“W”という名に託した思い ~W800 Special Editionが誕生した背景~

アヘッド W800

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カワサキが'98年にW650を発表した際、開発陣は静かにその決意を語っている。曰く「10年は継続するモデルです。生産規模とコストとのバランスを考えると、それくらいじっくり取り組まなくてはなりませんが、その価値と意味があるバイクだと考えています」と。

text:伊丹孝裕  [aheadアーカイブス vol.113 2012年4月号]
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“W”という名に託した思い
~W800 Special Editionが誕生した背景~

“W”という名に託した思い

~W800 Special Editionが誕生した背景~

この言葉には、エンジンの造形とそれに見合う機構にこだわった結果、まったく新しい加工機械を導入せざるを得なくなったこと、そして高い工作精度を要求されるパーツが多数あり、大量生産を難しくしたという事情が込められている。

言い方を変えれば、「それでも作る」というカワサキの意地の表れでもあったのだ。 当時もまた不況の真っただ中にあり、「10年で採算が取れたらOK」などという企画が承認されたこと自体奇跡だが、カワサキはこれをきっちり10年やり切り、'08年に一度、生産を終了している。

ただし、それは目的を果たしたからではない。空冷のバーチカルツインというエンジンの設計上、そのままでは排ガス規制をクリアするのが厳しくなったという、まったく別の事情であった。そのため、カワサキは2年ほどのインターバルをおいて、これを解決。排気量を拡大し、車名を変えて、'11年に再びWの名を世に出してくれたのだ。

それがW800である。

乗れば、つい顔がほころぶ。なんと言っても、わずか2500回転で最大トルクを発生するところがいい。そのまま回転を上げ、4000回転前後に達する頃には、シートから伝わるビリビリとした鼓動感がピークを迎え、ただ流しているだけで、心地いい気分になれるのだ。

ハンドリングも満足度が高い。フロントの大径19インチホイールは、クラシカルさを強調するためではなく、この上ない安定感のため。極低速でもフロントが路面に張りついているかのようで、どう操作してもまったく転ぶ気がしないのだ。それでいて、バンクしていく様は軽快だから、誰もがバイクを操っている“らしさ”を堪能できるに違いない。

そもそも、Wという名はノスタルジックなものではなく、ただ純粋に走りを楽しむためにカワサキが作り上げた、歴代のスポーツバイクに与えられてきた名である。つまり開発陣は、過去を振り返るどころか、再びこれから先の10年を見据え、この新生Wに素晴らしいエンジンとハンドリングを与えてくれたのだ。

どんなジャンルでもクラシックなスタイルは流行だが、格好だけのモノはすぐに見抜かれる。そこに芯の通ったこだわりがあるからこそ、触れた瞬間、熱が伝わり、喜びに変えてくれるのだ。W800が、何よりそのことを教えてくれている。
Kawasaki W800 Special Edition
空冷SOHC 並列2気筒773cc 
最高出力48ps(35kW) / 6500rpm
最大トルク62Nm / 2500rpm 
車両重量 216kg 
車両本体価格 ¥880,000(Special Edition)

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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