なぜハヤブサは孤高の存在になれたのか

アヘッド ハヤブサ

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2000年の春だった。その半年くらい前に登場して世間を騒がせていた「ハヤブサ」という未曽有のバイクに乗ろうと思った。決断してから半日後にはバイク屋で見積もりを貰っていた記憶がある。

text:大鶴義丹 [aheadアーカイブス vol.163 2016年6月号]
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なぜハヤブサは孤高の存在になれたのか

なぜハヤブサは孤高の存在になれたのか

▶︎ハヤブサは、GSX-R1100シリーズが欧州で高評価されたことを受けて誕生した。キャッチフレーズは、スーパースポーツを超える究極のマシン、との意味を持つ「アルティメットスポーツ」。その名の通り、つづら折りが続く“箱根七曲り”の下りでも普通に走れるほどの許容を持つ。スズキのアイデンティティである縦目二灯はこのハヤブサから始まっている。


それまで乗っていたのはCB750FBを少し改造した「バリ伝仕様」というものだった。鉄のショート管が甘くイイ音をさせていて、街から峠をそこそこに走って、私としては満足していた。   

だが、強力な最新マシンが巷に溢れ出した世紀末バイクシーン真っ盛り、最新リッターマシンがとんでもない勢いで走り回る姿を見る度に心は揺れた。

今でこそ50歳手前で、旧車バイクの愛で方を覚えつつあるが、30代になったばかりの私はまだまだ旧車で隠居生活をするつもりにはなれず、かと言って十代に散々経験したレーサーレプリカの風味を再び味わう気にもなれず、その結果「バリ伝仕様」への愛着も薄らいでいた。

そんな私の前に現れたハヤブサと言うバイク。忘れもしない、環八の用賀付近の交差点だった。異様にまで野太い排気音に振り返ると、そこには見たこともない異形な顔つきの丸っこい塊が鎮座していた。

雑誌などで存在自体は知っていたが、実際に実物を見た瞬間の驚きは子供の頃に初遭遇したカウンタックのようなものだった。その有機的なデザインは、バイクと言うよりは何らかの生物をイメージしたオブジェのよう。

見覚えがあるなと少し考えるや、それがリドリー・スコット監督の映画「エイリアン」だと思いついた。

後に名前の通り、猛禽類の顔つきをイメージしたデザインだと知るのだが、未だに私の中では「ハヤブサ」のイメージは、宇宙船の中で人間を襲いまくるあのエイリアンである。

その出会いの後、私は改めてそのバイクの超絶的な性能や水冷R1100からの進化の系譜を知ることになる。異彩なデザイン以上にバイク史を塗り替えるような革新的なマシンであった。

しかしこのバイクを私が迷いなく買った理由は、その超絶的な性能などではなく、スーパーカー世代の子供たちがカウンタックなどに無条件に感じた「夢心地」があると思ったからだ。

宇宙や未知の世界に通じるような、この世のものではないような存在感、そんなイメージの乗り物を運転するという、昭和の子供の本能とも言えるだろう。

実際に乗り回し始めてから、1300cc・175馬力が演出するワープ航法に酔いしれもしたが、何故か最初に出会ったときのインパクトを超えることはなかった。

「カタナ」然り、スズキというメーカーはたまにこういう唯一無二のヒット作を飛ばす。しかし次回作まで時間が少しかかるのも有名だ。
▶︎同じ名前を持つことから“聖地”として親しまれる若桜鉄道の「隼駅」(鳥取県)では、毎年夏に「隼駅まつり」が開かれている。当初の7台から、昨年は1200台が集結する一大イベントとなる一方、トイレなど設備不足の問題も。これを聞いたスズキは、毎年手弁当でライダーをもてなしてきた町に感謝の意を込めて1,850万円を寄付。町は多目的トイレを備えた木造平屋建てを整備する予定だという。誠にスズキらしい。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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