埋もれちゃいけない名車たち vol.69 気持ちいい!が正義だった時代「アルファロメオ 75」

アヘッド アルファロメオ 75

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いずれクルマはバッテリーとモーターで走るものがメインストリーム、という時代になっていくのかも知れない。やがては生まれたときからスマホに接している世代が黒電話のダイヤルを回す指先の心地好さを知らないように、内燃機関を動力源とするクルマならではの楽しさを知らなくて当たり前、なんてことになったりもするのだろう。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.185 2018年4月号]
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vol.69 気持ちいい! が正義だった時代「アルファロメオ 75」

vol.69 気持ちいい! が正義だった時代「アルファロメオ 75」

化石燃料を燃やして動力を作るクルマは公道で走ることが許されなくなり、好事家が少しばかりの後ろめたさとともにクローズドコースで走らせるのみ、なんて未来だって想像できる。

不幸なことに──いや、やっぱり幸いなことに、だろう。僕達の世代のクルマ好きは〝エンジン〟の気持ちよさというのを知っている。近頃では少なくなったけど、数多あるエンジンは個性豊かで、中にはとびきり気持ちいいといえるヤツが幾つもあったことだって解ってる。そこをクルマ選びの最も大きなポイントにしているクルマ好きというのは、今だって少なくはないのだ。

アルファロメオのツインスパーク・エンジンは、その代表格のひとつといえるだろう。遡れば1950年代まで到達する古めかしくも熟成の進んだDOHCエンジンに、気筒あたり2本のプラグを持つアルミ合金製ヘッドとフューエル・インジェクションを与えてパワーアップを図り、1987年に送り出したものだ。

最初にツインスパークを搭載したのは1985年デビューの〝75〟だった。当時のアルファのデザインセンターのチーフだったエルマーノ・クレッソーニによるスタイリングは、直線基調ながら不思議な抑揚と瀬戸際のバランスで成り立っている独創的なもの。一目見たら忘れないほど印象的だが、少々取っつきにくく、美しいとはいいがたい造形だった。

サイド・ブレーキのレバーが出前のおかもちの取っ手のように逆U字型だったり、パワー・ウインドーのスイッチが天井にあったりと、過ぎるほど個性豊かだった。それでも一定以上の人気と関心を得ていたのは、ツインスパーク・エンジンの存在感の強さによる。

低回転域ではゴロゴロと不機嫌そうなのに、回せば回すほどルロロロロと心を鷲掴みにするような快音を奏で、全てを振り絞るようにして力強くクルマを加速させる。当時にしても古典的といえるテイストだったが、そのフィールは他の何にも代えがたい気持ちよさだった。

個人的にも〝ブサイクだなぁ〟なんて思いつつ75に強烈に憧れたのは、その一点に尽きるといっても過言じゃない。そんなクルマ、今、どれだけ存在するだろう?

モーターのクルマも嫌いじゃない。いずれ所有することもあるかも知れない。でも、僕はこうした〝息吹〟のハッキリしたクルマを、1台は必ず手元に置き続けるだろうと思う。

アルファロメオ 75

アルファ ロメオ75は、それまでの2代目ジュリエッタの後継として1985年にデビュー。1972年登場のアルフェッタから熟成の重ねられたトランスアクスル・レイアウトのシャシーを持つ、ハンドリングに優れたスポーツ・セダンである。

1987年に追加された2リッターのツインスパーク・ユニットは148ps。1,200kgに満たない軽い車重とクロース気味のギア・レシオも手伝って、当時としては爽快な加速感を提供してくれた。ちなみにこのエンジンは他のモデルにも搭載され、16バルブ化などの進化を経て2010年まで生産され続けた。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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