スバルの売上好調!それでも増産に踏み出さない理由とは?

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いまスバルの売上がとても好調といわれています。
一時は倒産か吸収合併かといわれた時期もあるスバル、いまは利益率の高い自動車メーカーとして注目を浴びており、クルマも売れに売れています。
北米では作ったそばから売れていくため、「蒸発」と表現されるほど。

現社長の吉永氏が北米のディーラー大会に参加する際に、現地担当者から「ヘルメットを持っていった方が良い。きっと販売店から叩かれるから」と忠告を受けたという話は新聞等にも取り上げられています。

しかし、「一台足りないくらいがちょうどいい」と、一向に増産に踏み切らずに現状の生産体制での生産を続けています。クルマが足りないのに、なぜ増産しないのでしょうか?
Chapter
スバル好調の理由は3つの「集中とシナジー」
増産に踏み切らない2つの「戦略」
好調スバルに死角はないのか?

スバル好調の理由は3つの「集中とシナジー」

好調の理由を一言で表すと、「集中とシナジー」効果と言うことができるでしょう。

以前スバルは日産の傘下にありましたが、その後トヨタからの資本参加を受け、トヨタグループの一員となりました。同じトヨタグループ内の各社と棲み分けするという目的もあり、軽自動車の自社開発からは撤退しダイハツからのOEM供給とし、またトヨタからカムリの生産を受託するなどの支援を受けて選択と集中を進めるとともに、独自技術である水平対向エンジン+AWDにフォーカスする戦略に転換しました。これがひとつ目の「集中とシナジー」です。

ふたつ目の「集中とシナジー」は、北米市場におけるマーケッティング戦略です。乗用AWDによる独自のイメージを前面にマーケットに訴求した結果、北米におけるスバルの客層が「高学歴・高収入の層」になってきたそうです。それも、医者・医療関係者、教育関係、弁護士、エンジニア、マネジメントレベルといったホワイトカラーに支持を拡げたことから、「知的専門職とライフスタイル」に的を絞ったニッチマーケティング戦略を展開しました。

これが奏功しさらにスバル車ファンが増加、その後北米市場に的を絞った新型レガシィが登場。サイズアップして体格の大きい北米人でもゆったり乗れ、またデザインもアメリカ人好みなテイストとなり、爆発的な売れ行きとなっています。「アイサイト」が先進技術好きの「知的専門職」層の琴線に触れたのも人気の理由です。

北米におけるディーラーとの関係も「集中とシナジー」で変えてきました。以前の業績悪化の際にはディーラー数が急激に減ったそうです。しかし、AWD戦略で業績が回復してもむやみにディーラー数を増やすことなく意識的に絞り、ディーラー当たりの販売台数を増やすことで逆に集約的な、的を絞った営業展開ができ、より成績が上がるという好循環を実現しているそうです。

ディーラーとメーカーの関係も濃密になり、メーカーはディーラーの意見をよく聞き、ディーラーもスバル車を売るために専用ショールームを開設する。そういった好循環がスバルとディーラーとの間にでき上がっているといえるでしょう。

この状況ですから、素人目には「生産拠点や設備を増やして生産を増やしたらいいじゃないか」とも思ってしまいますね。しかし、増産には慎重なスバル。既存の生産設備をフル稼働しているものの、新しい生産拠点の開設や設備への投資は消極的のようです。

増産に踏み切らない2つの「戦略」

スバルには苦い思い出がありました。

1990年頃、プラザ合意による円高誘導政策で日本車の販売が急激に落ち込み、大量の在庫を抱えて四苦八苦した経験が、増産へ向かう気持ちを抑えています。自動車業界全体でも似た例があり、トヨタが2000年代から海外に向上を建設したものの、リーマンショックによる販売減で向上の稼働率が低下したということがありました。好調だからといって生産能力を拡充しても、その拡充が終わった頃に好調さが維持できているかどうか、今の波の満ち引きの早い経済環境では見極めづらいのが実際のところなのでしょう。

