嶋田智之のこれからはじめる趣味的クルマ生活 2016

アヘッド 趣味的クルマ

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2012年4月号の特集「これからはじめる趣味的クルマ生活」の第2弾です。あれから4年が経ち、クルマを取り巻く状況も、読者の平均年齢も、日本人のクルマに対する考え方も少し変化したのではないでしょうか。そのことを前提にしたチョイスになっています。そして、前回40代だった嶋田智之も50代になりました。

text:嶋田智之 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.162 2016年5月号]
Chapter
嶋田智之のこれからはじめる趣味的クルマ生活 2016
PART1 時代はクロスオーバーSUV
PART2 今、あえてMTを選ぶ
PART3 息子に押し付けたいクルマ
PART4 還暦になったらこれに乗る!

嶋田智之のこれからはじめる趣味的クルマ生活 2016

PART1 時代はクロスオーバーSUV

前回と大きく違ってることがあるとすれば、この〝クロスオーバーSUV〟というカテゴリーが盛り上がってきてることだろう。

それってナニ? フツーのSUVとどう違う? とお思いの方もおられるだろうからサラッと述べるなら、SUVとはスポーツ・ユーティリティ・ヴィークルの略。この場合の〝スポーツ〟は、スキーやスノボ、サーフィンのようなアウトドアでのアクティヴィティを指し示していて、それに適したクルマ、の意味だ。

クロスカントリー系4WDやピックアップ・トラックから派生し、それらに快適装備を持たせて乗用車的にしつらえた、いわば〝ヨンク上がり〟みたいなモデルであることが多い。ならばクロスオーバーSUVはどうなの?というと、あくまでも基本は乗用車として開発されていて、SUV的な要素をある程度以上満たしているクルマ、とでもいえばいいか。

アメリカではピックアップやクロカン系と同じくハシゴ型などのフレーム構造を持つのがSUV、一般的な乗用車と同様のモノコック構造を持つのがクロスオーバーSUVと区別がなされて、税制なども異なるようだけど、日本ではそこまで明確ではないし、区分そのものにはそれほどの意味はない。

例えば、床面を高くして悪路にもそれなりに対応できる、ちょっとアウトドア風味のする雰囲気の乗用車だとか、お馴染みっぽいスタイルのクルマの車高が持ち上げられて4WDシステムだとか2WDながら悪路にも対応できる電子制御式のスタビリティコントロール機構を持ったクルマだとか、そんな感じのクルマの総称と思っていただいて間違いではない。

そう、このカテゴリーに魅力的なモデルが増えてきて、しかも従来より手の届きやすい価格帯にツブが揃ってきてるのが今なのだ。

実はこのカテゴリー、家族のためのクルマを考えている人への、僕の今の一番のオススメ。──なぜか。まずは生活臭さが薄く、日々をアクティヴに楽しんでいる雰囲気を演出できる存在感。ミニバンほどではないけれど、普通のセダン辺りよりヒトも荷物もたっぷりツメ込める実用性。

本格クロカン系と較べて乗り心地などの快適性も高く、多くはスポーティなドライブが楽しめる。要はお洒落で実用性が高く快適でドライバーが退屈しない。いいとこ取りなのだ。

周りと同じ既定路線を辿る必要はない。個性豊かなスタイルとライフスタイルをニコやかに誇れるクルマ選びの方が楽しいに決まってる。休日の運転手役のときも、楽しめる方がいいはずだ。どうだろう、最も幸せなファミリーカーになり得るとは思えないか?

