F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 vol.23 超一流モデラーのいる理由

vol.23 超一流モデラーのいる理由

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このダウンフォースが強くなればなるほど車体を路面に押さえ付ける力が強くなり、遠心力に打ち勝ってコーナー通過スピードが向上。その結果、ラップタイムの短縮につながる。だから、F1チームはダウンフォースの向上に心血を注いでいるのだ。
 
気をつけなければいけないのは、ダウンフォースの向上に集中するあまり、空気抵抗を増やしてしまうこと。空気抵抗の増加は最高速の伸びを奪ってしまうからだ。コーナーもストレートも速いマシンは、強力なダウンフォースを発生させる一方で、空気抵抗の少ない空力パッケージを身にまとっている。

前後ウィングをはじめ、ボディに取り付けられた各種パーツの形状を吟味することで小さな性能向上を積み重ね、地道にパフォーマンスを高めていくのがF1の空力開発だ。まずはCFDと呼ばれるコンピューターシミュレーションを駆使し、「これなら性能が向上するはず」という形状を導き出す。
 
ところが、計算で導き出した形状が正解かどうかは、実際に走らせてみるまでわからない。困ったことに2009年以降はシーズン中のテストが禁止されているので、空力アイテムをアップデートしたとしても、レースウィークエンド中にぶっつけ本番で投入するしかない。シミュレーションの精度が高まっているので予測が大きく外れることはないだろうが、ギャンブル性は高まってしまう。
 
そこで風洞施設の出番だ。風洞とは、実際の走行環境を室内で再現する施設のこと。ロの字型をしたトンネル状の空間の一辺に計測室を設けて縮尺モデルを置き、これに風を吹きつけて空力アイテムの効果を確かめるのだ。規則によって縮尺モデルのスケールは最大60%、風速は最大毎秒50メートル(時速180キロに相当)と定められている。
 
タイヤがむき出しのF1は、回転するタイヤがかき乱す空気の制御も重要なので、縮尺モデルを置いたベルトを回転させて走行状態を再現する仕組み。毎秒50メートルの風が吹いているときは、路面(ベルト)も毎秒50メートルで動いている。

サーキットを走るF1は真っ直ぐ走るばかりではなく、コーナーでは向きを変える。向きを変えたときは当然、風も斜めから受けるわけで、その状況も風洞で再現できるようになっている。ベルトの下に設置した荷重計で、発生するダウンフォース量を計測し、効果を判断する。
 
正確なデータを収集するには、実車を正確に再現した縮尺モデルが欠かせず、それゆえF1チームには超一流のモデラーが在籍する。世界で最も実車に忠実な縮尺モデルは、F1の風洞用縮尺モデルと言っていいだろう

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写真はザウバーF1チームの風洞試験施設。出力3000kWの巨大なカーボン製ファンが毎秒50mの風を作り出す。シミュレーション技術が発達しているとはいえ、空力開発の基本はトライ&エラーの世界。シーズン中もシーズンオフも絶え間なく新しいアイデアを試し、地道に空力性能を高めていく。(写真・Sauber F1 Team)


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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

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