SPECIAL ISSUE クルマの色気

乗っている時間と同じくらい、眺めている時間を楽しめたら、クルマやバイクと過ごす時間はもっと充実したものになる。一方、走ることによってより活き活きと魅力的に見えるクルマもある。人はどんなクルマのどんなところに色気を感じたり、惹かれたりするのだろう。

text:岡崎五朗、今尾直樹、伊丹孝裕、ピーター・ライオン photo:長谷川徹  [aheadアーカイブス vol.183 2018年2月号]

Chapter
ドイツ車の色気について
小さいクルマには色気がある
V4になったドゥカティの魅力
青い眼から見た日本車の色気

ドイツ車の色気について

アヘッド SPECIAL  ISSUE クルマの色気

「ドイツ車の色気について書いてください」

え?いまだかつて僕は色気でドイツ車を買ったことはない。ドイツ車の魅力は理路整然としたコンセプトとハードウェアの優秀性にあると考えてきた。

唯一の例外は911だが、その名前を出した瞬間、若林編集長は「ポルシェに色気があるのは当たり前なのでそれ以外のドイツ車でお願いします」とおっしゃる。「それって無茶振りでしょ」と言う僕の反論に対しても、「いえきっとあるはずです。ないならないでその理由を書いていただければいいので」

さて困った。イタリアの赤くて速いスポーツカーの色気についてならいくらでも書ける。しかし相手はドイツ車だ。常に物事を理路整然と考え、理屈に合わない要素は徹底的に排除し、エクステリアデザインからサスペンション形式、エンジン性能、スイッチ配置に至るすべての部分に合理的な回答を用意しているドイツ人。

ブランド力はもちろん、美しさという極めて感覚的な領域にまで彼らの理屈は徹底されている。

そんなドイツ人を、フランス人やイタリア人やイギリス人は往々にして野暮という。あいつらのつくるクルマは素晴らしい。だがセンスはないねと。

一般ユーザーがどう思っているかはわからないが、少なくとも自動車メーカーのエンジニアやデザイナーが、ドイツ車のインテリアを、ドイツのビジネスマンがよく着けている妙な柄のネクタイを持ち出して茶化すのを何度も耳にしている。

ただし、そのあたりのニュアンスには微笑ましいものがあって、日中韓の関係と違い、いがみ合っているというよりは、お互いがお互いのことをリスペクトしあった上での毒舌という感覚なのだが。

アヘッド SPECIAL  ISSUE クルマの色気

●BMW 430i Coupé M Sport
車両本体価格:¥ 7,390,000(税込)
総排気量:1,998cc
エンジン:直列4気筒DOHC
最高出力:185kW(252ps)/5,200rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,450-4,800rpm
駆動方式:後輪駆動

話を元に戻そう。性能だけでなくエンターテインメント性にまで理詰めのアプローチをするドイツ車に果たして色気はあるのか。そこを読み解いていくためには、「色気」とはいったい何なのかをはっきりさせておく必要がある。

辞書を引いてみた。「人をひきつける性的魅力。愛嬌。愛想。」性的魅力でいくと、やはりドイツ車は分が悪い。クルマを擬人化したうえで、そこに情感に訴えかける何かがあるかという論点で重要になってくるのは、生物学的な要素だ。

男性だったら筋骨隆々とした肉体。女性だったら腰のくびれや豊かな胸。それが異性に対するアピール=色気になるわけだが、ドイツメーカーはクルマにそんな要素を持ち込むのをよしとしない。

生物学的にどうかではなく、機械工学的にどうかが彼らの絶対的な判断基準だからだ。

たとえば同じようにフェンダーを膨らませるにしても、アルファロメオのそれがセクシーさを与えるための形状だとすれば、BMWのそれは太いタイヤを収めたうえで空力性能を悪化させない形状を追求する。

無論、ゼロヒャクではなく程度の問題だが、そんな違いがあるように思えるのだ。愛嬌とか愛想にしても、VWポロとシトロエンC3を見れば一目瞭然である。

ではなぜドイツ車が世界を席巻しているのか。もちろん、多くの人がクルマに色気など期待していないという現実もあるだろう。しかしそれだけではないはずだ。

機能美という言葉がある。本来その商品がもつべき性能を追求した結果生まれた美しさのことだ。置物として愛でるための美しさではなく、使い込むにつれ愛着が深まっていく類いの美しさ。

速いレーシングカーが美しい理由もここにあるわけだが、ドイツ車の美しさも同様だ。それが「色気」であるかどうかの判断は読者に任せるが、多くの人がドイツ車に惹かれる理由の説明には十分になり得るだろう。

逆説的にいえば、近頃増えてきた色気じみたドイツ車に対して、僕はやや疑問をもっているのである。

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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