スバルXV

SUVの本場アメリカでも人気の高い日本製クロスオーバーSUV。スバルXVは、控えめだけどスタイリッシュで、乗り心地もマイルドで快適。フラット4エンジンが滑らかな走りと重心高の低い腰の据わったハンドリングを提供してくれる。尖ってはいないが、乗ってると“いいなぁ……”と思えるのだ。個人的に日本のこのクラスで最も欲しい1台。

車両本体価格:¥2,397,600(2.0i EyeSight、税込)
排気量:1,995cc
最高出力:110kW(150ps)/6,200rpm
最大トルク:196Nm(20.0kgm)/4,200rpm

シトロエン グランデ C4 ピカソ

本来は7人乗りのミニバンだが、室内が広く、シトロエンらしい快適な乗り心地を誇るだけじゃなく、日常領域で走らせていて意外なくらいドライバーが楽しめるので、ここで御紹介。運転席の後ろに長いボディがあるとは思えないほど、そのハンドリングにスポーティな感覚があるのだ。こういうミニバンなら運転手のお父さんも退屈しない。

車両本体価格:¥3,539,000(セダクション、税込)
排気量:1,598cc
最高出力:121kW(165ps)/6,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1,400~3,500rpm

ミニ クロスオーバー

日本でこのカテゴリーが脚光を浴びたのは、2010年発表のこのクルマの存在が大きい。ハッチバックのミニよりふたまわり以上も大きいが、スタイリングはミニそのもの、各種装備類などに見られる遊び心もミニそのもの。クルマそのものがスポーツギア感覚であることもミニそのもの、である。4WDもディーゼルもあり、とラインアップも豊富。

車両本体価格:¥3,980,000(COOPER S CROSSOVER ALL4/AT、税込)
排気量:1,598cc
最高出力:140kW(190ps)/5,800rpm
最大トルク(オーバーブースト時):240(260)Nm/1,600~5,400rpm

フィアット500X

ここしばらく、このクラスで最も注目を浴びたモデルといえるのが、この500Xだ。いまだに世界中で人気が高いチンクエチェントの世界観をふたまわり大きな車体に表現したようなクルマで、姿が巧みに再現されてるだけじゃなく、意外やスポーティに走ってくれるところまで一緒。サイズの小ささにチンクを諦めた人も、これなら大丈夫だろう。

車両本体価格:¥2,862,000(Pop Star、税込)
排気量:1,368cc
最高出力:103kW(140ps)/5,000rpm
最大トルク:230Nm(23.5kgm)/1,750rpm

プジョー 2008

土の匂いを全く感じさせない、都会的なイメージが特徴のプジョー2008。主力ハッチの208をベースに、広々した荷室や居住空間、ゆとりある最低地上高が与えられている。最新の1.2ターボと6ATの組み合わせは、ゆるゆる走っても飛ばしても意外や気持ちいい。駆動はFWDのみながら、雪・砂・泥に切り替えられるトラコンで対応している。

車両本体価格:¥2,650,000(CROSSCITY、税込)
排気量:1,199cc
最高出力:81kW(110ps)/5,500rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/1,500rpm

ボルボ V40クロスカントリー

5ドアハッチで最もスタイリッシュといえるボルボV40をベースに、車高を30㎜上げ、ちょっとタフなルックスが与えられたモデル。専用ボディじゃないため、逆に標準型のV40に近いフットワークの良さ、ロングも楽な高速安定性と重厚ともいえる快適性が光る。特に4WDモデルは疲れ知らず。かなりスポーティなディーゼル搭載車もある。

車両本体価格:¥3,390,000(T3、税込)
排気量:1,497cc
最高出力:112kW(152ps)/5,000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,700~4,000rpm

日産 ジューク NISMO RS

このクラスにはとりわけ欧州勢にユニークなスタイリングを持つモデルが多いのだけど、日本車にもかなりいい線をいってるモデルがある。日産ジュークだ。ジュークにはそのうえ、NISMOが車体の部分から手を入れ直した、並みのスポーツカーには及びもつかない走りの楽しいモデルがある。世界一峠道が楽しいクロスオーバーSUVだ。

車両本体価格:¥3,468,960(4WD、税込)
排気量:1,618cc
最高出力:157kW(214ps)/6,000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/2,400~6,000rpm

PART2 今、あえてMTを選ぶ

多少ウデに覚えがあるくらいのドライバーが自分の手足と経験を駆使し、クラッチ・ペダルとシフト・レバーを操作してギアを切り替えるよりも、2ペダルのロボタイズド・トランスミッションのパドル操作でシフト・チェンジする方が、変速スピードは速いし操作そのものも正確、といわれるようになって何年が経過しただろう。

