50代からのクルマ生活

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10代の頃は、クルマを運転しているだけで幸せだった。

20代の頃は、掛けられるだけのお金をクルマに掛けていた。

30代の頃から、家族のためにクルマを選ぶようになっていった。

40代になって、自分が本当に乗りたかったクルマが見えてきた。

クルマのある人生に悦びを感じているから、これからもクルマと長く付き合っていきたい。

text:森口将之、桂 伸一 、菰田 潔、嶋田智之 photo:渕本智信 撮影協力・ウィザムカーズ [aheadアーカイブス vol.132 2013年11月号]
Chapter
カーライフ設計のススメ 森口将之
60代と50代の先輩に聞く 50代からのクルマ生活 対談 菰田 潔 VS 桂 伸一
「Tipo」ワールドを拡大した落とし前 嶋田智之

カーライフ設計のススメ 森口将之

前の東京都知事で、現在は衆議院議員を務めている作家、石原慎太郎氏の著書に「老いてこそ人生」がある。歳を取っていくこと、死に近づいていくことから逃げようとせず、逆に正面から向き合い、老いを味わいとしてじっくり付き合っていこうというポジティブなメッセージが綴られていた。
著者はあのとおりアクの強い方なので、「イシハラの本なんて読みたくもない」という人もいるだろう。でも僕は、石原氏の好き嫌いは別として、本書で提言されている歳の取り方に賛同する。

僕自身、この10年間で歳を取ったなあと自覚することが多くなった。老眼にぎっくり腰に五十肩と、かつては笑い話のタネにしていた症状に、自分が見舞われるようになってきたのだ。こうやって人間は老いていくのかと痛感する今日このごろ。でも最初に紹介した本の影響もあって、それを否定せず、むしろ積極的に付き合っていこうかと思っている自分もまたいる。

50代には50代、60代には60代ならではの人生の楽しみ方があるハズ。クルマだって同じではないだろうか。好きなクルマに乗ればいいじゃん。たしかにそのとおりだ。でも好きなクルマそのものが、歳を取るにつれ変わってきていることに、多くの人が気付いているだろう。昔はダサいと嫌っていたNHKの番組が、いまは民放のテレビよりしっくりくるように。
年齢によって似合うクルマ、似合わないクルマがあるのは疑いのない事実。僕たちクルマ好きは、それを知らないうちに自覚している。だったら人生設計と同じように、カーライフ設計を立ててもいいんじゃないかと考えたりもする。
 
かつての日本人は、定年までバリバリ働いたはいいが、これといった趣味を持たなかったので、退職後に何をしたらいいか分からず路頭に迷うという例が多かった。それに比べれば欧米の人たちのほうが、人生設計をきちんと立てている気がする。

退職とともに田舎暮らしをしたり、モーターサイクルで旅に出掛けたり、将来の過ごし方をちゃんと考えているように見受けられるからだ。最近は日本でも、同様のライフスタイルを選ぶ人が増えている。そのほうが気持ちが豊かになれるのだろう。
 
では50代に似合うのはどんなクルマなのか。僕は2ドアクーペだと思っている。リアゲートを備えた3ドアでもいいけれど、つまりはリアドアを持たない4〜5人乗り乗用車のことだ。クーペの最大の魅力。それは〝無駄〟である。セダンのように機能を突き詰めたわけではない。

スポーツカーに比べれば贅肉が多い。若いうちはそれが中途半端に映るだろう。でも人生経験を積むにつれて、その無駄をゼイタクと理解できるようになってくる。それが分かってくるのが50代あたりではないか。
 
多くの50代はそろそろ子離れをして、夫婦2人の時間を多く取れるようになるだろう。生活にゆとりが出てきて、旅行をする機会が増えているかもしれない。そんなシーンに相応しいのは、カッコよくて、仕立てが良くて、走りも楽しめる、つまり自動車の魅力を全方位的に味わえるクーペじゃないかと考えているのだ。

昔の僕は、クーペは若者の乗り物だと考えていた。でも仕事でヨーロッパに出掛けるようになると、ベテランドライバーがクーペを華麗に乗り回すシーンを何度も目にした。大人の乗り物なんだと教えられたのである。
 
