M3が1000万円オーバーの世界に足を踏み入れたいま、770万円というプライスタグを付けたM2の存在は貴重だ。もちろん、"M"の真の価値は価格ではなく、研ぎ澄まされた走りにこそある。けれど、ポルシェがケイマン/ボクスター、メルセデスがA45AMGという比較的手ごろな価格のモデルをラインナップしていることを考えると、エントリーモデルがM3ではユーザーを限定してしまうことになる。そう、Mの魅力をより広く訴求するために、M2の登場は必然だったのだ。
とはいえ、M2をつくるにあたってBMWは一切の妥協を排した。エンジンも、足も、ボディも、内外装の仕立ても・・・すべてにおいて本物のMであることを目指したのである。そのことは、実車を眺め、乗り込み、走り出せば一目瞭然だ。それどころか、走りの楽しさ、濃密度でいけばベストMかもしれない、とさえ感じた。
まず、ボディサイズがいい。全長はわずか4475㎜。これは3世代前であるE36型とほぼ同じ数値であり、乗り込むんだ瞬間に伝わってくるのは神経がボディの四隅まで届くかのような一体感。「意のままに操れそうだ」という予感が走りへの期待を高める。そんなコンパクトなボディと、370ps/465Nmという強心臓ぶりを誇る3Lストレート6ターボの組み合わせもゾクゾクするほど刺激的だ。一方で、M3より210㎜も短いホイールベースと後輪駆動で、この遠慮なしの大パワーを消化できているのだろうか?という不安もよぎる。
しかしそれは杞憂だった。走りだして最初に感じるのは超高性能モデルであることを忘れさせるしなやかな乗り心地。それでいてコーナーでの姿勢変化は穏やかで、かつ常に4本のタイヤが路面にへばりついている感触を伝えてくる。一般道に加えサーキットでの限界走行も試したが、自信をもって踏んでいけるし、ラップタイム狙いのグリップ走行から、派手なドリフト走行まで、M2は自由自在のハンドリングを見せつけてくれた。
こういった味は、強靱なボディと、綿密に調律した高精度ダンパーを組み合わせなければ絶対に出せない。M3から多くのパーツを移植したという足回りと、速さはもちろんフィーリング面も最高にゴキゲンなストレート6ターボ、そして軽量コンパクトなボディは、M2を超一級品のスポーツモデルへと昇華させている。Mのエントリーグレードであると同時に、意のままに操れる最高のドライビングマシンとして、ライバルはもちろん、他のMでも味わえない独自のエンターテインメント性がM2にはぎっちり詰まっている。