以前一大ブームを巻き起こした「たまごっち」が売れに売れていたころ、メーカーは問屋から「増産しろ!」の圧力を受け、大増産体制を整えたのですが、体制が整った頃にはブームが去ってしまい大変な目に合った・・・ という話もありますが、クルマの場合は生産拠点の規模も大きいですし、労働者を集めたり教育したりするコストも莫大です。そのため、このたまごっちの例に似た状況となると会社の屋台骨を揺るがすくらいの大きな痛手となりますので、こういったことになってしまうのを恐れているのかもしれません。

かくしてスバルは、生産拠点の新設や設備の増強といった拡大戦略をとらず、既存の設備で生産できる最大限で対応するという戦略をとりました。大きな賭けに出ずに堅実な戦略を取ったということができるでしょう。

一方、スバルは戦略的に「一台足りない」状況にもしています。アメリカでは日本に比べてディーラーの独立性が高く、同一メーカーのクルマを販売するディーラー間の競争も激しいですし、同じディーラーが複数のメーカーのクルマを併売していることもあります。新車ディーラーは大量の店頭在庫を持ち、客はその在庫の中から気に入ったクルマを購入して、買ったその日に乗って帰るようなスタイルですから、在庫がダブつくと、メーカーは販売促進策を打って販売のテコ入れをします。これが「販売促進費」いわゆる「インセンティブ」です。
アメリカの自動車市場では1台当たりの販売促進費が2800ドルほどといわれています。

しかしスバルは「一台足りない」戦略で、「あるなら多少高くても買いたい」「売れてしまったらいつ買えるかわからないので、条件が悪くても買ってしまいたい」という、消費者の焦りにも似た心理に訴えることで、販売促進費を平均 800 ドル程度に抑えているそうです。生産が追いつかない状況を逆手に取った、値引きに頼らず売りたい値段で売れるようにするための「一台足りない」戦略が、もう一つの戦略です。

過去の自身や他社の経験から投資は慎重に、そして需要が供給を上回る状況を巧みに利用した販売戦略という2つの戦略が、好調を維持している秘訣といえるでしょう。

好調スバルに死角はないのか?

絶好調にも見えるスバル。全く弱点はないのでしょうか?

残念ながら弱点はあります。中国です。欧米勢による値引き競争が激化していて、スバルは中国での販売が苦戦しています。設定していた目標台数を撤回して中国向けだった生産数を米国向けに振り向けています。それはすなわち北米依存体質がさらに進んでいるということを意味しており、もしこれが失速するようなことにでもなれば、業績を大きく左右するリスクとなります。

また、国内生産比率の高いスバルは、現在の円安の状況では為替の恩恵を受けますが、今後中国経済の失速等の理由でドル安円高の状況となった際は、為替損のリスクがあります。
北米への依存が高いため、為替相場の潮目が悪くなると一気に利益率が下がってしまう恐れを抱えています。

車種展開が少ないスバルは、国内の販売も人気車種が失速すると一気に全体がしぼんでしまうというリスクを抱えています。レガシィは北米向けとなったことから日本の道路事情では大きすぎるという評価もあります。インプレッサはそろそろモデル末期に入っており、好調なレヴォーグも燃費では他社の車より一歩後ろとなっているため、ガソリン価格の上昇によっては消費者が離れてしまうリスクがあります。

こういったこともあり、生産拠点の新設や設備の拡大といった積極策には大きく打って出られないという事情もありそうです。

日本の自動車メーカーとしては小さい方に属するスバル。「山椒は小粒でピリリと辛い」という諺が似合うイメージですが、増産に踏み切らないのは絶妙なマーケティング戦略と自身のサイズ感や現在の市場動向を冷静に見た経営戦略が理由になっているようですね。

小さな会社には小さな会社としての魅力もありますし、スバルには水平対向エンジンやAWD、アイサイトといった魅力的な商品があります。
背伸びしすぎず、今持っている素晴らしいものをより一層磨いて、小さくても光る会社、光る魅力的なクルマを作り続けてほしいと願っています。
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