ただし今、クーペを捜すとなると、これが難しい。国産2ドアクーペは気がつけば絶滅危惧種になったし、欧米でもドアが多いほうが何かと便利という日本人のような理由で4ドアクーペなる車種が増え、2ドアは脇役に追いやられつつある。
 
そんな中で1台選ぶとしたら、「ロータス・エヴォーラ」だろうか。見た目はスポーツカーっぽいが、「エリーゼ」や「エキシージ」が居並ぶ「ロータス」の中では立派なクーペである。モダンなデザインは70〜80年代に青春を過ごした自分好みだし、「ロータス」らしいしなやかな乗り心地とミドシップならではの俊敏なハンドリングのバランスは、快適は欲しいけれど快楽を忘れたくない50代にお似合いだ。
 
国産車では次期「スカイライン」のクーペに期待したい。すでにアメリカなどではセダンが「インフィニティQ50」の名前で販売されているこのクルマにクーペが追加されることは、過去2世代を見れば確実。しかも9月にアメリカで触れた「Q50セダン」は、シャープなスタイリングと上質なインテリアを併せ持ち、V6ハイブリッドとステアbyワイヤで新しいドライビングプレジャーを表現していて、なかなか好感触だった。
 
50代にとってのクルマ選びは、決して後ろ向きの行為ではない。歳を取ったことを嫌がって、無理に若々しいクルマに乗り回しても、たぶん楽しめないだろう。それよりも豊富なカーライフで得た経験を生かせる、芳醇な魅力に溢れた1台を選び、じっくり付き合ったほうがいい。若い頃とは違う、人とクルマとの味わい深い関係を築いていくことが、かけがえのない時間になりそうな気がする。

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text:森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

60代と50代の先輩に聞く 50代からのクルマ生活 対談 菰田 潔 VS 桂 伸一

———ahead読者の多くは、現在、40代後半から50代前半の方たちです。これまで豊かな時代を生きて来たということもあって、クルマやバイクの趣味に関して、〝若い頃のままでいられた世代〟と言えます。

その世代が50代に差し掛かり、「さすがに体力的にも精神的にも40代までのようには、いかないだろう」と不安を感じていると思うのです。

桂さんは54歳、菰田さんは60歳を過ぎていらっしゃいますが、50代という年代をどう思われますか。あるいはご自分が50代を迎えるにあたって、どんな心境でしたか。

 改めて聞かれると困るなぁ。特になぁんにも感じなかったからねぇ。40代だからこう、50代だからこう、という年代で区切るという考え方は僕にはない。そもそもフリーランスで仕事をしていると、計画を立てたところで計画通りになんかいった試しがないから。

———同じ年代の周りの方はどうでしたか。

 そう言われてみれば…自分とは全然違うかも。同窓会なんていくと周りのみんなが老けていてびっくりしちゃう。40代の中盤くらいまでは、それまでの生き方みたいな差はまだ埋められる感じがあったけど、50代になるとそれがもっと歴然としていて、もはや埋められないほどの差になっている気がするね。

菰田 僕は20代の頃、トラックドライバーをやっていたことがあるの。そのとき、その会社の50代の社長が「長生きしたい」と話しているのを聞いて、えっ50歳を越えてもまだ長生きしたいのかよって、ちょっと馬鹿にしてたものだけど、実際に自分が50代になってみると人生まだ半分という気がしたね。

桂 確かに。自分が20代のころは50代なんて棺桶に片足突っ込んでいるくらいに思ってた。でも、あの頃と何にも変わってないんだよ、自分は。ただ最近、同窓会へ行ったときに、何人かが亡くなっていたんだ。それで、やっぱりいつか人は死ぬんだなって思ったのも事実。

菰田 僕の場合もね、50歳を過ぎたあたりから知り合いや、知り合いの知り合いが、やたらと亡くなった。周りであまりにたくさんの人が死ぬから、思い切って家を買ったんだ。それまでは賃貸に住んでいたんだけど、自分が死ぬと家族が困るだろうと思って。家があれば、万が一があっても保険でローンは完済できるからって安心だったんだけど、最近になってその家を売ってまた賃貸に戻ったんだ。
———家族のために買った家を売った理由を教えて下さい。

