「頭文字D」にも登場した「溝落とし」…実際には可能?不可能?

頭文字D(AE86)

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未だに映画の新作が公開されるなど、いつまで続くのだろうと思う「頭文字D」の原作漫画が連載開始したのは今から20年前です。最初に「溝落とし」を見た時は衝撃だった人も多いと思います。

試した人も結構いると思いますが、実際には可能なんでしょうか?
Chapter
「溝落とし」ってどんな走り?
「溝落とし」不可能派の意見
「溝落とし」可能派の意見
本来は走り込んだ先にあるもの

「溝落とし」ってどんな走り?

「頭文字D」の一番最初のバトル、秋名峠で「赤城レッドサンズ」でFD3Sを駆るエース級ドライバー高橋啓介と、何となく成り行きでバトルする事になったAE86を駆る「藤原とうふ店」の藤原拓海との対決で飛び出した技が「溝落とし」です。

とりあえず啓介のFD3Sが思ったより速かったので、勝負を終わらせて早く帰りたかった拓海が一気に勝負をつけてそのまま帰うために使ったのですが。タイトコーナーの侵入でアウト側に寄った啓介のFD3Sを、インベタからありえない速度で抜き去るAE86が印象的でしたね。

遠心力でアウト側に吹っ飛ぶはずのAE86を、イン側の溝にタイヤを引っ掛ける事で「レールの上のジェットコースターのような」動きをさせたわけです。「そんなスピードで曲がれるはずが無い」とタカをくくっていたFD3Sの啓介は呆然となすすべも無く戦意喪失してしまったわけですが、そういう車の動きを初めて見れば、無理もありません。

「溝落とし」不可能派の意見

さて、その「溝落とし」が実際に可能かどうかについては賛否両論あり、実際に試して事故る人もいたので、実体験から否定する人も多いと思います。現実的な話として、コーナーに侵入して今まさに慣性の法則と遠心力による横Gが襲う!という場面でタイヤを溝に落とし、そのままコーナリングしようというのは無謀な話です。

仮にタイヤと溝を噛み込ませるような仕組みでもあれば可能ですが、激しい摩擦にさらされるタイヤのサイドウォールがもつのか、同じく設計想定外の負荷を受けるサスペンションや駆動系は無事で済むのか、などスタントアクションとしてはともかく、そのコーナー以外も早く走らなければいけないバトルやタイムアタック向きではありません。

さらに横Gが激しくなればなるほどイン側のタイヤ荷重は抜けてきますから、仮にインベタのまま溝をレールのように使ってイン側のタイヤを引っ掛けて走ろうにも、スピードを上げれば上げるほど途中で溝からスッポ抜けます。

そしてスッポ抜けた瞬間に猛烈な横Gでどアンダーになりますが、仮に前後タイヤが同時に溝から抜けていないと激しく挙動が乱れてタコ踊り、クラッシュという結末が待っています。
皆さんの中にも、雨が降っている日のカーブで白線やマンホールを踏み、一輪だけ瞬間スリップ・次の瞬間グリップで挙動が乱れて怖い思いをした人がいるかもしれませんが、それと同じようなイメージです。

「溝落とし」可能派の意見

先の項と矛盾するような話になりますが、「溝落とし」はできますし、実際のドライビングテクニックとして使われていますし、筆者もジムカーナでやっていました。

ラリー競技のテクニックとしては昔からあって「頭文字D」の元ネタでもあったりしますが、ジムカーナ競技でも脱輪(ジムカーナ競技はコースから脱輪すると5秒ペナルティがつくんです)せずに済む中に浅い溝などあれば、使えるものなら何でも使います。

ただし、それは「頭文字D」序盤で多用された「溝落とし」ではなく、少し後に「エンペラー」というランエボチームでエボIVを駆る岩城清次とのバトルで使った「溝落としパートII」の方ですね。

パートIは侵入からもうインベタで行ってしまいますが、パートIIはコーナリングからの加速に一番影響を与える「クリッピングポイント」と呼ばれるところを中心に行い、つまり後半の一瞬だけ溝を落として立ち上がり加速を重視する方法です。

「クリッピングポイント」はそのコーナーで一番イン側につくポイントですが、これが手前過ぎるとその後もアンダーステアと戦いながらズルズルとコーナリングを続け、立ち上がり加速が遅れます。

なるべくコーナーの奥に取って、ステアリングを真っ直ぐに近づけたほぼ完全加速、その状態で奥に取ったクリッピングポイントをかすめればアクセルを早く踏めるので、立ち上がり加速にはもっとも有利です。

もっとも、まだコーナーから完全に脱出していないので横Gは残っています。そこで、そのクリッピングポイントに浅い溝でもあれば、そこに一瞬引っ掛けて横Gに対抗しながらクリッピングをさらに奥まで引っ張り、アクセル全開のままなるべくイン側にとどまる事でコーナー脱出後の加速でコース幅を広く使えますし、より早く、次のコーナーまでより長くアクセルを踏めるようになります。それが「可能な溝落とし」です。

本来は走り込んだ先にあるもの

「頭文字D」主人公の藤原拓海がまさにそうでしたが、ホームコースで路面を隅々まで把握してると、いろいろな事を考えるのです。「溝落とし」に限りませんが、アウェーのサーキットなどに行って、常識とちょっと違うラインで走ってる人がいたら、何かあると思って注意深く観察してみてもいいかもしれません。

ただし、溝落としに関して言えば、実用的なのは少しグリップを稼げる程度のほんの数mmの深さの溝で良くて、あまり深いと前述したように車の挙動を乱す原因になります。
試すならカートコースのジムカーナやミニサーキットなどのクローズドコース限定で、まず自分の足で歩いて確かめましょう。

ジムカーナであれば「慣熟歩行」という時間にコース内を歩けますし、ミニサーキットの中には走行時間外にドライバー自らコース清掃する決まりになっているところや、コントロールタワーに頼めばコース内を徒歩で見学させてくれるところもあります。

溝に引っ掛ける事だけでなく、うっかり引っ掛けると大変そうな溝など、走行に影響を与えるいろいろな発見がありますよ!
「溝落とし」はドリフトではなくグリップ走法の技です(応用すれば、コースによってはその後のドリフトのキッカケ作りにも使えますが)。

他にも「頭文字D」には「インのさらにイン」(別名「溝浮かし」)や、ヘアピンコーナーをジャンプしてカットする技などもありますが、大抵は無理か実用性が薄く、まだ往年の名レーサー星野一義氏が縁石でイン側のタイヤを浮かしてショートカットする「星野走り」の方が実用性が高いと思います。

「溝落としパートII」も実用性は極めて高いのですが、よほどコースを熟知しているか、とっさのひらめきでも無いとやる機会もありません。しかし、ホームコースでは他にも独自ラインで走る理由やその方法は数多くありますので、「アウト・イン・アウト」だけにこだわらず、柔軟な思考で走りに挑戦しましょう!
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