心躍る「海石榴」までの道のり

 なんて事を考えながら、今ターンパイクを登り切り、一服中。これから椿ラインを下って今日の目的地の「海石榴」に向かうところ。ちょっとターンパイクで調子にのってしまい、「いい歳なんだから!」とたしなめられたところ。とは言っても久々に走るのだから気分も上がるってもの。本来リアシートに乗っている、小学校をもうすぐ卒業する息子は祖父母の家に泊まりにいっており、久しぶりの妻と二人のドライブ、というわけ。

温泉は好きだ。出張先でもチェックして立ち寄ってしまうほど。さておき、週末の旅だから都心からほど近い温泉郷でゆっくりくつろぎたい…。そんな思いで湯河原の「海石榴」を予約。妻は「ねえ、海が見えてきたよ!」なんてはしゃいでる。昔はこんなドライブは幾度もしたのだけど、ふたりでこうした会話を交わすのは久しぶりでなんともこそばゆい。なんて不思議な気分で妻を眺める私。

門~数寄屋造り

立派な門をくぐると、まず数奇屋造りの「海石榴」がお出迎えしてくれる。なんとも言えない安堵感。
宿に着いたというこの感覚も、旅の醍醐味ではないかな。

自分だけの露天風呂に癒やされる

素晴らしい接遇で、今宵の宿をアテンドしてもらう。私がこの「海石榴」を選んだ理由のひとつは、「部屋に露天風呂が付いている」というところ。誰に気兼ねするでもなく、露天風呂を楽しめる。早めにチェックインしたのもこの風呂を存分に楽しもうという魂胆があった、というわけ。
部屋に荷を下ろしたら、早速入るとする。妻に「一緒に入ろうか」と声をかけるも、湯冷めするから後で入る、なんてつれない返事。まあいいさ、ゆっくり疲れをとるには一人も悪くない。

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椿と梅の香り包まれる瞬間

露天風呂を独り占めし、すっかり寛いだ私。妻は待ちかねていたようで、「立派な庭園があるから見に行こうよ」なんて急かされる。この「海石榴」の庭園には100種以上の椿が植えられた庭園を散策できるのだ。

11月から4月の間、椿が咲き誇るというこの場所、この時期に来て正解だった。明治の文豪達が愛したといわれる、ここ湯河原。
彼らもこの椿を見ながら筆を走らせたのだろうか…なんて歴史に思いを馳せながら、しばし散策。

五感で愉しむ海石榴の懐石料理

 散策をしていると、「もうそろそろ夕食の時間じゃないかな?」なんて妻。昼食もいろいろ食したが、すでに私も空腹感を覚えている、旅先の不思議。
「海石榴」でうれしいのは、部屋食であること。これだと気兼ねなく食事を楽しめるのが良い。「小さな子がいても安心よね」なんて妻はやはり母らしい目線。次は息子も連れて来たいが、そろそろ難しい年頃かもしれない…なんてことを考えていると、仲居さんが食事の用意を進めてくれる。せっかくの旅だから、と少々奮発をしたわけだが、「海石榴」の懐石料理は期待を裏切らない。
気の利いた先付、前菜を楽しみながら、まずビール。妻は日本酒をもう頼んでいる。確かに、和食に最も合うのは日本酒だというのは正論だが、あとでからまれるのが厄介だ。椀物、向付を楽しみ、あっという間に焼き物まで進んでしまう。そろそろ私もお酒に切り替え、海の幸を肴に、じっくり向き合う。新鮮な料理と日本酒の相性は素晴らしい。
旅の思い出、というものを考えた時、真っ先に浮かぶのは「食の思い出」ではないだろうか。美味しかった事や、その逆の事も記憶に刷り込まれているのだから、いかに「食」というものが大切か、しみじみと思う。

明治の文豪らも愛した湯河原の湯を愉しむ

大満足の夕食後、もう一つのお目当てでもある「大浴場」にて湯河原の湯を愉しむ事に。ふたたび「一緒に入るか」とおどけて妻に言うと、あなた捕まりたいの?早く行こう、なんて。
「海石榴」の大浴場は、見事な庭園を眺めながら湯に浸かる事ができる。無色透明で柔らかい泉質は、肌に潤いを与えるのだそう。妻も最近、肌がどうとか気にしていたから、きっと後で「見て見て!」なんて自慢してくるのだろうな。
この湯は夏目漱石をはじめとした明治の文豪達も愛した、とされている。でも文豪のみならず、多くの人々が愛した湯でもあるんじゃないかな。少なくとも私もその一人であるのは間違いない事実なのだ。

日常では味わえない朝

 「海石榴」の湯は芯まであたたまり、満腹感と心地よい充足感で快眠。気が付けば自宅と違う「空気の匂い」で目が覚める。毎日こうした目覚めをしたいものだけど、たまの贅沢だからこそ幸せを感じる部分なのかもしれない。
朝食は新鮮なトマトジュースから。身体が目を覚ます感じ。自宅で飲むのとまるきり違うのだから、やはり「旅」というのは不思議であり、かつ素晴らしい。思えば日々、朝食を摂ったり摂らなかったり、という生活をしているのだが、旅先ではご飯をおかわりするくらい食べてしまうのだから不思議なものだ。妻が「あなた、家でもちゃんと食べてよね」と訝しく私を見る。「そりゃあそうだけど、時間に追われず食事ができる、つまり心に余裕があるから朝食を摂れる、という部分も少なからずあると思うんだよな」と答えると、また屁理屈言って、なんてお小言。でもま、毎朝忙しい中、朝食を作ってくれている妻を大事にしなきゃいけないな。

時間を忘れさせてくれる宿

朝食を終えると、次の行程はチェックアウト、となるのだけど、「海石榴」の良いところは12時チェックアウト、という事。帰り支度もほどほどに、朝の美しい庭園を散策する時間があるというわけ。ゆったり時間を使えるというのも何よりの贅沢であるし、それこそ「粋」という所ではないだろうか。数寄屋造りと椿の花の見事なコントラストをスマホでついつい撮影。なに撮ってるの、と妻。「ほら、なんだか素敵だからさ」と少し照れながら返す。「次は家族みんなで来たいね」というと、そうね、と笑みを浮かべる妻。

都心からさほど時間もかからず、喧噪を忘れさせてくれる湯河原「海石榴」。帰りはお土産やらいろいろ買わされるんだろうな、なんて考えながら、トランクに荷物を入れる私。少しずつ現実が近付いてくるようで寂しさもある。また現実から離れたいときに「海石榴」に来るとしようか。

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