令和の時代に送る、三菱にとって平成最後のクルマ、eKクロス/eKワゴンを試乗チェック!

三菱 eKワゴン eKクロス栗原祥光

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いきなり結論を申し上げると、今春三菱が激戦の「ハイトワゴン」「軽トール」とよばれる市場に投入したeKクロス/eKワゴンは、軽自動車の新たな指標と言えよう。約6年ぶりのモデルチェンジとなる、注目を集める新型eKシリーズの内容と乗り心地を紹介しよう。
Chapter
三菱と日産のいいとこどり
室内の広さと使い勝手に脱帽
自然吸気エンジンが気持ちよいeKワゴン
三菱らしさ=アウトドアテイスト満載のeKクロス
キビキビとした楽しさが味わえるNAハイブリッド2WD
もっと遠くへ。ハイブリッドターボ+4WDモデル

eKシリーズは2モデルが用意される。正常進化モデルといえるeKワゴン(129万6000円〜150万6600円)は「運転が得意ではなくても、もっと運転を楽しみたい人」をターゲットにしたモデル。例えば買い物や子供の送り迎えなど普段使いされる主婦が、eKワゴンにより、車が道具から相棒へと変わる、といったイメージだろうか。装備の面では最もベーシックなモデルだ。

いっぽう、その見た目と共に話題を集めるのは、eKカスタムの代わりとして誕生したeKクロス。「eKワゴンをベースに三菱らしさを加えたモデル」という位置づけで「もっとアクティブに車を楽しみたい」という方をターゲットとしている。デリカD:5登場時に賛否両論を巻き起こした、あのフロントマスク「ダイナミックシールド」が目を惹くエクステリアは、SUV感を演出するフロントバンパーのデザインと相まって、アウトドアの三菱を意識させる1台に仕上げられている。

三菱と日産のいいとこどり


さて、ここで紹介する新型eKシリーズと日産のデイズ・シリーズは、三菱自動車と日産自動車の合弁会社であるNMKVが企画・開発マネジメントし、両社のエンジニアの協働で誕生したのは既報のとおり。「約60年にわたる軽自動車づくりのノウハウ」を持つ三菱自動車と「先進技術」の日産自動車の共作で、いわば「よいとこどり」のズルいやつ。当然ながら「期待するな」という方が難しい話だ。まずはeKワゴン/クロスの基本項目から紹介しよう。

自然吸気エンジン

まずは新開発されたドライブトレインについて。新設計のエンジンはターボと自然吸気の2種類が用意される。どちらも直列3気筒だ。いずれも従来よりトルクが増強されたほか、より低回転から発生する特性で、いわゆる信号待ちからの加速で余計にアクセルを踏むなどのストレスが低減する、余計に踏まないからガソリンが節約できる、というメリットがある。

自然吸気+ハイブリッドエンジン
ターボ+ハイブリッドエンジン

それぞれに電気モーターを取り付けたハイブリッド仕様がラインアップするのも注目の一つだ。軽自動車にハイブリッド車を用意するのはスズキに続くもので、新型ekシリーズの場合、モーターによって加速時にエンジンをアシスト(最大約30秒間)するほか、アイドリングストップからの再始動も静かに行えるもので、燃費向上はもちろんのこと、よりトルクフルな走りに貢献する。

これまた新開発で軽自動車初搭載の可変速CVTというパワートレインを搭載。CVTというとい、加速時に「威勢よくエンジンから音はするが加速しない」というイメージを持たれる方もいらっしゃるが、可変速CVTは「ギア変速のAT車両」のような段階的な動作によって加速時のエンジン音を抑えるというもの。

後述するが、この動作は「生理的に心地よい」ものだった。このパワートレインからの動力を、モデルによっては、前輪または四輪によって地面に伝えられる。

ステアリング右側に取り付けられたMI-PILOTボタン

これらの基本体力のよさに、衝突低減ブレーキや車線警報逸脱システム、踏み間違い衝突防止アシストなど先進の安全性をプラス。なかでも注目はオプション(7万200円)として用意された三菱自動車初となる自動運転レベル2「MI-PILOT」だ。