今やいわゆるスーパーカーと呼ばれる超高性能スポーツカーですら、ごく一部を除くほとんどに手動式マニュアル・トランスミッションの設定がなく、2ペダルのパドル・シフトのみ、という状況である。

それらのクルマ達は、もはや瞬時にシフト・チェンジが完了するくらいじゃないと間に合わないほどの高性能を身に着けてしまっているからだ。MTことマニュアル・トランスミッションのマッチングがいいのはある程度の領域にあるスポーツカーまで。突き抜けた速さを誇るクルマのトランスミッションとしては必ずしも最適とはいえない、というわけだ。

走りを楽しむためのスポーツカーの世界ですらそうなのだからして、こだわりなしのイージードライブで構わないフツーのクルマ達は、ATことオートマティック・トランスミッションやロボタイズドMTといった2ペダルの比率がなおさら進んでるのでは? と思うのが自然。

もちろん絶対的な比率からいうならほとんどのクルマが2ペダルであるのは間違いない。が、ちょっとオモシロイ傾向もある。2〜3年前と較べると、MTが選べる車種が増えてるようにも感じられるのだ。

しかも日本では絶滅に向かっていた、非スポーツ系実用車のMTモデルがラインアップされるケースも見られるほど。ほぼ完全なマジョリティとなった2ペダルの安楽さや効率の良さは認めながらも、それより〝操縦する喜び〟を選びたいマイノリティ達の気持ちを、メーカーやインポーターが重視したカタチだ。

御存知のとおり、MTはATと較べ、格段にメンドクサイ。運転技術の上手い下手もハッキリと表れる。けれど、頭脳と感覚とセンス、それに四肢を駆使して〝操縦する〟という行為をダイナミックに味わえるという点では、ATの比ではない。巧みに操作できてるときの喜びも。そう、走らせるという行為そのものが、エンターテインメントにすらなり得るほどだ。

あらゆるものがインスタントで利便性に優れ、自動運転がクローズアップされるこの時代にあえてMTを選ぶとことには、深い意味があると思うのだ。だから、2ペダルも嫌いではないけれど、僕は断固としてMTを支持するし、キッチリとオススメしておきたい。

BMW M235iクーペ

300psを超える後輪駆動のクルマで、おそらく最もコンパクトなモデルがこれ。6,500rom辺りまで素晴らしくスムーズかつシャープに吹ける直6ターボは最高に気持ちよく、あらゆる曲面で思いどおりに曲がってくれるフットワークも気持ちいい。本国ではこの上にさらにパワーのあるM2がデビューしてるが、MTを選べるのはM235iだけ。

車両本体価格:¥6,130,000(6MT、税込)
排気量:2,979cc
最高出力:240kW(326ps)/5,800rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1,300~4,500rpm

フィアット パンダ4×4

一瞬フツーっぽく見えるけどよく見ればちっとも凡庸なデザインではないし、車体が小さいわりには室内にも充分な広さがあって実用的な現行パンダ。その4×4モデルはトルクオンデマンド式の4WDシステムと6速MTの組み合わせだ。粘っこいトルクと回せば意外や活発なエンジンも楽しい。舗装路もラフな道も、雪道さえ楽しいスポーツギアだ。

車両本体価格:¥2,559,600(Terra、税込)
排気量:875cc
最高出力:63kW(85ps)/5,500rpm
最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1,900rpm

プジョー 308GTi by プジョースポール

ホットハッチという言葉があるけれど、これはホッテストハッチ。FWDの2ボックスに270ps/33.7kgmと1.6ℓターボを搭載。足周りがスプリングやダンパーだけでなくジオメトリーから見直されてるうえに、トルセンLSDまで備わっている。ブレーキも強力だ。だから加速も減速もグイグイ曲がる実力も一級品。お見事! な楽しさと気持ちよさだ。

車両本体価格:¥4,360,000(308 GTi 270 by PEUGEOT SPORT、税込)
排気量:1,598cc
最高出力:200kW(270ps)/6,000rpm
最大トルク:330Nm/1,900rpm

