多島美にくらす道 しまなみ海道 CX-5の旅

アヘッド しまなみ海道 CX-5

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平 清盛も一目置いたと言われる村上水軍が闊歩していた瀬戸内海。700を超える小さな島によって作られる複雑な地形と、それによって生まれる常に変化していく潮の流れは、そこで暮らす者以外を受け入れず、外からの勢力を拒んだという。時は流れて、いくつもの橋が架かり、今はクルマで容易に島と島を結べるようになったが、そこで暮らす人たちの生活は今も変わらずに海の道とともにある。

text:伊丹孝裕 photo:山岡和正 [aheadアーカイブス vol.176 2017年7月号]
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多島美にくらす道 しまなみ海道 CX-5の旅

多島美にくらす道 しまなみ海道 CX-5の旅

広島県福山市にモトワークスというバイクショップがある。全日本選手権を始めとする本格的なロードレースの他、エンデューロや海外ラリーといったオフロード競技も手厚くサポートし、しかも自前のモトクロスコースも造成するなど、とにかくバイクにまつわることならハードからソフトまで揃う心強いショップだ。

マツダCX-5とともに尾道を訪れた今回の旅の途中、せっかく近くまで来たということもあって、代表を務める麻生賢司さんと会うことにした。

夜、宿泊先のホテル「ONOMICHI U2」のそばで待ち合わせることになったのだが、指定された場所はどこかの店でも交差点でもランドマークになるような建物でもなく、ただ「ホテルから東に向かって海沿いを10分ほど歩いたあたり」というもの。

ほどなく現れた麻生さんは海から船に乗ってやって来たのである。
なにもビジネスの成功者が豪華なクルーザーで迎えに来てくれた、という話ではない。その船にはキャビンも日よけの屋根もなく、5人も乗れば定員で一杯。麻生さんの格好もオイルやグリスがたっぷり染み込んだバイクショップの作業ツナギのままである。

そう、まるで軽トラやカブに乗ってちょっと隣町に出掛けるのと同じ感覚で船に乗り、海を行き来する。それが尾道とその周辺では決して珍しくない日常なのだ。

「今、このあたりには潮がガンガン流れ込んできているからゆっくり走りますよ」 麻生さんはそう言うと2ストローク250㏄の船外機を操り、暗がりの中で緑や赤に点滅する浮標を道標に船首を元来た港へと向かわせる。
素人目にはよくわからないものの、そこにはアスファルトの上と同じように進むべき進路と守るべき標識があり、夜間航行にはクルマのヘッドライトに相当する規定の装備が必要になる。海が生活圏、あるいは生活道路の一部になっているのだ。

もちろん船を個人で所有し、実際の移動手段にしている人はそれほど多くはないだろうが、瀬戸内に面して生活している人にとって海の往来がごく当たり前のことになっているのは確か。尾道だけでも3つある渡船の存在を知れば、そのことがよく分かる。
渡船とはその名の通り、岸から岸へ、港から港へ人やモノを渡す船のことだ。そのこじんまりとした響きとは異なり、現在のそれは自転車やバイクに加えてクルマも運んでくれるため、一種のフェリーと言ってもいい。

しかしながら、尾道とその真向かいにある向島は短い部分なら200mも離れておらず、3航路あるうちの福本渡船を使えば航行時間はわずか3分ほど。向島のやや内陸部まで運んでくれる駅前渡船を使っても最長6分前後で渡ることが可能だ。

それがひっきりなしに運航され、福本渡船の場合は大人ひとりなら片道60円、自転車ならプラス10円、クルマで乗り込んでも5m未満なら100円で済むため、多くの人が遠回りになる橋ではなく渡船を利用して尾道水道を行ったり来たり。

船が着岸すれば誰もが手慣れた様子で一斉に乗り降りを終え、すぐにまた離岸。箱の形が異なるだけでその雰囲気は通勤通学の電車と同じである。
船に乗って島へ渡る。

その響きからはある種の旅情感が漂うものの、尾道水道のそれは生活そのもの。いちいち感慨にふけったり、余韻に浸りたくなるのは、我々のようによそから来た者の証に他ならない。まるで異なる文化と環境がそこにはあった。

