埋もれちゃいけない名車たち VOL.14 元祖プレミアムコンパクト「アウトビアンキY10」

VOL.14 元祖プレミアムコンパクト「アウトビアンキY10」

アヘッド  アウトビアンキY10

ミニより僅かに大きな車体の室内を上質なレザーと分厚いレザーであしらったそのクルマは、ロールズを所有する家の奥様が用を済ますときに乗るクルマと見なされるくらい上品でゴージャスだった、というわけだ。

1963年から'74年にかけて生産されたそのヴァンプラを例外とすれば、それ以前もそれ以降も、スモールカーはフトコロに余裕のない庶民が乗るクルマであるとされていた。けれど時代は進み、生活様式にも変化は訪れる。

フトコロにちょっと余裕のある上級志向の庶民もいれば、住環境から大きなクルマを選べなかったり、その辺を走るときは小さなクルマが楽だと考えるお金持ちだっている。要は小さいクルマが欲しいけどビンボー臭いヤツはイヤだ、と考える人が世界中で増えたわけだ。けれど相応しいクルマというのがなかった。

その状況を変えたのが、1985年にデビューしたアウトビアンキY10(イプシロン・テン)だった。フィアット・グループの一員であったアウトビアンキ・ブランドからA112の後継として送り出されたもので、イタリアとフランス、そして日本以外を除いて、ランチア・ブランドのクルマとして販売された。

ランチアは伝統と格式のある高級車ブランド。そこからも判るように、そのインテリアには本革やウッドこそ使われなかったものの、ダッシュボードやトリム類にはバックスキン調のアルカンターラが張り巡らされ、さながら〝小さな高級車〟と呼ぶに相応しい雰囲気が与えられていた。

上級グレードには、当時のイタリア車には珍しく、エアコンや集中ドアロックなどが標準で備え付けられていた。また当時最先端の技術を用いたサスペンションを逸早く採用し、全長3・4m、全幅1・5mのクルマにしては意外なほどの、落ち着きのある乗り心地を示した。

Y10は、シンプルだけどソリッドでクリーンなスタイリングと上質な雰囲気、意外や広い室内と活発な走りが好評を得て、都市部を中心にヒットした。とりわけイタリアのキャリアウーマンの間では、〝自分で乗りたいクルマ〟ナンバー1といわれるほどの人気を得たほどなのだとか。

今や〝プレミアム・コンパクト〟という言葉すらある時代だが、Y10がなければ様子は違ったものになっていたことだろう。子孫であるランチア・イプシロン(日本ではクライスラー・イプシロン)が飛び抜けて上質に感じられるのは、そこからの歴史の積み重ねがあるからなのだ。

アウトビアンキY10

アヘッド  アウトビアンキY10 元祖プレミアムコンパクト

Y10がデビューしたのは1985年のジュネーヴ・ショー。シンプルなスタイリングは社内のデザインチームによるもので、プラットフォームはパンダ用に大幅に手を加えて開発されている。

最大の特徴は乗り心地やインテリアも含めクルマ全体が“小さな高級車”的なテイストでまとめ上げられていることで、とりわけ都市生活者のニーズにピタリとはまった。エンジンは999ccの実用版から1,049ccターボまで数種が用意され、実用版でさえ小気味の良い走りが楽しめた。1994年に後継のイプシロンと交代するようにして生産中止となる。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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