アウディ S1

コンパクトハッチの中で最も高性能なモデルといえば、アウディS1。ラインアップ最小のA1に231ps/37.8kgmの2リッターターボを詰め込み、6速MTを介してフルタイム4WDで駆動するその走りは、締め上げられたシャシーの出来映えの良さもあって、あらゆる場面で速さを味わえる超本格派。アウディらしい品質の高さも大きな説得力のひとつだ。

車両本体価格:¥4,230,000(税込)
排気量:1,984cc
最高出力:170kW(231ps)/6,000rpm
最大トルク:370Nm(37.8kgm)/1,600~3,000rpm

ルノー ルーテシア ゼン0.9L

今やMTは一部のスポーツモデルが備えるモノと見られがちだが、このクルマは元々ベーシックな実用モデル。ただし897ccターボはパワーこそ大きくないが美味しい領域があって、そこをMTを駆使して引き出して走るのは何とも面白い。他のルーテシアより鼻先が60kg以上も軽いから、ハンドリングの良さにも磨きがかかった。素直に愉しい。

車両本体価格:¥2,080,000(税込)
排気量:897cc
最高出力:66kW(90ps)/5,250rpm
最大トルク:135Nm(13.8kgm)/2,500rpm

マツダ デミオ(ディーゼル)

低回転粋はもちろん、回しても太いトルク。それに経済性。今どきのクリーンディーゼルを選ぶ意味は幾つもある。それらのメリットをMTで使い分けながら走るのはかなり面白い。近年のマツダはスタイリングも抜群にいいし、もとよりシャシーはいかなるクルマもスポーティ。このクラスで欧州車に負けない魅力を持つ筆頭が、このデミオだ。

車両本体価格:¥1,782,000(XD/2WD/6MT、税込)
排気量:1,498cc
最高出力:77kW(105ps)/4,000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,500~2,500rpm

アバルト 595コンペティツィオーネ

アバルトは最もスタンダードなモデルですら、小柄で丸っこい姿からは想像もつかない弾けっぷりで楽しませてくれるけど、つい最近180psへとパワーアップを果たし、ブレンボのブレーキを手に入れたこのモデルは、まさしくアドレナリン製造器。その辺を10分ほどチョイ乗りするだけでも充分に気分転換ができるほど。個人的なイチオシ。

車両本体価格:¥3,531,600(MT、税込)
排気量:1,368cc
最高出力:132kW(180ps)/5,500rpm
最大トルク:230Nm(23.5kgm)/2,000rpm

PART3 息子に押し付けたいクルマ

残念なことに僕には〝子供〟はいないのだが、同世代の友人には息子や娘がいるのがほとんどで、そういう友人達のクチから「何に乗らせたらいいと思う?」みたいな言葉が出ることが多かった。今も少なからずあるし、僕より少し若い友人達はこれからそういう時期を迎えるわけで、今後もしばらくは楽しいやりとりが続きそうだ。

が、彼らは判断ミスをしている。なぜなら僕は、仕事柄、確かに色々なクルマを体験できてはいるものの、世界に数台しか現存しないような貴重なスポーツカーを走らせたことはあっても日本で一番売れてるクルマには乗ったことがないみたいな、少し偏った自動車ライターなのだ。

嗜好性の強い分野にはそれなりに明るいかも知れないが、新車購入時の値引き幅がどれが一番とかどのクルマの経済性が最も優れてるとか、そういうのには綺麗サッパリと疎い。そこを納得したうえでそれでも「どうよ?」と訊ねる友人には、僕は次の3つのどれかを満たす中から選んだらどう? と答えている。

その1。走らせることがとにかく楽しく、基本的なドライビングをちゃんと学べるスポーツカー。クルマってこんなにも気持ちいいんだ! ってことを心の奥底に刻み込んで欲しいから。若いうちにスポーツカーに乗るのと道具としてどうでもいいクルマに乗るのとでは、その後の心の豊かさが全然違うはず、という思い込みによるものだ。