●CX-5(XD L Package/スノーフレイクホワイトパールマイカ)
車両本体価格:¥3,526,200(税込)
エンジン:SKYACTIV-D2.2(ディーゼル)/
水冷直列四気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
駆動方式:4WD 総排気量:2,188cc
最高出力:129kW(175ps)/4,500rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgf)/2,000rpm
燃料消費率JC08モード:17.2km/ℓ
▶︎山陽本線JR尾道駅から徒歩5分、海に面した気持ちの良いロケーション。自転車ごと宿泊可能なサイクリスト専用ホテルを主軸に、レストラン、セレクトショップやギャラリー、イベントスペースなどを擁した複合施設。サイクリストの聖地として話題となっている。

ONOMICHI U2
住所:広島県尾道市西御所町5-11 TEL:0848(21)0550
www.onomichi-u2.com

海と島。それをつなぐことによって尾道は発展し、そこに住む人々の暮らしを支えてきた。現在、日本は6852島から成っているそうだが、その1割以上に当たる727島が尾道を含めた瀬戸内の海に集中している。

穏やかな、そして決して広くはない海面からたくさんの島々の山頂が突き出すその海域は「多島海」と称され、小さな苔盆栽にも大きな日本庭園にも見えるその様を、人はいつしか「多島美」と呼ぶようになった。

地球の長い年月が創り出した、日本人の琴線に触れる箱庭的な自然美。それを一望するように取り囲むルートが、しまなみ海道(尾道ー今治)、とびしま海道(川尻ー岡村島)、さざなみ海道(尾道ー呉)、かきしま海道(呉ー切串)、ゆめしま海道(弓削島ー岩城島)、はまかぜ海道(今治ー道後)、せとかぜ海道(伊予灘ー佐田岬)から成る瀬戸内7海道である。

いずれの海道も世界中からサイクリストが訪れる聖地として近年急激に発展し、今では海と島が織り成すニッポンの新しい美の象徴にもなっている。
その中でも6つの島を7本の橋で繋ぎ、本州と四国を結ぶ文字通りの橋渡し役を担っているのがしまなみ海道だ。広島の尾道市から愛媛の今治市まで通る約60㎞のルートとして'99年に全線が開通。正式名称を西瀬戸自動車道という。

サイクリストの間で人気が高い理由のひとつが、自動車用の道路とは別に自転車専用の走行帯が設けられ、眼下に海を臨みながら島から島へと自由に渡れる壮大さゆえだ。もちろんその景観はドライバーのものでもある。
そんなしまなみ海道の全容と橋から見える風景を堪能すべく、まずは尾道から今治までの区間をひと息に走ってみることにした。

この時、選んだのはCX-5の2.2ℓディーゼルターボ車だ。交通量が少なく、見通しのいい直線路が続くこの海道は、車線の逸脱を回避する「レーンキープ・アシスト・システム」や走行車線の制限速度等を知らせてくれる「交通標識認識システム」、前車との車間を保ちながら一定の速度で走行できる「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール」といった運転支援技術を体感するにはうってつけのルートでもあるため、それらをフルに作動。走行中は速度域の高低にかかわらず、堅牢な乗り心地と抜群の静粛性をともなった高い巡航性を見せてくれた。
しまなみ海道に架かる橋は、尾道から今治に向かって新尾道大橋、因島大橋、生口橋、多々羅大橋、大三島橋、伯方・大島大橋、来島海峡大橋の順に7本が並ぶ。ユニークなのはいずれも設計や構造が異なり、まったく異なる印象をもたらしているところだ。

1本の塔柱で支えられた新尾道大橋、スレンダーで女性的なフォルムの桁を持つ生口大橋、羽を広げた鳥にも例えられ、フランスのノルマンディー橋を姉妹橋に持つ多々羅大橋、吊り橋を3つ繋げるという世界初の懸架技法が用いられた来島海峡大橋…とそれぞれに固有の佇まいがあり、それぞれが多島美を際立たせる風景の一部になっているのである。

