¥2,376,000 (税込)DOHC V型4気筒1,679cc
MT-07
「気負うことなくバイクの持っている本来の楽しみを存分に味わう」をテーマに開発された今後のスタンダードとなるモデル。「いつ、誰が、どこで乗ってもワクワクする」を追求。
¥699,840 (税込)・ABS¥749,520(税込)直列2気筒688cc
「気負うことなくバイクの持っている本来の楽しみを存分に味わう」をテーマに開発された今後のスタンダードとなるモデル。「いつ、誰が、どこで乗ってもワクワクする」を追求。
¥699,840 (税込)・ABS¥749,520(税込)直列2気筒688cc
MT-09 TRACER ABS
ヤマハMTシリーズの掲げる「マスター・オブ・トルク」の可能性をロングツーリングにまで広げたモデル。「スポーツマルチツール」として様々なシチュエーションに対応する。
¥1,047,600(税込)DOHC直列3気筒845cc
ヤマハMTシリーズの掲げる「マスター・オブ・トルク」の可能性をロングツーリングにまで広げたモデル。「スポーツマルチツール」として様々なシチュエーションに対応する。
¥1,047,600(税込)DOHC直列3気筒845cc
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text : 伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
text : 伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。