だから実用性に少し欠けていても、工夫することを覚える意味で、ちょうどいいとも思う。プリミティヴなクルマもそう。簡素なクルマは色々なことを考えさせてくれる哲学の先生みたいな存在。古いミニとかチンクエチェント、2CV辺りが最適なんだけど、今回は〝現行車〟縛りでオススメをチョイスしたから1台のみ。

その2。ラブ&ピースなクルマ。できる限り出逢った人や隣に乗せた人を自然に笑顔にさせるような存在感を持つクルマ、だ。若いうちから威嚇的なクルマに乗ってブイブイいわせて虎の威を借ることを覚えるよりも、クルマが人と人を温かいカタチでつなぐ媒体になってくれることを、日々の体験から覚えて欲しい。その方が今にとっても未来にとっても、意義深いことだって知ってるから。

その3。度を超さない程度に上級で、安全性と安心感の高いクルマ。それほどクルマに興味を持ってないけどクルマが必要な環境にある御子息・御令嬢向きだけど。

そういうクルマ達なら、オヤジが買って「これでよければ貸してやる」と押しつけるのはありかな、なんて思う。言いなりに買い与えるのだけは絶対NGだと思うけど。

アルファ ロメオ ミト

世知辛く鬱々とした気分にさせられることも少なくない現代。明るく真っ直ぐなオトナになってもらうためには、ミトのようなイタリアンが最適かも知れない。快活なエンジンにシャッキリしたシャシー、そして小粋なスタイリング。背後に長い歴史と膨大な物語が控えているのも脳内や情緒を育むのにいい。一粒で何粒分も美味しいクルマなのだ。

車両本体価格:¥3,304,800(Competizione、税込)
排気量:1,368cc
最高出力:99kW(135ps)/5,000rpm
最大トルク:[Natural/All weather]190Nm(19.4kgm)/4,500rpm
[Dynamic] 230Nm(23.5kgm)/1,750rpm

スズキ ジムニー

“ホンモノ”に触れさせるのは重要。けれど“ホンモノ”は往々にして高価でもある。が、日本にジムニーがあることを忘れてはいけない。クロカン4WDとしての走破性は軽自動車ながら世界最高峰に数えられるほどなのだ。悪路なんてへっちゃらだから行動範囲も無限に広がる。カスタマイズの楽しさもある。それが130万円で買えるなんて!

車両本体価格:¥1,407,240(XG/4AT、税込)
*5MTは¥1,296,000(税込)
排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6,500rpm
最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3,500rpm

マツダ ロードスター

若い頃にいいスポーツカーに乗っていたら、もっと違った人生があったかも知れないな……というのは、様々な事情でそうすることができなかった多くのクルマ好きオヤジ共通の弁。ならば、自分の子供に乗らせてみるのもいいだろう。何せ日本にはロードスターがある。250万円でこんな素晴らしいスポーツカーが買えるのは日本だけ、なのだ。

車両本体価格:¥2,494,800(S/6MT、税込)
排気量:1,496cc
最高出力:96kW(131ps)/7,000rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/4,800rpm

フィアット 500C

もし自分の子供が誰からも愛される人物になって欲しいと願うなら、誰からも愛されるクルマを選ぶのがひとつの手段。見る者が一緒になって微笑んじゃうような表情を持つ性格のいい癒し系みたいなチンクエチェントは、子供の友人達にも親しまれるはず。屋根開きの“C”ならなおのこと。他人を威嚇することを学ばせても意味はないのだから。

車両本体価格:¥2,527,200(1.2 Pop、税込)
排気量:1,240cc
最高出力:51kW(69ps)/5,500rpm
最大トルク:102Nm(10.4kgm)/3,000rpm

トヨタ 86

走り屋に育てる必要はないがドライビングの基本セオリーは“たしなみ”として学ばせたい。そう考える向きには86が最もオススメだ。あり過ぎないほどほどのパワーを使い切ること。前輪と後輪が今どんな状態かを探りながら走ること。コントロールする楽しさを身体で知ること。そうした課題にピッタリだ。それにカッコイイことも重要だし。

