ディーゼルにスポーツ性はあるか

アヘッド ディーゼルにスポーツ性はあるか

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ディーゼルエンジンにスポーツ性はあるのか!? これは面白いお題だ。つまり一般的なイメージでいうとディーゼルは「燃費がよい」けれどガラガラうるさくて、「ガソリンエンジンより遅い」エンジン。ここ数年でマツダが「SKYACTIVE-D」を売り出し、ユーザーの半数近くがこれにシフトしたからといって、申し訳ないが日本全体の規模から見ればまだまだそのシェアは少なく、まだまだ商用車エンジンのイメージを脱しきれていない、というわけだ。

text:山田弘樹 [aheadアーカイブス vol.188 2018年7月号]
Chapter
ディーゼルにスポーツ性はあるか
富士SUPER TEC 24時間レースについて

ディーゼルにスポーツ性はあるか

■Golf Touran 2.0 TDI SCR
車両本体価格:未定
排気量:1,968cc
最高出力:110kW(150ps)/3,500〜4,000rpm
最大トルク:340Nm/1,750〜3,000rpm

つまり、ディーゼルでスポーティなんて「はぁ?」ということなんだろう。

しかしそれは、ある意味合っていてある意味間違いである。なぜなら現代のディーゼルエンジン車は、実用的な場面であるほど、ガソリンエンジンよりも速いのだから。

たとえばフォルクスワーゲンのミドルセダンであるパサートを、日本に導入されたばかりのディーゼルエンジン(2.0 TDI、190ps/400Nm)と、ガソリンエンジンの高性能モデルである「Rライン」(2.0 TSI、220ps/350Nm)で比べてみよう。2台はお互いに現代的な低燃費エンジンで、最大トルクを2000rpm以下という低い回転域から発生させる。

そしてこのピークトルクはTSIが4400rpm、TDIが3300rpmまで持続する。
エンジン出力というヤツは「トルク×回転数(×係数)」で得られる。つまり回せば回すほどパワーが出るから、確かにピーク値は高回転まで回せるTSIが勝つ。しかし実際にボクたちが日常で最も使う回転域(4000rpmくらいまでだろう)で得られる最大トルクはTDIの方が高く、この領域を使い続ける限りは結果的に、パワーもディーゼルの方が出ていることになるのだ。

おまけにエンジンを回さないディーゼルは燃費が良いから、走り方によっては600㎞程度のドライブならば給油時間も必要なく走りきってしまう。燃料代も日本だと2割以上安い。確かにドライバーには休憩時間が必要だけれど、現代のディーゼル車は遮音性が高いから長距離が苦にならない。

だからディーゼルは、長距離を走れば走るほど〝速い〟エンジンということになるのである。

■Tiguan 4MOTION 2.0 TDI SCR
車両本体価格:未定
排気量:1,968cc
最高出力:110kW(150ps)/3,500〜4,000rpm
最大トルク:340Nm/1,750〜3,000rpm
*数値は全てドイツ仕様。Golf Touran 2.0 TDI SCRとTiguan 4MOTION 2.0 TDI SCRは近日、日本導入予定。Passt Alltrackは時期未定ながら、導入を準備中。

そんなディーゼルエンジンの実用性を、ボクは今回本場ドイツで経験した。パサートは既に日本で試乗済みだったのだが、驚いたのはミニバンであるゴルフ トゥーランと2.0 TDIの組み合わせだった。同じ2リッターTDIでもその出力は150ps/340Nmとパサートに比べてやや低められていた。

しかし40㎏ほど軽い車体はゼロ発進からでも苦もなく加速し、2500rpmあたりから本格的に始まるターボの過給は、実用域を僅かに超えた4000rpm付近まで伸びやかに続いたから、〝走らせても〟このエンジンは予想以上に楽しかったのである。

さすがに200㎞/hの領域まで到達するには時間を要したが、流れの速いアウトバーンで160㎞/h巡航を苦もなくこなし、そこから追い越しをかける性能には舌を巻いた。

もっともこれを可能にしているのはエンジン性能だけではない。フォルクスワーゲンはその車体剛性が国産ミニバンとは比べものにならないほどしっかりしている。
だからこそ可変ダンパーが効果を発揮し、スポーツモードでは背の高いボディを支えてくれる。そして瞬時の加速や前車との車間調整にはデュアルクラッチ式トランスミッション「DSG」が素早いレスポンスで応えてくれたからこそ、2日間で約1000㎞の道程をストレスフリーに走りきることができたのである。

こと〝スポーツ性〟というお題において、確かにディーゼルエンジンはかつての内燃機関が目指したような、エンジンをどこまでも回してパワーを得るエモーショナルさはない。

しかし世界的な嗜好が静かでシームレスな高出力化に目を向け始めた今、ディーゼルエンジンが重ねてきた努力と洗練はまさにそこへシンクロしようとしているとボクは思う。

〝スポーティ〟さはもはやガムシャラにスピードとパワーを追い求めることではなく、そのスピードの得方に価値を見いだす時代になった。

かつてアウディはル・マンをディーゼルで闘い、その強さを見せ付けた。ディーゼルの〝回さない速さ〟や、思い通りに走る静けさが価値として認められるようになると、「ディーゼルはスポーティだ」と言えるようになるのではないか。

富士SUPER TEC 24時間レースについて

「走れば走るほど速くなる」 まるで酔拳のようなディーゼルエンジンの特性を示す一例として、ボクが出場したスーパー耐久「富士SUPER TEC 24時間レース」の話をしよう。

Team NOPROが選んだマシンは、2.2 SKYACTIVEーD(ディーゼル)を搭載した♯17 マツダ・アクセラ。ラップタイムは予選でも1分57秒台と、同じST2クラスのランサーEVO XやスバルWRXに比べて5秒以上遅かった。

しかしピットインの回数が他チームに比べ4回以上も少なく、ノントラブル・ノンペナルティで淡々と走り続けた結果、642周を走りきりクラス2位に輝いたのである(ちなみに同チームの♯37 デミオもST5クラスで2位だった)。

これこそまさにディーゼルエンジンの「燃費の良さ」と、「トルクの太さ」がもたらした速さだ。ちなみに2006年のル・マン24時間では、あのAudiがR10 TDIでディーゼル車初の総合優勝を果たしている。

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text:山田弘樹/Koki Yamada
自動車雑誌「Tipo」編集部在籍後フリーに。GTI CUPレースを皮切りにスーパー耐久等に出場し、その経験を活かして執筆活動を行うが、本人的には“プロのクルマ好き”スタンス。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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