菰田 2011年に震災があったでしょ。もしまた大きな地震でも来て家が壊れたら、住めない家にローンだけが残る。それは嫌だとカミさんがそう言って。

———50代の時に自分が死んでしまうことを考えて家を買ったのに、60代になって、生きていくことを前提に家を売ったというわけですね。

菰田 まさにそう。そうやって思い返すと、初めて「もし死んじゃったら」と考えたのは50代になってからだね。60代になると今度は「生きる」ことを考えてる。何歳まで生きられるのか分からないけど、やりたいことをやろうって再認識した。生きることを前提にトータルでいろいろ考えると、また別の方法や希望が生まれてくるんだ。でも僕の年代はもう定年が視野に入ってきている。周りを見てると奥さんや子どもに「残す」ことしか考えてないんだよね。

 いくつになっても世間では「将来設計」が一番大事なんですよ。僕はフリーランスだから、明日仕事がなくなるかも知れないという怖さ、不安を常に抱えているから将来の予定なんて立てられない。それもあって好きなことをやってきたけど、ほとんどが挫折の繰り返しだった。どれだけ失敗してきたか分からない。

———フリーランスでなくても、将来の予定が立てられない時代になったと言えます。

 あるレースで声を掛けられて準備万端で待っていたら直前でキャンセルになったり、他のレースを蹴って、どうしても出たかった別のレースに出たら、他車にぶつけられてクラッシュしてすべてがおじゃんになったり。大きなお金が動く世界だからしょうがないんだけど。おかげで随分、失敗に対する免疫はついた。失敗したときにいかに早く立ち直れるか。そっちの方が大事。

菰田 僕も失敗は数えきれないな。10回打席に立って3回打てるかどうか。残りの7回は失敗してるけど、イチローだって同じでしょう。

———会社員をはじめ、組織の人間にとって、〝失敗しても構わない〟は、とても難しいことだと思いますが。

菰田 一度で一家離散になるような大きな失敗をしなければいいの。

 そうそう。よくニュースになってるような何億とか、さすがにそんな失敗は、なかなかできない。この歳になると自分の器ってものはよく分かってるから、その範囲内でやるの。それを超えてやっちゃいけない。

———欲しいクルマを買うとか、サーキットを走るとかは、失敗しても大したことにならないということですね。

 まったく、何の問題ない。若くして死んじゃった同級生のことを考えると、彼らだってやりたいことはあっただろうにって思う。だったらやらずにいるよりもやった方が絶対に良い。たとえ借金を抱えたとしてもさ、何もやらずに死んでしまうことを本気で考えれば、それくらいはなんとかするでしょう。悔いのない人生にしようなんて偉そうなことを言うつもりはないけど、人ってやりたかったことをやってみると、それによって何かが大きく変わるってこともあるからね。クルマを買うことくらい本当は簡単なことなんだよ。

菰田 好きなクルマを買わない人には2種類あって、お金がなくて買わない人と、お金があっても買わない人。後者は子供とか将来とかのことばっかり考えてるタイプ。何かしら買わない理由を探してるだけだと思う。それに他人のせいにしてることに気付くべきだよ。

 クルマを買うという意味では、輸入車に飛び込んでみなよって言いたい。先日、同乗試乗のドライバーをやったんだけど、輸入車に乗せてあげるとほとんどの人が「こんなに違うの」って驚くのよ。自分で運転してなくてもそう思える。輸入車は、個性がはっきり出てるから、今までと違った世界を見せてくれる。

———国産車から輸入車に乗り換えるのは、普通の人にとっては不安を感じることかも知れません。価格や信頼性は国産車と差がなくなってきたのですが、いわゆる〝世間の目〟を気にして購入に踏み切れずにいる人も多いと聞きます。

菰田 日本人の根本的なマインドには「自動車は悪」だというのがどこかにある。自動車産業によって国が成り立ってると言っても過言ではないのに、おかしな話。いいクルマに乗って、クルマを楽しんでいると悪いやつに見られちゃう。本当に残念。

 そんなものに縛られていたらもったいない。若い頃にメルセデスは人生の最後に乗る〝アガリ〟のクルマだって言われてた。だけど30代で乗ってみたら、こんなにいいクルマはないって思った。もっと早く乗るべきだったと後悔したよ。だからいろんなクルマに乗った方がいい。そういう意味で人生は短いんだから。

