text:岡崎五朗/photo:篠原晃一
M3の魅力は色々ある。カッコいいスタイル、強靭なボディ剛性、快適性とスポーツ性を高い次元でバランスした足回り、そして"M "のバッジ…。しかし、M3の魅力を決定的なものにしているのは、なんといってもストレート6エンジンだ。
このエンジンがいかに常識外れのものであるかはスペックを見ただけでわかる。2,979ccという排気量から生みだされるパワースペックは431ps/7300rpm、550Nm/5500rpm。ピークパワーの高さ、ピークトルクの豊かさもさることながら、ターボエンジンとしては異例な高回転型であることに注目したい。過給圧を上げればここまで回転数を上げなくても必要なパワーは得られたはず。にもかかわらずあえてそれをしなかったのは、レーシングカーのような血湧き肉躍るフィーリングを狙ったからだろう。
実際、M3のストレート6ターボは最高に気持ちがいい。まず、ピッと芯が通った回転フィールがいい。上まで回さなくても、キカイとして完璧な精度とバランスを与えられていることを皮膚感覚として伝えてくる。だから、街中を流しているだけでもゾクゾクする。
しかし、いちばんのキモはやはり積極的にアクセルを踏んでいったときの振る舞いだ。ターボラグを徹底的に封じ込めた3L ストレート6は、甲高いレーシーなサウンドと艶っぽい回転フィールを保ったままトップエンドまで一気に回りきる。アクセルを踏み込んだ瞬間のレスポンスの良さは、まるで右のつま先と後輪が直結しているかのよう。全開時の圧倒的迫力だけでなく、アクセル開度を細かくコントロールできるドライバーが操れば、右足に込めた「ニュアンス」にも忠実に反応してくれる。先代の4L V8から3L 直6ターボに変更した背景にはダウンサイジングターボ化による燃費低減もあるが、それによってエンジンの気持ちよさがまったく後退していないのが嬉しい。これぞ本当の技術。M3の3L ストレート6ターボは、ポルシェ911の3L フラット6ターボと並び、もっともエキサイティングかつ色気のあるターボエンジンだと断言する。
エンジンに勝るとも劣らない感動を与えてくれるのがフットワークだ。RC-Fより130㎏、C63より140㎏、RS4アバントより220㎏も軽く、かつ重心高への影響度が高いルーフをカーボンファイバー製にしたボディは、ライバルたちより圧倒的に軽やかでシャープ。この軽さは走りだした瞬間からはっきりと体感できるし、ワインディングロードに持ち込めば、ターンイン時の素直なノーズの入りやS字切り返しのヒラリ感として鮮やかな感動をもたらす。
躊躇なくリアルスポーツカーと呼べる運動性能を備えながら、大人4人とそれぞれの荷物を収納する実用性と、ベースの3シリーズを凌ぐのでは?と思うほどの快適な乗り心地を実現しているのも"Mマジック"のなせる技。日常生活に無理なく溶け込みつつ、しかしドライバーが望めばあっという間に非日常に連れていってくれる夢のようなマシン。それがM3だ。