大の大人のバイク選び

アヘッド バイク選び

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アジアでの需要や、世界的なライダーの高齢化によって、昨今、魅力的な小排気量車が増えてきた。皮肉にも思えるが選択肢が増えるという意味で幸せなことである。

text:山下 剛 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.178 2017年9月号]
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大の大人のバイク選び
多様化するバイクの価値観
BMW G310R
SUZUKI V-Strom250

大の大人のバイク選び

昔は大型免許を持っていなければバイクの選択肢は少なかった。大きいがエラい、速いがエラい、という時代はもう過去のものなのである。もっとフラットにバイク全体を見渡すチャンスが来たとも言えるだろう。排気量の大小、新車中古、そのどこにも大人の目に適う魅力的なバイクは存在している。

最近、発売されたばかりのBMW・G310Rとスズキ・Vストロームも気になるモデルだ。大の大人のバイク選びとはーこの2台をヒントに考えてみた。

多様化するバイクの価値観

平成28年の新規運転免許交付件数を見ると、普通免許の115万に対して、原付を含む二輪免許交付件数は14万件と、ほぼ10分の1しかない。クルマは生活必需品だがバイクは趣味のものだし、雨が降れば体が濡れ、夏は暑く冬は寒い。事故となれば怪我や死亡する危険性がクルマよりも圧倒的に高いことが主因だろう。

言い方を変えるとそれは「バイクの運転はクルマよりもむずかしい」ということだ。クルマは誰でも運転できるが、バイクは違う。やや乱暴な比喩でいえば、バイクを走らせるには、鉄棒の逆上がり程度の身体能力を必要とする。練習すれば多くの人が乗れるようになるが、乗ることを諦める人もそれなりに多い。

それが階層構造を生む。バイクは誰もが乗れるものではない。だからこそバイクを速く走らせられる者が偉い。上手に操れるほうが賢い。バイクに乗るからには速く走れるよう、上手に乗れるよう努力して然るべきだ。

車格が大きく重量のある大排気量車を操れるほうが偉いし、努力して運転技術を会得した者こそバイクを語り、乗る資格がある。それができないならバイクを語るな、乗るな。そのように優劣をつけ、差別する傾向を強める。
控えめにいってもこれは悪しき習慣だ。

だが、近頃はそれが薄まりつつある。150~400㏄の小排気量クラスの充実はその要因のひとつだ。「大の大人のバイク選び」をテーマに編集部が選んだスズキ・Vストローム250とBMW・G310Rは、なかでも象徴的モデルといえる。

まず、Vストローム250だ。本誌・若林編集長によると、このバイクは「カワイイ」のだという。また、聞いたところでは、スズキが主催した試乗会でも女性客から「カワイイ」と評価され、試乗希望が集まったという。

ディテールをいえば異なるものの、バイクならベスパやモンキー、クルマならDS3、フィアット500にも通ずるかわいさだという。これらに共通するのは、乗りやすさではなく〝親しみやすさ〟だ。

バイク業界には「初心者や女性向けというイメージがついたモデルは売れない」というジンクスめいた常識がある。つまり、悪しき習慣の下層に位置してしまうからだ。おそらくスズキも「カワイイバイク」としてVストローム250を作ったわけではないだろう。

上位モデルとなる1000と650の末弟という位置づけはたしかにかわいさに通ずるが、あくまでそれらのエクステリアイメージを踏襲したアドベンチャーツアラーとして作ったもので、女性に「カワイイ」と評価されるのは想定外のはずだ。
いっぽうでG310Rはどうか。BMWといえば自他共に認めるプレミアムブランドだ。そのBMWが59万9000円という破格の小排気量車を発売したことは、大きな転換点といえる。

KTM・390DUKEやドゥカティ・スクランブラーSIXTY2より安く、日本メーカーの同クラスより若干高額なだけで、十分に比較対象となり得るバーゲンプライスだからだ。「外車は高い」という常識を、プレミアムブランドと名乗るメーカーが自ら破壊したのだ。