車両本体価格:¥2,987,673(GT/6AT、税込)
排気量:1,998cc
最高出力:147kW(200ps)/7,000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/6,400~6,600rpm

メルセデス・ベンツ Cクラス

比較的フォーマルなクルマを選ぶ必要があるなら、Cクラス。何しろ現行版は小さなSクラスのようなもの。クオリティや快適性の高さはいうまでもなく、安全性ももちろん。それに昔と違ってかなりスポーティでもある。死角がないのだ。モノの道理を解ったオトナ達からも「いいクルマだ」と認められる。コンサバだけど、いいモノはいいのだ。

車両本体価格:¥4,760,000(180 AVANTGARDE、税込)
排気量:1,595cc
最高出力:115kW(156ps)/5,300rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,200~4,000rpm

ホンダ S660

クルマというのはいかなるときも楽しい仲間のような存在。それをく知ることができるのがS660だ。交差点ひとつ曲がるだけで気持ちいいからコンビニまで流して走る買い物だって楽しい。パワーはないから速く走るためには脳を駆使しないとならず、上手くなる下地ができる。本来は若者のためのクルマなのだ。……ちょっと贅沢だけど。

車両本体価格:¥1,980,000(β、税込)
排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2,600rpm

PART4 還暦になったらこれに乗る!

実は最近に始まったことでもないのだけど、僕は昔から〝いまわの際を迎える頃には、自分は何に乗ってるんだろう……〟なんて、時々考える。あるいは〝自分のアガリの1台は何だろう……〟だったりとか。

クルマ好きとして育ってクルマ好きとして生き、クルマ好きとして死んでいくのだろうから、際の際が来るまでクルマに乗っていたいと思うし、その頃には自分の心の中にある夢の1台に到達しているといいなという願望もあるのだけど、それ以上にクルマに関しては気が多い自分がそのときに何を選んでどう乗っているのか。そこに〝怖いモノ見たさ〟にも似た興味があったりもする。

あと数ヵ月で52歳。8年少々60歳。還暦、である。70や80でコロリと往くつもりもないので、個人的には50になったときと同じく区切りのひとつにしか思えないのだけど、干支がひと回りしたこのタイミングは、第2の人生、新しい人生のスタート地点としての意味合いを持ってもいるらしい。

だったら……とすぐにクルマに結びつけるのがクルマ好きの悪い癖だが、還暦過ぎたら自分のホントに乗りたいクルマを選ぶのはどうだろう? 世の中的には明確な〝ジジイ〟へのスタート地点でもあるわけで、そこからジジイとして成熟を極めて行こうとする自分をまっすぐカッコ良く見せてくれるクルマ、というのもありだろう。

とにかく誰もが「まぁ節目だからな」と頼みもしないのに認めてくれるタイミングだから、クルマを乗り換えるいいチャンスである。ここをお読みの皆さんにはその日までしばしの時間がある方も多いことだろうが、それまでの時間を準備期間にあてたら、ちょっとした高値系にも近づけるんじゃないか? なんて思ったりもする。

そんなわけでここは各々がホントに好きなクルマを選べばいいと思うから、クルマをチョイスして見せることもないとも思うのだけど、とりあえずはヒントとしてのオススメを少々。圧倒的なオススメは、スポーツカーに乗ること、だ。

先細りになっていくのではなく、弾けるような気分が自分の中に変わらずあることだけは主張しておかないと、という意味合いもある。僕が並べたのは〝やっぱ解ってるなぁ〟系のこれ見よがしじゃないけど速くて楽しいヤツだ。

スポーツカーにあまり関心がない人向けに並べてみたのも、〝やっぱ解ってるなぁ〟系ばかり。30や40の〝コゾー〟とは異なる、力の抜けた「オトナをナメるなよ」っぷりが滲み出る場面でもあるはず、と思うからだ。たかが60で人生マトメに入る必要なんて全くないとも思うのだけどね、実のところ。

アストンマーティン V8ヴァンテージ

酸いも甘いも知った深みのあるオトナのためのスポーツカーといえば、イタリアの跳ね馬より猛牛より、このアストンマーティンである。ワル目立ちしないけれど均整のとれた美しいフォルム。充分な力強さがあるのに、それよりテイストを重視したエンジン。エレガントなインテリア。ヒョイと買える値段ではないが“超”がつく一級品なのだ。

