Rolling40's vol.42 私のポイント・オブ・ノーリターン

vol.42 私のポイント・オブ・ノーリターン

アヘッド ROLLING 40's

この伝説的劇画を知ったのはちょうど20年前だった。この劇画は、走り屋系バイク漫画と思って読み始めると、多くの方が足払いを食らう。スピードに賭ける羅漢のロマンではなく、スピードに魅せられた羅漢の、次の人生の一歩を踏み出せない迷いと苦悩の話なのだ。この「陰鬱」と「激しさ」が同居している世界観は映画向きだと直感した。

私はとある映画プロデューサーに、この劇画を映画化することを強く推奨した。
 
だが、当時のアナログ的撮影技術と、オートバイ業界という特殊な世界とのコネクションの細さなどから泣く泣く断念したという経験を持っている。しかし現在、それらに精通するという「武器」を手に入れた私は、新たにこの原作に挑戦する次第となった。
 
この映画のサブタイトルは原作と同様、「ポイント・オブ・ノーリターン」だ。
 
直訳すると、折り返し不可能地点ということなのだが、この言葉にアラフォーまっただ中の私は、いろいろと突き刺さるものがある。職業は違っても、それは同世代の皆さんにとっても同じことであろう。
 
この映画を世に発信することは、実は私にとってのまさに「その地点を通過する」ことである。
 
26歳のときより始めた、企画&監督作品としてはいつの間にか5作品目となり、ここまで来ると映画製作という活動は、自分の人生にとってサブ的要素の枠を超え、精神的にもメインストリームとなっている。
 
弱冠44歳、成功不成功どちらであれ、ここで「映画作りは止めました、大人しくしています」という訳には、もういかない。人生にとってこの活動が大勝であろうが玉砕であろうが、後は映画を作り続けていくしかない。
 
ここで止めるということは、今までかかわり続けた大半の「演劇空間」を自己否定することであり、それは私たちのような人種には「壮絶な最期」を意味する。
 
最近、ある上場企業の営業マンをしている親友の悩みを聞くことがあ
った。こんな御時勢に人並み以上の高給取りである彼なのだが、自分の「売っているもの」に対して、ある日から愛情を持てなくなったという。そして毎朝、満員電車の中でその思いにひとり困惑する日々だという。
 
私は黙って彼の言葉を聞くだけだった。聡明な男と知っているだけに、井戸端会議レベルのアドバイスが必要はないのは分かり切ったこと。だが、ある言葉を思いついた。

「上司の尻の穴をナメても出世してみたら」。
 
つまり私たちは、己のポイント・オブ・ノーリターンを通り越しているということを言いたかった。
 
特別な準備もなしに今いる戦場から逃げたとしても、それはさらに死屍累々たる戦場に無防備に突撃するだけで、ならば激しい痛みを伴いつつも、戦い方の知れた今の戦場で命を掛けたほうが得策だということだ。
 
男として最悪の屈辱を経験しようとも、切り抜けられる確立が高い戦場を冷静に選ぶべきということだ。
 
彼は、大人としてその痛みを「予測」しているからこそ、今の苦痛もひとしおだが、確かに羅漢の死よりマシかもしれないと納得してくれた。
 
そんな「戯言」を言いながら、私はそれらすべてを己に対して言っているのだと感じていた。私自身も、どんな激痛を味わおうと、今のスタンスで前進を続ける他に活路はない。
 
ギャンブル性の高い活動であるが故、きっとこの先、何度も窮地に立たされることは必至。でも、それを静かに「覚悟」していることが、アラフォーの苦痛であり、同時に玉砕覚悟の強さでもある。
 
去年1年間、私は結局、映画「キリン」の撮影しかしていない。その間、いろいろと失うモノもあった。映画が完成しない悪夢も何度か見た。いわば激しい陣痛であろう。
 
だが、3月3日を前にすると、その間に感じた不安が大きければ大きいほどに、喜びもひとしおであり、「母」の心は不思議である。
 
映画「キリン」は生まれたばかりだというのに、もう自分の意思を強く持っているかのように「つかまり立ち」をしようとしている。
 
早い。今までの「子供たち」とは明らかに成長の速度が違う。それくらい、この映画は今までに感じたことのない「生命感」を放っている。
「母」たる私の心配を尻目に、きっと悩めるアラフォーたちの胸の中に静かに入り込んでいくはずである。

*映画『キリン』公式サイト
www.kirin-movie.com/

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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