———菰田さんは、クルマ好きの聖地「ニュルブルクリンク」を走行するツアーを主催しています。どのような方が参加されているのですか。

菰田 下は20代から上は80代までさまざま。一生に一度はニュルを走りたいという人も少なくない。その夢を実現したいけど、奥さんに反対されて、実家に借金をしたという人もいた。ローンを組んだ人もいたし、逆にゴルフの感覚で参加する50代、60代もいる。面白いのは、「一生に一度」という思いで来ているのに、はまってしまって毎年行くようになる人がいるってところだね。

———高いと思っていたハードルを一度でも越えると、「いける」ということが分って、次から楽に挑戦できるということですか。

 そうだね。50代の話からは遠くなってしまったけど、人生がいつ終わるかなんて誰にも分からない。だから好きなことを思い切ってやるべき。「明日、あるいは半年後に死ぬかもしれない」と仮定して考えてみると、踏み出す勇気も湧いてくるよ。

「失敗よりも、いかに早く立ち直れるかが大事」  桂 伸一 54歳

桂 伸一が選ぶおすすめの4台
ロータス エリーゼ
外国製のミドシップ・スポーツカーでありながら、現実的に手が届きそうな一台。名門スポーツカーブランドであり、F1チャンピオンチームでもある「LOTUS」の血統を所有できる悦びもある。女性のエルメスやシャネルみたいなものかも。
メルセデス・ベンツ Cクラス
走りの基本である「真っ直ぐに走り、ブレず(安定して)に正確に止まり、操作した方向に自然に曲がる」を高次元で実現したクルマ。硬過ぎず、柔らか過ぎないサスペンションの絶妙な味付けが上手い。食わず嫌いな人にこそおすすめしたい。
アストンマーティン V8ヴァンテージ
このクルマは50代におすすめというより、その道で成功した人に乗ってほしい。ただし成金は絶対にダメ。周囲の人から尊敬されて認められた人向けのクルマ。12気筒も悪くないけど、あえてV8ヴァンテージをマニュアルで乗りこなしたい。
ルノー ルーテシア
フランス流のサスペンションの仕立て方が絶妙なクルマ。ソフトでロールもするが路面を掴んで離さず、ステアを操作すると巻込むように曲がる独特なハンドリングは味わっておくべき。あらゆる意味でシャレた内装は日本車は真似できない。

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text:桂 伸一/Shinichi Katsura
1959年1月5日生まれ。54歳。「OPTION」誌の編集者を経てフリーランスのジャーナリストに。グループA、N1耐久シリーズなどレース参戦も豊富。今年「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」でアストンマーティン・ラピードS水素ハイブリッドでクラス優勝を飾る。

「イチローだって10回のうち7回近く失敗してるんだから」 菰田 潔 63歳

菰田 潔が選ぶおすすめの4台
マツダ アクセラ セダン ディーゼル 6MT
ディーゼルエンジン+マニュアルトランスミッションという組み合わせは、日本においては希少価値がある。MTが苦にならず、楽しさにつながるクルマ。
BMW 320dセダン 8AT
満タンで1,000km以上の走行を実現。世間では人気のないディーゼルエンジンだが、静かで低速トルクたっぷりで疲れ知らずの長距離ドライブができる。
ルノー メガーヌRS 6MT
リニアに動くクラッチペダルの操作系は秀逸。小気味良いシフトタッチと遊びの少ないハンドルによって、誰もが気軽にスポーツドライビングを愉しめる存在。
シトロエン DS5
独特のデザインは飽きがこなさそう。猫足は健在で、舗装の痛んだ道を探して走りたくなるほど乗り心地が良いクルマ。ハンドリングにシトロエンらしさがある。

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text:菰田 潔/Kiyoshi Komoda
1950年11月9日生まれ。63歳。モータージャーナリスト。
ニュルブルクリンクをBMWで走行できるスクール形式のツアーを1996年より途切れることなく運営している。参加者と毎年一緒に走りに行くことを愉しみにしている。


「Tipo」ワールドを拡大した落とし前 嶋田智之

コドモの頃には、自分が50という数字を前にする日が来るのなんて想像したことすらなかった。ハタチを越えた頃には、50歳というのはもっとちゃんとオトナで、ヒトとしての完成度も段違いに高いはずだと思ってた。ところがこうなってみると、〝こんなで50を迎えていいのか?〟と軽く疑問を覚えたりもする。

