ジャガー I-PACE(iペイス)の試乗レビュー

ジャガー I-PACE 2019

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昨年3月のジュネーヴ・ショーにて、正式な市販モデルが世界初公開されたジャガー「I-PACE」。今年年明けには「ヨーロッパ・カー・オブ・ザイヤー2019」を授与されるなど、世界が注目するジャガー初のフルBEVがついに日本にも上陸。デリバリーの開始に先立って、テストドライブのチャンスが設けられることになった。

文・武田公実
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ジャガー I-PACEはまるでスーパースポーツの下半身にクーペ
ジャガー I-PACEは実用性の高さを考えると明らかに「SUV」
ジャガー I-PACEは「ナチュラルさとワクワク感が一台に」

ジャガー I-PACEはまるでスーパースポーツの下半身にクーペ

ジャガー・ランドローバー社が自ら「スーパーカーの外観、スポーツカーのパフォーマンス、そしてSUVのスペースを備えた、従来の常識に捉われない電気自動車」と標榜するI-PACEは、バッテリーを床下に収めるべく高められた全高ゆえに、一見したところでは当代流行のSUV的なスタイルとも映るだろう。

しかし現車をよくよく見てみると、2010年のパリ・サロンにて参考出品され、2015年公開の映画「007スペクター」では、主人公ジェームズ・ボンドのアストンマーティンDB10を向こうに回して苛烈なカーチェイスも展開したジャガーのスーパーカー・コンセプト「C-X75」のデザインエッセンスを巧みに取り入れていることが判る。

全身に対してキャビンが前進した「キャブフォワード」のプロポーションに、ミッドシップのスーパースポーツを思わせる短くも流麗なノーズ。まるでスーパースポーツの下半身にクーペスタイルのSUVのキャビンを載せてしまったようでもあるのだが、それがまったく破綻をきたすことなく、実に美しいスタイリングを成している。

余計なことかもしれないが、リアに大仕掛けのガルウィング式ドアを持つアメリカ・シリコンバレー製の某ライバルBEV(Battery Electric Vehicle)などよりも、少なくとも筆者の私見では遥かに魅力的に映るのだ。

ジャガー I-PACEは実用性の高さを考えると明らかに「SUV」

一方のコックピット周辺は、未来的な中身の割にはプラグマティック。また流麗なボディスタイルを見せつけられたことによって、ある種の刷り込みができてしまったのか、こちらもスポーツカー的に映る。ただし身を翻して後席を見れば、その気になればショーファードリブンに供することだって不可能ではないコンパートメントが広がっている。

加えて、バッテリーやモーターが床下に配置されるためにフロアこそ高いのだが、トランク、英国式に言えば「ブート」の容積も、充分という以上のものがある。つまりは、スペース効率などの実用性の高さについて言うならば、このクルマは明らかに「SUV」なのである。

ジャガー I-PACEは「ナチュラルさとワクワク感が一台に」

ジャガーI-PACEに搭載される、急速充電が可能な90kWhのリチウムイオン・バッテリーは、一回の充電で438km(WLTCモード/国土交通省審査値)の走行距離をマーク。

前後輪にモーターを各1基ずつ配置した4WDで、システム合計の最高出力は400ps、最大トルクは実に696Nmを発生するとのことである。その結果、0-100km/h加速で4.8秒というなかなか高性能なスペックを誇るのだが、路上に出てアクセルペダルを踏み込んでみると、その数値を疑う余地など皆無であることが判明するだろう。

市街地であろうが高速道路であろうが、その加速力は猛然たるもの。あっという間にスピードを乗せてゆくのは現代の高性能EVに共通するテイストなのだが、「ドライブ・バイ・ワイア」のインバータ制御が巧みなのだろうか、I-PACEの加速感は既存の高性能EVのごとき直線的、あるいは暴力的なものではなく、より人間の感性に近い二次曲線的なものに設えられていると感じられる。

そして、ここで意外な効力を発揮してくれたのが「アクティブ・サウンド・デザイン」機能。SF映画に登場する宇宙船のようにも、あるいはV8のガソリンエンジンのようにも聴こえる電子合成音を、任意で発生させられるシステムである。

この機能について正直に言えば、乗る前には単なるギミックに違いないと勝手に決めつけてしまっていた。ところが実際にかすかなサウンドを聴きながら走ってみると、背中をシートバックに押し付ける重力や視覚だけではなく、聴覚でも加速を感知できることによって、高性能EV特有の強烈な速度の上昇も格段にナチュラルなものとして受容できることが分かってくるのだ。

加えて、これまでの高性能EVとは一線を画したこのナチュラルなドライブ感覚は、パワートレーンのみに留まらず、シャシーのセッティングについても貫かれているようだ。今回の試乗車両は、既に完売してしまったというデビュー記念モデルの「ファーストエディション」。さらにエア・サスペンションと22インチのタイア/ホイール(オプション)が与えられているのだが、この巨大なタイアを履いていても乗り心地は良好である。

もしかしたら、今回は乗る機会のなかった標準指定の20インチ、あるいはベーシックモデルの「S」が履く18インチを選べば、往年のジャガーの代名詞「ネコ脚」っぽいソフトな乗り味をもっとアピールできるのかもしれない。しかし、車両重量が2.2トンを超えるSUVスタイルのクルマながら、クイックかつ安定感のあるハンドリングまでナチュラルに両立させていることを思えば、22インチという選択もアリではないかとも思われるのだ。

内外装のデザインやパワーフィールには、当代最新のEVらしいワクワク感が存分に味わえる一方で、時代を超えて高級車に求められるナチュラルな感触をも両立したジャガーI-PACEは、個人的には現時点で入手できるあらゆる高級・高性能EVの中でも格別に魅力的なものと感じさせるポテンシャルがある。

ジャガーの歴史的名作と言えば、約60年前の世界にセンセーションを巻き起こした「Eタイプ」を挙げるのが共通見解となるだろうが、2019年の現代において往時のEタイプに相当するようなインフルエンサーとなり得るクルマを挙げるならば、それはジャガーI-PACE。将来の自動車ヒストリアン(史家)は、きっとそう断じるに違いないと確信したのである。
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