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ハンドルの据え切りによって何が起きる?
サスペンションへもダメージが!
どうしたら据え切りをしないで済むのか?

ハンドルの据え切りによって何が起きる?

クルマが静止した状態でハンドルを切ることを、ハンドルの据え切り、といいます。

パワーステアリングが標準装備されたクルマは、エンジンが掛かってさえいれば、とても軽い力でハンドルを回すことができます。狭い路地や駐車場など、何度も切り返さなければならない場面では、とても重宝しますよね。しかしそれは、クルマやタイヤに大きな負担となっています。

最近は、コンパクトカーであっても、ほとんどのクルマが車重1tを超えています。さらにFF車であれば、前後重量配分がフロント60%以上というクルマも少なくありませんから、フロントタイヤ1輪には、300kg以上の荷重がかかることになります。

それだけの重さがタイヤ1輪にかかっているため、据え切りをすると、接地している部分のトレッドゴムがダメージを受けます。人間なら、片足のかかとを軸に回転を続けると、靴底のかかと部分だけが傷んでしまいますよね。据え切りも同じで、クルマが静止した状態でハンドルを切ると、タイヤは前述したようにトレッド面の同じ場所を路面にこすりつけることになり、一箇所だけダメージを受けることになります。

また、新しいアスファルトや真夏の炎天下で据え切りをした場合、路面にはその跡が回転模様になって残っているのを目にしたことがあると思います。据え切りは、タイヤだけではなく路面をも痛めているのです。

サスペンションへもダメージが!

ハンドルを回すと、その回転力はステアリングコラム、ステアリングシャフトを通して、ステアリングラックギアに伝わります。そして、ラックギアから左右へ伸びたタイロッドを移動させて、タイヤの角度を変えています。

このときクルマが静止していると、タイヤの接地面に働く摩擦力によって、タイロッドを動かすためには大きな力が必要です。つまり、タイヤ側の摩擦力が大きいほど、ハンドルを切ってタイヤの角度を変えるときに、ステアリングシャフトやステアリングラック(ギア)には大きな負荷が掛かっているのです。

とくにタイヤが太く、車重も重く、ステアリングシャフトもストレートではなく複雑に折れ曲がった昨今のクルマは、それに合わせてパワ-ステアリングのアシスト量が増やされていますので、物理的に各部品にかかる力は以前よりも大きくなっています。一方ドライバーはパワ-ステアリングによって、軽い力でハンドルをくるくると回すことができるので、摩擦力には鈍感になっています。

メーカーは、それに合わせるように、各部の剛性や強度、耐久性を考慮して設計していますので、据え切りをしたからといって、ステアリングまわりの部品がすぐに壊れることはありません。

とはいえ、サスペンションやタイロッドは、クルマの走行時につねに働いている部品です。少しでも、パーツに負担をかけないようにするためにも、据え切りは出来る限りしないほうが、クルマの健康のために良いといえます。

どうしたら据え切りをしないで済むのか?

前述したように据え切りは、タイヤと車両にダメージを与えます。そのダメージは、1回ではごく小さなものだとしても、重なればそれなりのダメージになりますから、どうしても据え切りしなければならない場合を除いて、やりたくありません。

据え切りをしないためには、クルマを動かし(タイヤを回転させ)ながら、駐車や車庫入れすることを習慣付けると良いです。

このときのスピードは、極低速でOK。AT車ならクリープを使って、ブレーキでスピードを調整しながら、ハンドルを操作します。つまり、クルマが動いているときにハンドルを切るようにするのです。こうすることで、タイヤと路面の間で発生する摩擦による抵抗が低くなり、車両やタイヤへのダメージも抑えることができます。


過度に神経質になる必要はありませんが、少しでもクルマやタイヤの寿命を延ばすことができるよう、切り返しなどのシーンでこのことを思い出して、余裕のある場合は、据え切りをしないようハンドル操作をしてみましょう。

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文・立花義人
フリーライター。5歳の頃に自動車図鑑で見たアルファロメオのデザインに衝撃を受け、以降クルマに魅了される。様々なクルマの個性を知りたいと考え、免許取得後国産・輸入車問わず20台以上を乗り継ぐ。車検整備を取り扱う企業に勤務していた際、メンテナンスや整備に関する技術や知識を学ぶ。趣味はドライブ、食べ歩き。現在の愛車はパサート・ヴァリアント。
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