これは既存のバイクユーザーよりも、バイクに興味がない人に対してより威力を発揮する。なぜならBMWの名前とブランド価値は誰もが知っているからだ。購入に際して家族を説得するにも、購入後のステータスとしても理解されやすい。
さらにいえば、インドで生産されるBMWなど所詮別物だという見方も、やはり悪しき習慣である。後方排気・後傾エンジンで前後輪荷重を適正化し、低価格な小排気量車ながらもBMWらしいバランスに優れる動力性能を、安かろう悪かろうと侮るのは軽率だろう。

とはいえ、この2台が象徴する価値観の転換は、日本のマーケットを意図したものではない。各メーカーが販売している小排気量モデルは、ASEAN諸国等で生産・販売することで利益を生むよう企画開発されたモデルだ。

グローバルな販売戦略において日本市場はその数%にすぎない。いずれの小排気量車も余剰が日本に輸入されているに等しいにもかかわらず、日本のバイク文化に根づいている悪しき習慣を改善させる力を持っている。
これまで、バイクという乗り物は走らせるだけで価値があった。バイクに乗ることが目的だったといっても過言ではない。しかし昨今の日本では、バイクはコミュニケーションツールに変わりつつある。

バイクに乗ることは手段にすぎず、友人を作ったり仲間との絆を深めたり、あるいは家族に人生の楽しさを伝えるための媒体になっている。この傾向は若年層に顕著だが、中高年も例外ではない。

コミュニケーションの幅を広げるため、そして悪しき習慣をなくして誰もがバイクを気軽に楽しめるよう、バイクの価値観はさらに多様化していくし、新たな付加価値も求められる。それが次世代へとバイクの愉悦を伝える架け橋となる。

こうしたバイクに注目して架け橋を増やすことが、酸いも甘いも噛み分けた大人の選択なのではないだろうか。

BMW G310R

車両本体価格:¥599,000(税込)
エンジン:4ストロークDOHC水冷単気筒
排気量:313cc
最高出力:25kW(34ps)/9,500rpm
最大トルク:28Nm(2.85kgm)/7,500pm
オプション・カラー:パール・ホワイト・メタリック+¥7,500(税込)
G310Rの見た目からは尖った攻撃的なイメージがなく、コンパクトな車体で威圧感を感じさせない。跨がってみても、両足はつま先しか届かないものの、乗れるかな? というイヤな緊張感はない。

310ccという排気量が効いているのか、BMWはもちろんのこと、輸入車で気軽さを感じさせたモデルはコレが初めてだ。走り始めは開け気味にしないとエンストしてしまうという、ちょっと懐かしいような、シングルエンジンならではの洗礼を受けつつも、繋がってしまえばスムーズそのもの。

高速道路でも物足りなさは感じないし、振動も気にならない。ワインディングでは操る楽しさはもちろんのこと、回転が低くても伸びやかに加速してくれるので、神経質にならずフラットに走れてしまうのが気持ちいい。

そしてなによりも“楽”。この“楽”さは体力のなくなってきた大人には、何よりの味方になる。310ccでもBMWというエンブレムが大人の自尊心を保つエレメンツになるのではないだろうか。

歳を重ねて無理はできないと感じつつも、いつまでもかっこつけていたい自分との理想と現実。このG310Rは、そんな気持ちの揺らぎを、程よく兼ね合いをつけてくれるモデルとなりそうだ。
最高出力199psを誇る、BMW謹製の超パワフルユニットがS1000RRの並列4気筒エンジンだが、その内の1気筒を取り出して鋼管パイプフレームに搭載したモデルがG310Rである。

いや、これは決して大げさな話でもこじつけでもなく、高回転&高出力化のために採用されたフィンガーフォロワータイプのバルブトレインやシリンダーのボア径など、その多くがS1000RRの設計とほぼ同一。それでも出力が34psと控えめなのは圧縮比に余裕を持たせているからで、実際走らせると「俺、まだ本気出してねぇし」とでも言いたげに粛々と回ってみせる。