何も気にせず勢いと無知を武器に生きていた頃より、自分の未熟と不出来を意識することが遥かに多いのだ。その恥ずかしさと並行して、〝これがここまで生きてきた集大成なんだからしょうがないじゃん〟みたいな、必ずしも諦念ではないけどハッキリとヌルくてユルい気持ちもある。

そんな折に〝50歳にして何に乗るべきか〟と問われて驚いた。そんなの、考えたこともなかったからだ。

なるほど、50歳というのは確かにクッキリと節目で、それを機会に色々なコトやモノを見つめ直すのは意義あることだと思う。記念すべき半世紀、社会に対して責任を負うオトナでいて当然の年頃、生き方にひとつのケジメをつけやすいタイミング。さあ、どうする……?
 
地球の未来を想って、プリウスだとかリーフだとかアウトランダーだとかのECOカーに乗るか。ニッポンのティピカルな正しいオヤジ像におさまるべく、順当にクラウンを選ぶか。酸いも甘いも身を持って知った経験豊かな男の証として、然るべくメルセデスのシートに収まるか。
 
答えは色々とあるだろう。そして正解の数は考えてるヒトの分だけある。これはそういう問題だ。
 
だが、考えない、という選択肢はナシか? いや、何かを変える必要を感じない、というべきだろう。50というのは確かに区切りだが、必ずしも分岐点にしなきゃいけないわけでもないと思うのだ。50の声を聞いて色々考え始めるのは、「いいタイミングだから自分の半生をしっかりと振り返って、心あるヒトとしての正しい生き方ができてるかどうかを考えるべし」というシンプルな教え。本来〝50の声〟は内なる声なのだ。
 
僕は小心者だから、毎日そんなのに直面してる。というか、「今、俺、まずかったかも……」とウジウジの連続である。そこの湿り気は人それぞれだろうけど、いつ頃からかモノの道理やヒトとしての筋道みたいなものを少しずつ意識するようになっての50なのだろうから、誰もが似たようなものなんじゃないか、とも思う。
 
そのせいか、少なくとも僕も同世代の知人達も昔と違って、場所も状況も選ばず気ままに全開! みたいな走り方はとっくにヤメている。音の大きなマフラーも選ばない。後ろのクルマに煽られてもイラッとしたりせず先に行かせるし、夜の住宅街は選べる一番高いギアでゆったり走り抜ける。それを〝成長〟というか〝老化〟というかはともかく、まぁ不気味なくらい落ち着いたものだ。
 
ヒト様を傷つけず、ヒト様の迷惑にならず、できる限り穏やかに。そうしたクルマとヒトにまつわる部分の良識みたいなところを満たしていれば、基本、それでいいんじゃないか?と思う。

分岐点として変化を求めるのもいいし、自分が決めた道を進み続けるのでもいい。それは自分自身のチョイスだ。だから僕はこれまでどおり、自分のフトコロと抱えてる状況の範囲内で好きなクルマに乗って、ニコニコと御機嫌に──きっとそばにいるヒト達に心地好く伝染するだろう──日々を過ごしていくことに決めている。

それは自動車メディアに永く身を置いて「クルマは楽しい」「好きなクルマに乗るのが一番」とひとつ覚えで主張してきたことに対する落とし前でもあり、クルマが好きで好きで頭の中にはほとんどそれしかないまま今日まで生きてきた、クルマ馬鹿の人生にとって正しい選択でもある、とも思うから。
 
──〝まだ〟50年だ。マトメに入るには早過ぎるし、望まぬ方向に結ぶこともないだろう。僕は好きなヒト達と好きなクルマに乗って思い切り楽しい想いをし続けて、笑いながら「いい人生だった」と死んでいく。
嶋田智之が選ぶ おすすめの3台
メルセデス・ベンツEクラス
もしあなたがアラフィフで、年齢に相応しい「いいクルマ」が欲しいと願うなら、おそらく視野の中にはメルセデス・ベンツが必ず入ってきていることと思います。もちろん否定をするどころか、いつの時代でもメルセデスは大のオススメです。

なぜなら自動車を道具として捉えたときには相も変わらず最良の存在だからです。使うことそれ自体が嬉しくなるような、一流の道具として。

よく、メルセデスのことを「趣味性がない」と切り捨てるヒトがいますが、それは大抵の場合、メルセデスを所有したことがないうえに他人からの聞きかじり。一度でも長い時間をともにしてみたら、それは大きな間違いだということが身体で解るはず。「いい道具」というのは、使うことそれ自体が趣味になっていくものなのです。