いわゆる「プロパイロット」の三菱版で、車両が車間距離と車線中央をキープしつづけることで、高速道路での巡航走行だけでなく渋滞時におけるドライバーの負担を大幅に軽減する。軽自動車に自動運転レベル2を搭載するのは三菱・日産が初めてではないのだが、渋滞時でも動作するのはこれらのモデルが初となる。そのほか、アラウンドビューモニター、デジタルルームミラーなどのオプションも用意。運転に不慣れな人を車がそっとアシストしてくれる。

室内の広さと使い勝手に脱帽


軽自動車というとボディの小ささゆえに「狭い」と思われるだろう。左右方向は軽自動車なりではあるのだが、シャーシそのものを見直しホイールベースを従来のeKに比べて65ミリの伸長。上下方向と前後方向は「これが軽自動車なの?」と思うほどの室内空間を実現した。

車内を見渡すと、まず目につくのはシート。スポーティータイプにありがちな張り出しが少なく、運転席と助手席の間にセンターコンソールもない。運転席と助手席の間には可動式のアームレストのみが置かれる。まるで昔のベンチシートに似て、ドライバーの体格を選ばない。さらにシート位置を決めるレバーが大きいのもポイントだ。



eKシリーズは、収納がいたるところに用意されている。運転席と助手席には各2箇所ドリンクホルダーを設けるだけでなく、センターの引き出しの下には大きめのタオルを入れるに丁度よいボックス、助手席のグローブボックスは二段式で、運転席の下にも折りたたみ傘を入れるにピッタリの収納、さらに助手席下にはシューズボックスまで用意されている。


アイデア賞は助手席のドアに設けられた車検証などを納めるスペースで、メンテナンスノートなどを丸めながらグローブボックスが占有されずに済むのは嬉しい限り。驚きを超えて素直に感動した。


秀逸なのは後席だ。広さやフラットボトムだけでなく、サイドシルがとても低く、さらにシートの角が取れた形状で、お年寄りや子供の乗降時に負担・無理を強いない。さらに「Cセグメントのセダンか?」と錯覚するほどの足場の広さで、脚を組むことができる!ひとクラス上にあたるBセグメントのコンパクトカーでここまで広いモデルはちょっと思いつかない。


この感動は、リアゲートを開けるとさらに加速する。あれだけリアシートの足元が広いのにも関わらず、スーツケースが立てて入るほどの荷室が用意されているのだ。さらに蓋を外せば下にも収納がある。しかもワンハンドで後席全体が移動し荷室の容量がさらに拡大。


このように車両のすみずみまで「この車には、どんな人が乗るのか、その人には何が必要なのか」という面をよく考えられているのが、このeKワゴン/クロスに美質で、ここに軽自動車を作り続けて約60年、三菱自動車のノウハウ、強みを感じた。


この事は操作系にも垣間見れる。今時の車にしては「ボタンの類が少ない」のだ。最近の車は走りのテイストを切り替えるスイッチをはじめ、様々な付帯機能を搭載するが、ハンドル後ろに当たり前のようにあるパドルシフトすら存在しないシンプルさ。エンジンブレーキを使いたいのならシフトレバーをLのポジションにすればいい。


必要最小限にして必要最大限で他社の追従を許さんとばかりの内容をもつeKシリーズ。乗る前から「コンパクトカーよりも広くて使い勝手がいい車」「これでいいんじゃないか?」と思ってしまう。それでは各モデルについて紹介しよう。

自然吸気エンジンが気持ちよいeKワゴン


曲面を多様した上品なエクステリアをまとった5ドアのボディに、ライトグレーを基調とした明るくてオシャレな車内というシンプルでカジュアルな印象のeKワゴン。安っぽい、という感じを受けないどころか「イイもの感」が溢れている。