平坦でまっすぐなその路面を、他のクルマに追い立てられることもないままにただ淡々と走っていると、さながら海の上を滑空しているような爽快な気分になってくる。

海道とはよく言ったもので、海面からの高さが226mに達する多々羅大橋や全長4㎞を超える来島海峡大橋を渡る際は特にそれを強く実感。クルマでさえそうなのだから、それを肌で感じられるサイクリストが魅了されるのは当然だろう。

▶︎大島にある食堂。のどかで穏やか。時間が経つのを忘れてしまう。

食堂みつばち
住所:愛媛県今治市吉海町仁江1876-1
TEL:0897(84)3571
http://r.goope.jp/mitsubac


そうやってしまなみ海道のスケールを体感した後は、インターチェンジを降りながら6つの島々を巡ることにした。島内では主に2.5ℓのガソリンエンジン車に乗車。ディーゼルと比較すると最大トルクこそ劣るものの、70㎏ほども軽量に仕立てられた車体のおかげで振る舞いは軽やか。より静粛なエンジン音が島ののどかな雰囲気に合っていた。

尾道から今治に向かって橋を南下してきたのとは逆の順序で島を北上すると、最も四国側に位置するのが大島だ。ここには戦国最強と謳われた村上水軍(海賊)の足跡が残されているが、そうした荒々しさとは無縁の静けさの中にあるのが「食堂みつばち」である。

別荘を改装してカフェ&レストランに仕立てられたそこは、「行く」という明確な意志がなければ見つけられそうもない隠れ家的な建屋ながら、それゆえ一度店内に入ってしまえば海を眺めつつ、一日中でも座って居られる。そう思わせてくれる、緩やかな時間が漂っている。
そんな大島随一の絶景ポイントが亀老山だ。右へ左へとリズミカルに切り返せるワインディングを上った先には来島海峡大橋が眼下に広がる展望台があり、そこから見渡す景色は多島美そのもの。しまなみ海道におけるひとつのハイライトでもある。
その隣には蜜柑、檸檬、八朔…といった柑橘類の栽培の他、塩の生産で広く知られる伯方島、そして大三島が並ぶ。しまなみ海道6島のうち最大の大三島は、源義経ゆかりの大山祇神社や多々羅温泉、ところミュージアムといった観光スポットに加えて食も充実。道幅は比較的広く、海沿いと山間部の標高差もあるため、最もダイナミックなドライブを楽しめる島でもある。

反面、起伏がほとんどなく、サンセットビーチと名づけられた美しい白砂の浜が広がっているのが生口島であり、ここまで戻ればすでに尾道市、つまり広島県に入ったことになる。そこから因島、向島と渡って、本州へ。これがしまなみ海道を往復するルートだ。
今回の旅をともにしたマツダCX-5には、運転をしていることを強く意識させない、ナチュラルなフィーリングが貫かれていた。アクセルは踏めば踏んだだけ、ステアリングは回せば回しただけクルマが反応し、特別なにかに気を配ったり、誰かに気を使ったりする必要は皆無。

ゆっくりと走らせることに一切ストレスを感じないため、小さな島でも持て余すことがなく、そこに広がる景色と道を満喫することができた。

こうして気軽に島巡りを楽しめるようになったのは海道の整備が進んだ恩恵に他ならないが、その利便性が自ら船を操り、あるいは渡船を日常の足とする瀬戸内の生活を変えてしまったかと言えばそんなこともなかった。

ツーリストにとっての海道は海を一足飛びに通過できる橋や道路を意味する一方、尾道の人々にとってのそれは今も海上を行き交うことそのものだからだ。新しい人やモノを受け入れながらも海とともにある暮らしは守る。その意識が多島美を育んできたのである。
●CX-5(25S L Package/ソウルレッドクリスタルメタリック)
車両本体価格:¥3,213,000(税込)
エンジン:SKYACTIV-G2.5(ガソリン)/
水冷直列四気筒DOHC16バルブ
駆動方式:4WD 総排気量:2,488cc
最高出力:135kW(184ps)/6,000rpm
最大トルク:245Nm(25.0kgm)/4,000rpm
燃料消費率JC08モード:14.6km/ℓ

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。


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