Norton Command 961がもたらしたもの

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2輪免許を取得してほぼ四半世紀。これまで僕は、バイクの国籍で好き嫌いを考えたことはないと思っていた。けれど、改めて自分のバイクライフを振り返るとイギリス車は欠かせない存在になっている。

text:中村友彦 photo : 長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.133 2013年12月号]
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Norton Command 961がもたらしたもの

Norton Command 961がもたらしたもの

旧車好きになるきっかけは、仕事を通して体験した'50〜'60年代のブリティッシュシングルやツインだったし、メカいじりとツーリングの楽しさを学んだのは'76年型トライアンフ・ボンネビルだし、数年前に人生初のスーパースポーツを買おうとした際に、さんざん悩んだ挙句に選んだのはデイトナ675だったからだ。

そんなキャリアを持つ僕は、新生ノートンの「コマンド961」も、基本的にかなり気に入っている。スタイルのモチーフになった'68〜'77年のコマンド750/850が、上品でジェントルなロードスポーツだったのに対して、新しい「コマンド961」は少しやんちゃでコーナリングを重視したイメージに生まれ変わっているのも興味深い。

モダンな運動性能とクラシックな雰囲気を巧みに融合したこの新しいコマンドは、他のネオクラシックモデルとは異なる唯一無二と言うべき存在だと思えるのだ。個人的にはイギリス車の古くからの伝統とも言える〝ライダーを導くブリティッシュグッドハンドリング〟が、このモデルにもしっかり継承されていたことも嬉しい要素だった。

だから新生ノートンにはイギリス車復権のためにもがんばってもらいたいし、「コマンド961」が日本でもヒットしてほしいと思っているのは確かだ。
しかしその一方で、あまりに豪華で現代的すぎる足まわりの装備が、僕の中では腑に落ちていないのだ。例えばスーパースポーツ並みに太い前後17インチタイヤを、前後18インチ、あるいは旧車の定番であるフロント19インチ、リア18インチの細いタイヤに変更すれば、乗り味がもっと軽快かつクラシカルになって、かつてのノートン的になるはずだ。

それに前後の「オーリンズ」や「ブレンボ」などを必要にして十分と思えるグレードにすれば、販売価格は大幅に引き下げることもできるだろう。もちろん、高級車としてのオーラに溢れた現状のパーツ構成は、これはこれでアリだとは思う。しかし、961シリーズ全体が同じような方向を向いた現在のラインアップは、僕にはもったいなく思えるのだ。

ちなみに、「コマンド961」の基本を作ったのは、'03年から数年間に渡ってノートンUSAを名乗っていたアメリカの「ヴィンテージリビルド」社で、同社から「コマンド961」とブランドに関する権利を譲り受けた新生ノートンがイギリスで本格的に始動したのは、'09年からである。
そして以後のノートンは、「コマンド961」の発展に力を入れる一方で、'90年前後にノートンの代名詞だったロータリーのNRV588を復活させて速度記録に挑戦したり、アプリリアのV4エンジンを搭載するレーサーでマン島TTに参戦したりと、精力的な活動を行っているのだが、かつてのイギリス車を知る者の目から見ると、この姿勢も疑問を感じる要素だ。

と言うのも、'50年代まで世界のスポーツバイクシーンをリードしていたブリティッシュブランドが、'60年代に入って徐々に消滅していった背景には、多くのメーカーがレースに情熱を注ぎすぎて、深刻な財政難に陥ったという事情があるからだ。

そのあたりを考えていくと、「コマンド961」はまだ僕にとっては、万人に安心して勧められるモデルではないのである。もっとも、そうではあってもこのモデルは魅力的で、すでにノートンは多くのバックオーダーを抱えているようだけれど、ハンドメイド車特有のマイナートラブルや補修パーツの供給状況など、今のノートンには未知数の部分が多い。

というわけで、潤沢な資金と寛容な精神を持つライダー以外は、しばらくは動向を見守ったほうがいいんじゃないだろうか……というのが、現在の僕の心境なのだ。

Norton Command 961 Sport

車両本体価格:¥2,677,500
エンジン:OHV空冷並列2気筒961cc
最高出力:58.8kw(80ps)/7,700rpm
最大トルク:74Nm(7.5kg)/6,000rpm
問い合わせ先:ピーシーアイ
Tel 03(5793)8561

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