カラーバリエーションは7色展開で、中でも写真の新色ミントブルーメタリックは、爽やかで内装ともマッチ。女性だけでなく男性にも好まれるだろう。


用意するエンジンは自然吸気タイプのみで、二駆モデルと四駆モデルが選べる。グレード展開は、MI-PILOTに対応する上級グレードのGと標準のMの2種類だ。試乗したのは、二駆・MI-PILOT搭載モデルだ。

市街地を走り気づくのは「生理的な心地よさ」。素直なステアリングフィールと自然吸気エンジンゆえのアクセルと出力が比例する気持ちよさは、素直に「運転が楽しい!」と思えてくる。この気持ちよさを「加速」させるのが「可変速CVT」の動きで、低速域では普通のCVTと挙動は変わらず静かで滑らかなのだが、踏めばレブリミットまで回転が上がると思いきや、いったん回転数が落ち、さらに加速していく。このギアチェンジしている感がイイ。


感心するのは、車体そのものの遮音性能の高さと、しなやかな乗り味。街乗りは快適そのもので、この車両を購入するであろうユーザーニーズを十全に把握している。

視界の広さも印象的で死角がとても少ない。バンタイプにありがちな「背筋を伸ばした」「なんかトラックかバスを運転している」という感じではない乗用車的ポジションは、とても運転しやすいものだ。コンパクトな取り回しのよさと相まって「前作の弱点をすべて潰して作られた究極の街乗りクルマ」という言葉がぴったりだと感じた。

三菱らしさ=アウトドアテイスト満載のeKクロス


eKワゴンで満足してしまった筆者としては、上級モデルに位置づけられるeKクロスにとても興味を沸いた。デリカD:5登場時に話題になったフロントマスク「ダイナミックシールド」が、このeKクロスにも登場したことから、今後同社の新型車には随時採用されていくことだろう。



このダイナミックシールドは「奇をてらった」デザインだけで作られたものではない。運転中もしくは歩行中、軽ワゴンやSUVのヘッドライトが放つ光に眩しさを覚えたことはないだろうか。

それらはすべてヘッドライトの位置が高いことから起因する。そこで三菱は最上段にポジションランプを配置し歩行者からの視認性を確保しつつ、下段に縦3連ヘッドランプを配することで、対向車は歩行者に対して眩惑防止に努めた。

ハイビームが一番下に位置しているのもそのため。ヘッドライトの光軸調整に難儀を極めたことだろうが、乗り手だけでなく社会全体を見据えたデザインを取り込れたこと評価されてしかるべきだし、このような視点はもっと他社も見習うべきだ。


見るからにSUVテイスト、アウトドアテイストは、車内・車外含めてちりばめられている。天井に設けたレールはアウトドア系SUVでよく見かける装備だ。あると便利だし、あれば「天井に何か載せて出かけたい」気分になる。

車内もアウトドアを意識した暗めな色調と、プレミアムインテリアパッケージというたんレザーとライトブラウンを基調としたメーカーオプションを用意する。いずれも落ち着いた感じでありながら、外観と相まってアクティブな印象を受ける。

基本的な室内装備はeKワゴンと同様であるが、色調が変わるだけで、ここまで違うのかと思うほど。ちなみに三菱の純正オプションとして、カーペット調のフロアマットのほか樹脂製のオールウェザーマットも用意。これもまたアウトドアを意識させるアイテムだ。


エンジンはハイブリッド搭載の自然吸気とターボの2種類。ノンハイブリッドのモデルは用意されず、eKワゴンとの差別化をより明確化されている。そのほか基本的な部分はeKワゴンと同等で、二駆モデルと四駆モデルの2車種を用意するのも同様。

しかし、カラーバリエーションは、eKワゴンを大幅に超えて11パターン。特に2トーンは、ふつうは上は黒やシルバーで統一するところを用意する5パターンすべて異なる色を使っているというから驚きだ。

「工場から相当文句が来ましたが貫き通しました」と開発担当は笑いながら話をする。さらに言えばオプションのガーニッシュが3パターンを加えると、33バリエーションが作れる。それだけ色に対する消費者ニーズが高いのだろう。


