埋もれちゃいけない名車たち vol.71 地味で奥ゆかしい 唯一無二の存在「ローバー 75」

アヘッド ローバー 75

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価値観だとか人生観だとか、そういうモノは人それぞれ。それを下支えにして、クルマ選びはとことん自分基準で行うのが一番。今でこそそんなふうに考えるようになっているけれど、若い頃にはもっと〝他人の目〟を気にするようなところもあったような記憶がある。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.187 2018年6月号]
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vol.71 地味で奥ゆかしい 唯一無二の存在「ローバー 75」

vol.71 地味で奥ゆかしい 唯一無二の存在「ローバー 75」

例えば誰もが〝いいね!〟と認めるクルマ、カッコよく見えるクルマ、速いと思わせることのできるクルマ、〝通〟に見られるクルマ──。常にそんなふうな自分以外の誰かの目線があった。

いや、それがよろしくないと言いたいわけじゃない。ならば何を言いたいのか? 近年、気持ちに引っ掛かってくるモノの中に、あの頃だったらまるでかすりもしなかったクルマが結構あったりする現実に気づいて、クルマってやっぱり面白いとあらためて実感してる、ということだ。

その代表選手的1台が、これだ。1998年にデビューして日本にも細々と導入されていたが、2005年のメーカーの経営破綻とともに消滅してしまった、ローバー75である。

そもそも、ローバーというブランド自体、日本では〝ド〟がつくほどマイナーだ。クラシック・ミニが〝ローバー・ミニ〟として売られていたことがなければ、余程のマニア以外、名前を聞くこともなかっただろう。元は1904年から自動車の製造を行っていた歴史のある英国のメーカーで、アッパーミドル向けのモデルを中心としたラインアップを提供するブランドだった。

その最後のモデルが〝75〟。当時の親会社であったBMWが設計・開発に関与していて、BMW各モデルと競合しないよう、スポーティさのない、良くいえば渋好み、悪くいうならオヤジくさいスタイリングになったと言われている。

その真偽は定かじゃないが、どう見ても地味なのは確か。インテリアはレザーとウッドを多用した極めて英国らしい仕立てだが、イギリス人には〝やりすぎ!〟と揶揄されるほどコテコテ。2.5リッターV6を積んでいてブチ回せばそこそこ速いけど、意味もなく高回転型で出足はもっさり、キビキビ走ってくれたりはしない。特筆すべき魅力というものが見当たらない。

けれど、ひけらかさない奥ゆかしさがいい。判りやすい英国的世界観がいい。普段はのんびりで、必要なときには速く走れるから、それでいい。頂点級じゃないけど素直に曲がってくれるのもいいし、そういえば直進安定性はかなりいいし、乗り心地だって結構いい。

際立ったところのないクルマだけど、穏やかな佇まいと変に主張してきたりしない乗り味が生むそこはかとない癒やしの味は、ちょっとばかり唯一無二だ。

そういうものを自分のために選ぶのも、また〝価値観〟。もはや誰も知らないクルマだが、実はユーストカー情報が気になって仕方ないのだ。

ローバー 75

ローバー75は1998年に発表された、ちょっと豪華なアッパーミドル・クラスのサルーン&ワゴンという、元々のローバーの得意分野といえるクルマである。

日本には177psの2.5リッターV6を搭載する上級グレードが投入され、1999-2000日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど玄人受けはしたが、派手さがないことが災いしたのか、販売は好調とは言い難かった。

2005年の春にメーカーが経営破綻、同時に生産も途絶えたが、その生産設備と知的所有権を買い取った中国の上海汽車が自主開発を加えて2016年まで販売を続けた。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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