ランドローバーとレンジローバー

ランドローバーとレンジローバー

アヘッド レンジローバー

華やかな式典にいきなり現れた大柄なSUV。なぜ、レンジローバーが英国王室の晴れの舞台に起用されたのか、その理由を知るためには、歴史を少々遡らなくてはならない。

現在、レンジローバーは、ランドローバーの中のひとつのカテゴリーとして位置づけられる。ランドローバーとは、1948年に誕生したイギリスの自動車メーカーのことだ。

当時のイギリスは、二次大戦の戦勝国だったが、経済的には疲弊し切っていた。結果、国家の再建を支えるクルマの必要に迫られ、アメリカのジープのように多目的に使える四輪駆動車として開発されたのがランドローバー シリーズⅠだった。

シリーズⅠは、軍用に供される一方、民間では農業をはじめ、さまざな産業分野の実用車として利用された。アフリカでは、サファリを行うためのクルマとしても活躍。シリーズⅠはその後モデルチェンジを繰り返し、シリーズⅡ、シリーズⅢ、そして現在では「ディフェンダー」という名前に変わりながらも生産され続けている。

実用車としてイギリス国民に愛されたシリーズⅠ、シリーズⅡだったが、外板むき出しの車内や堅い乗り心地は、あまりにも武骨過ぎた。時代は'60年代も半ばを過ぎ、戦後の混乱も収まった頃である。

オフロード性能はそのままに、もっと快適なクルマこそ必要とされるとランドローバーは考えた。そして、'70年、イギリス国民の前にお披露目されたのがランドローバーのラグジュアリーモデル、「レンジローバー」だった。

外板をリベット留めしただけのシリーズⅡとは対照的に、レンジローバーは高級車のような作り込みがされていた。デザインは従来の“四輪駆動車は実用車”という概念を打ち破るものがあり、工業製品としては唯一ルーブル美術館に収蔵されていることからも、その高い評価が分かる。

販売価格ゆえに一般庶民のためのクルマとは言えなかったが、意外だったのは、貴族階級に属するような人たちもがこぞってレンジローバーを手に入れようとしたことだ。彼らは広い所有地を見回るためのクルマとして、レンジローバーがうってつけと考えたのである。それは、英国王室の人たちも同様だった。

レンジローバーの性能は、ただ単にオフロードも走れる高級車ではなかった。オフロードでの能力は非常に高く、事実、第一回と第三回のパリ・ダカール・ラリーでは優勝を果たし、道なき道を走破するアドベンチャー、『キャメルトロフィー』でも競技車両としてスマトラ島やパプアニューギニアのジャングルを走破した。次第にランドローバーの「レンジローバー」は、イギリス国民の誇りとなっていったのだ。

また、エリザベス女王の戴冠式でランドローバーの初期型シリーズⅠが使われた経緯もあり、純英国メーカーのランドローバーは、レンジローバーの登場により、よりいっそう王室との繋がりを強めていく。

英国には、英国王室御用達の証となる「ロイヤル・ワラント」というものが存在する。これは、エリザベス女王、エディンバラ公、チャールズ皇太子らに物品を納めるブランドの中から厳選される。

対象となるのは食品から工業製品までさまざまだが、ロイヤル・ワラントを与えられるには厳しい審査を受けなくてはならない。ひとつのワラントを授けられるだけでも名誉なのだが、レンジローバーを有するランドローバーは、三人それぞれから与えられる栄誉に浴している。

英国王室を筆頭にイギリス国民から愛されるメーカーがランドローバーであり、その象徴としてレンジローバーというクルマがある。イギリス最高式典のロイヤル・ウェディングにレンジローバーが登場したのは、そんな背景があったのだ。

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