確かにフェラーリのような官能性はありませんが、実はそれって意外と早く慣れちゃって、人によっては飽きちゃうかもしれません……不便だし。使っているうちにジンワリと自分に染みこんでくるような滋味深さでいうなら、メルセデスがいまだに世界でトップを往く逸品であることに間違いはないのです。

そんなメルセデスのラインナップの中で今この時点でのオススメは何かといえば、今年に入ってから大幅なマイナーチェンジが行われたEクラス。それも最もベーシックなE250がベストチョイスかも知れません。

ひとつ下のCクラスの方が安価なのはいうまでもありませんが、E250のセダンならクラウンの最上級グレードにプラスすること50万円。価格は600万円を切ってます。世の中にはまだまだ了見の狭い人がいるわけで、「メルセデスっていってもCクラスじゃねぇ……」なんてのたまうアホも存在します。

でも、E250はベーシックグレードであってもミディアムクラスの「Eクラス」。そんな扱いを受ける心配もありません。けれど、何よりE250をオススメする理由は、バランスの良さ。

リーズナブルとすらいえる値段、軽やかな走り、想像以上の燃費のよさ、メルセデスらしい重厚感、過不足のない装備、充分な高級感……などなど。それらのバランスが最も優れているのが、このE250だと思うのです。一度手に入れたら10年乗り続ける気になれるのもメルセデス。そう考えれば、意外やリーズナブルに思えてきたりはしませんか?
マツダ・ロードスター
もしあなたがアラフィフで父親なのだとしたら、さすがにもう子供たちを満載して一緒にどこかに出掛ける、というシチュエーションはかなり少ないのでは?だったらいっそのこと、スポーツカーに乗りましょう。

ここまで家族のために頑張ってきたのです。これからも子供たちはどんどんオトナとして成長を続け、自分達の人生を歩いていくことになるのです。ここから先は、自分自身と奥さんのための楽しい人生を目指しましょう。

宇宙とダイレクトに向き合えるオープンエアが簡単に手に入れられるクルマで長年苦楽をともにしてきた奥さんとふたりで旅に出て、日本の美しい四季をたっぷりと堪能してください。ひとりで走るときには、ちょっとだけ熱くなって軽快な走りを堪能してください。スポーツカーに乗ってさっそうとでかける姿を見たら、子供たちも「オヤジ、こんなにカッコよかったっけ?」と見直してくれるはずです。たぶん。
クラシック・ミニ
もしあなたがアラフィフで、これからクルマ趣味に走りたい、戻りたいと考えているのなら、クラシック・ミニが一番のオススメだと思います。だって、一度は「乗ってみたい!」と感じたこと、あるでしょ?

しかもオヤジが乗ってても妙に決まるクルマ。メカニズムは古臭くて適度に手間もかかるけど、それも含めて楽しめるし、専門店もたくさんあるから、実は維持に困るケースはかなり少ないのです。

しかも乗り味は個性たっぷりで、走れば走るほどはまっていく可能性大。パーツや小物もたくさんあるから、知っていくごとに楽しみ方もどんどん広がります。豪華装備を満載してるわけじゃないけど、シンプルだからこそ「クルマの原点」っていうものを味わえるわけです。

ちなみに、クルマ趣味の本場であるヨーロッパでは、子供が親離れして、子供への責任を全うできた40代、50代になってから、つまりいいオヤジになってからクルマ趣味をスタートさせるヒトが圧倒多数です。

クルマ趣味というのは、本来はオトナのための趣味なのです。ミニはクルマ趣味人の中でも「釣りはフナにはじまってフナに終わる」じゃないけど、初心者もベテランも存分に楽しめる基本的なクルマとして評価されています。また永くジックリと楽しめるクルマとしても。

スポッとはまって、ヒトの寿命が早いかクルマの寿命が早いかといった頃まで、その楽しさを思い切り味わっていただきたいと思います。ちなみに生産中止となってから時間が経ち、相場も上がりつつある昨今。リーズナブルに手に入れるには今のうち、という状況であることはお伝えしておかねば。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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