ちなみにeKシリーズと日産デイズシリーズは三菱自動車の水島工場で作られるのだが、カラーバリエーション、仕様違い、メーカー違いなどが混在するにも関わらずなんと1ラインというから驚き。工場が相当文句を言ってくるのも無理はない……。それにしても、この生産管理には驚愕に値する。

キビキビとした楽しさが味わえるNAハイブリッド2WD

まずは2駆・自然吸気ハイブリッドから試乗しよう。eKワゴンの美質はそのままに、驚くのは「ハイブリッドなの?」という自然さでありながら、確かに加速の面で力強さ。

いっぽうでエンジンブレーキの効き方に「ハイブリッドっぽいかも」という挙動を感じるのだが、それも言われてみれば、の話で、基本的にeKワゴンで味わった自然吸気エンジンの気持ちよさにモーターアシストが寄り添っているという印象だ。そして余計にアクセルを踏む必要がないため、静粛性はより一層向上する。

アイドリングストップの挙動はいっそうマイルド。モーターアシストによって、明らかに静かで振動が少ないばかりか出足がとてもよい。また減速している途中でエンジンが停止するため、信号待ち等で停止した瞬間に急に止まって無音になる、というような事もない。スーッと止まって、スーッと動く。まるで高級車のように。

足回りはeKワゴンとは異なりキビキビとした印象を受け、車からよりアクティブに運転を楽しみませんか、という声が聞こえるようだ。居心地もわずかに硬い方向へとシフトしているが、いっぽうで、コーナーリング時のグリップ感が増しているようにも感じた。これはきっと、ホイールを1インチ大きくし、タイヤの扁平率が下げているためだろう。


eKワゴンとeKクロスは同じプラットフォームながら、キャラクターの違いが明確にある。どちらがいい、悪いではなく、使うステージが異なるという感じだ。

もっと遠くへ。ハイブリッドターボ+4WDモデル


最後に最上位となる4駆・ハイブリッドターボモデルに試乗すると「遠出したくなる」感が何倍にもアップする。これまでの美質にパワーが加わり、一言でいえば「これは軽自動車なのか?」とよい意味で疑ってしまう。

トルクフルなエンジンにハイブリッドの組み合わせは「軽自動車はパワーが足りない」という印象を過去のものにする。さらに「ターボはともかく軽自動車に4輪駆動は必要なのか?」という考えも、高速道路に乗ると「車がまっすぐ進もうとしている」という強い意志を感じる。高速道路を多用する方はぜひ四駆モデルをお勧めしたい。


さらに「MI-PILOT」をオンにすると、その楽さが格段にアップ! 雨が降ると安全の面からMI-PILOTは使用できなくなるものの、オンにするとハンドル支援が働き「え?」と驚くことだろう。

そして前走車に近づくと徐々に速度が落ち、渋滞時でも前走車に追走することに感動する。おでかけ先に行くだけで疲れてしまい、現地では楽しめない。思いっきり遊んだあとの運転は辛い、という経験がある人には、このMI-PILOTはとてつもなく魅力にうつることだろう。


そして疲れたらゆったり休めるのも、eKシリーズの美質。ヘッドレストを取り外せば、ゆったりとしたベッドができあがるのだ。目的地でのお昼寝、高速道路の休憩施設で仮眠に有効なのは間違いない。

日本の独自規格である軽自動車は、我々のライフスタイル、そして普段利用する道にジャストフィットしている。eKワゴン、eKクロスの3台に乗って思うのは「ここまで軽自動車が進化しているのか」という感動と「完成度の高さ」だ。

それらはどちらも「軽自動車に何が求められているのか」を丹念に調べ上げ、欠点をすべて潰した完成度の高さに他ならない。ekシリーズを通して「いい軽」の名にウソ偽りはなし、いや「いい軽を超えている」と感じるとともに、軽自動車の新たなる指標になる一台といえそう。自動車の購入を検討されている方は、まず一度eKシリーズに触れることをお勧めしたい。現在の軽自動車の凄さに驚くこと間違いナシだ。

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