そのため、S1000RRのエンジンは明確に高回転型ながらG310Rは3000回転も回っていれば十分なトルクを発揮するキャラに仕立てられ、走るステージを選ばず実用性に富む。それだけならよくできた万能バイクに過ぎないが、最も驚かされるのはコンパクトな車格の中にBMWらしいハンドリングまでもがギュッと詰まっていることだ。

低重心設計がもたらす高い接地感と安定性はBMW全車に共通する美点であり、それでいてコーナリングは軽やか。他のモデルとなにも共有しない完全新設計の車体とエンジンでそれを達成してしまったことにBMWの底知れない技術がうかがえる。

SUZUKI V-Strom250

車両本体価格:¥570,240(税込)
排気量:248cc
最高出力:18kW(24ps)/8,000rpm
最大トルク:22Nm(2.2kgm)/6,500rpm

いつかバイクで旅に出る。それは多くのライダーが抱く夢の一つだ。とは言っても本格的なアドベンチャーバイクはとても乗りこなせない。張り切っている感じがすると、ちょっと恥ずかしい。

オフロードウェアでなくても乗れて、奥さんや子どもとタンデムもできて、そんなに速く走らなくても良くて、車検もないなら最高。重要なのはアウトドアな雰囲気があって自由な感じがすること。Vストローム250はそんなライダーにぴったりの、とてもよくできたバイクなのだ。
近年のアドベンチャーのスタイリングを決定的な物にした、鳥のクチバシのようなフロントカウルの元祖である「DR-BIG」から続く、スズキの伝統的なスタイリングを継承させているという、小排気量なのに手抜き感のないデザインに好感度大。丸くて大きなヘッドライトとクチバシのコンビネーションは、なんだかちょっとかわいくも見える。

このVストロームは、車重もそれなりに軽く、シート高が800㎜と、アドベンチャーなのに他の250ccクラスのデュアルパーパスモデルに比べても低く設定されている。跨がった時の乗車ポジションも自由度が高く丁度いい。

走り出してみると、クラッチを繋いだだけでするすると動き出す、低中回転域のトルクの太さが心強く、高速走行時の安定性も高い。ワインディングでは、シフトチェンジにちょっと忙しくはあるものの、そこまでシビアではないので、多少ラフに扱っても対応してくれる懐の深さがある。疲れを感じにくいバイクだ。

最初はちょっとヨーロピアンな香りもするスタイリングに惹かれたのだが、乗り味にも物足りなさはなく、経験を重ねた大人なライダーだからこそ、あえて250ccに乗る、という楽しさが見いだせそうな期待感が膨らんだ。
どちらかと言えばスタイルは無骨な部類に属し、見た目のスタイリッシュさよりも乗ればそのよさがだんだん染み渡る玄人ウケするモデル。それがスズキ車のイメージであり、これまで所有したバイクもクルマもスズキ率が高かったのはそれが大きな理由だ。

だからこそ、このVストローム250も同じようなイメージで捉えていたのだが、なぜか女子ウケがすこぶるよく、実際この企画に参加した女性陣は色も見た目も「カワイイ」と言う。

試乗中、何度もそう聞かされたため、だんだんそう思えてしまったものの、そこはやはりスズキ。頼りになるタフギアとしての顔を随所で見せてくれた。まず大型スクリーンとナックルガード、絶妙なクッション性を持つシートがもたらす運転環境が素晴らしく、高速道路の巡航性は快適そのものだ。

その一方でサスペンションは適度に硬められ、高い直進安定性に貢献。250ccクラスの中にこれほど安心して身を委ねられるバイクは他にない。エンジンはいい意味で黒子に徹するタイプで、うっかり4速で発進させてしまった時もノッキングで抗議するでもなく、黙ってスルスルと車体を押し進めてくれた。男はそういういじらしさを「カワイイ」と思うのだ。

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。
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