車両本体価格:¥15,277,600(Coupe 6MT、税込)
排気量:4,735cc
最高出力:313kW(426ps)/7,300rpm
最大トルク:470Nm(47.9kgm)/5,000rpm

ポルシェ718ボクスター

いつまででも走りを追求し続けたいクチには、ボクスターをオススメしたい。フラット4ターボを積む718ボクスターは上陸前ゆえ未試乗だが、フラット6特有の味がないことを別にすれば、走行性能はもちろんあらゆる部分が進化してる様子。元々911よりフットワークが軽やかなのもいいし、911ほど存在が重くないのも気楽でいいかも知れない。

車両本体価格:¥6,580,000(MT、税込)
排気量:1,988cc
最高出力:220kW(300ps)/6,500rpm
最大トルク:380Nm/1,950-4,500rpm

キャデラック ATSクーペ

メルセデスもBMWも悪くないんだけど街中そればっかり……。いや、キャデがあることを忘れてないですか? である。オススメは比較的小柄なATS、それも後席はそう使いはしないのだから、スタイリッシュなクーペがいい。昔の“アメ車”とは全く違ったドイツ車いらずの走りっぷりと、昔ながらの快い緩さ。ブルックスのシャツのような感じかも。

車両本体価格:¥5,800,000(税込)
排気量:1,998cc
最高出力:203kW(276ps)/5,500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3,000-4,600rpm

シボレー コルベット

小生意気な30や40の若造達を黙らせるにも変わらぬ勢いを示すにも、コルヴェットほど相応しい乗り物はない。マグマのように沸き立つ力強さに豪快だけどコントローラブルなシャシー。走らせてると生きてる実感までモリッと膨れ上がる。大柄で迫力のあるシルエットは抑制を知るオトナにこそ似合うもの。ジジイがヤンチャであってもいいのだ。

車両本体価格:¥10,250,000(クーペZ51 2LT/7MT、税込)
排気量:6,153cc
最高出力:343kW(466ps)/6,000rpm
最大トルク:630Nm(64.2kgm)/4,600rpm

ジープ ラングラー

車高がペタペタなのもスピードを追求するのも、もういいや。そんなふうに感じながらもアクティヴにあちこち飛び回りたいなら、ラングラーだ。ジープならではのヘヴィデューティな味わいと、ジープらしからぬコンフォート性の混在。大柄な車体と目線の高さが生む、ゆったりとした安心感。どんなヒエラルキーとも関係ない無二の存在感もいい。

車両本体価格:¥3,963,600(Sahara、税込)
排気量:3,604cc
最高出力:209kW(284ps)/6,350rpm
最大トルク:347Nm(35.4kgm)/4,300rpm

スマート フォーツー

大きなクルマをのたのた走らせるのはメンドクサイ。その気持ちは50代頭でさえも、時々よく解る。そんな気分でスマートに乗ると、虜になるかも知れない。ただ小さいだけでなく、往復1車線ずつのフツーの道でクルリとUターンできてしまうほどの小回りの効き具合が最高に気持ちいい。走りもだいぶ小気味いい。ある意味最強のアラカン車だ。

車両本体価格:¥2,010,000(edition2、税込)
排気量:998cc
最高出力:52kW(71ps)/6,000rpm
最大トルク:91Nm(9.3kgm)/2,850rpm

DS 5

安っぽいモノは避けたいが、ひけらかすのも嫌。抑制を知り、何よりエレガンスを愛するインテリジェントには、このDS5をオススメしたい。独創的なスタイリングもさることながら、ただゴージャスなだけじゃないファーストクラスのインテリアと類稀なる快適な乗り心地は、言葉にしがたい素晴らしさだ。フランス流の最上級のおもてなし。

車両本体価格:¥4,090,000(CHIC、税込)
排気量:1,598cc
最高出力:121kW(165ps)/6,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1,400-3,500rpm

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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