ホットハッチの火は消さない

アヘッド ホットハッチの火は消さない

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SUVが全盛の今、ホットハッチの存在感はやや薄れてしまっている。執筆陣の1人、今尾直樹氏は言う。「ホットハッチはプアマンズ・スポーツカーなのですよ」と。なるほど、そうなのだ。基本として実用性とスポーティブネスを兼ね備えているのがホットハッチ。お金があるなら2ドアのバリバリのスポーツカーを買えばいい。ホットハッチは私たち"普通の人"にとってなくてはならない愛すべきクルマなのだ。

text:今尾直樹、橋本洋平、桂 伸一、世良耕太 photo:長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.180 2017年11月号]
Chapter
ホットハッチの火は消さない
ホットハッチとは?
ボーイズレーサーよ、永遠に
ホットハッチ・スピリッツを継承し続けるスイスポ
ホットハッチの国の最高峰

ホットハッチの火は消さない

ホットハッチとは?

■VWゴルフGTI

VW・Golf GTI(Ⅶ型)
「ホットハッチ」という概念は、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI以降にイギリスで生まれた。

そもそも1974年に登場した初代ゴルフ以前、ゴルフみたいに比較的背が高くて、エンジン横置きの前輪駆動で、リアにハッチゲートをもつ小型車は、地球上に存在しなかった。

なるほど、オリジナル・ミニはエンジン横置き前輪駆動という革新的なレイアウトで小型車に革命をもたらしたけれど、アレック・イシゴニスがレストランの紙ナプキンに描いたスケッチ画にリアゲートはなかった。ミニ・クーパーはつまり、速い小型車であるに過ぎなかった。
Renault・16
初代ゴルフのスタイリングを手がけたジョルジェット・ジウジアーロは、ルノー16を参考にした。ただし、ルノー4を源流とする、このフランスの4ドア+リアゲートのハッチバックは、徹底的に実用な戦後フランスの典型的中型車だった(ようするにカッコ悪かった)。そこがいいんだけど。

前輪駆動ではあったけれど、エンジンは縦置きで、全長4メートルをゆうに超えていた。エンジンは非力で、のちにパワーアップ版も出たけれど、高性能とまでは言えなかった。
Honda・CIVIC RS
ゴルフGTI以前、ハッチバックをもつスポーティな小型車がなかったわけではない。たとえば、われらがホンダ・シビックRSは'74年の登場で、'76年に発表されたゴルフGTIに先んじていた。

このほか、アウトビアンキA112やシムカ1100Ti、ルノー5アルピーヌといったFWD小型車の高性能版もあるにはあったが、イギリスでゴルフGTIのようには売れなかった。

ゴルフGTIがそれ以外の小型車と大きく違っていたのは、「クラスレス」だったことだろう。お金持ちも、まぁホンモノのビンボー人はともかく、自動車を買えるほどの一定程度の所得のある人であれば、大学教授でもサラリーマンでも起業家でも、職業にかかわらず、老いも若きも、だれが乗っていても、「いいね!」と思われたのがゴルフGTIだった。

1.6リッターのインジェクション・エンジンは最高出力110psで、最高速度182㎞/hを誇り、フォルクスワーゲンの表現を借りると、「小型車のスポーティさと、高級車の贅沢、ふたつの世界を」持っていた。

■マンタ・ファーラー

VW・Golf GTI(初代)
ちなみに、筆者が初代ゴルフGTIに初めて乗ったのは、このクルマの現役時代のことではなくて、ずっと後年の2004年、ゴルフⅤのGTIの国際試乗会でだった。

ゴルフⅣのGTIは本来のGTIと呼ぶ性能を持っていなかったため、Ⅴ型のそれは「復活」と表現された。でもって、初代GTIが撮影・試乗用として用意されていた。

南仏マルセイユの近くの山道をドライブしながら、なんせ当時ですでに四半世紀近く前のオールド・カーだったけれど、なるほど、こういうものだったのか、と合点がいった。

それはフォルクスワーゲンを磨き上げたアウディのような上質な小型車だったのだ。

余談ながら、筆者は1991年にミュンヘンで開かれたゴルフⅢのプレス発表会で、当時流行っていたドイツのジョークを初めて聞いた(と記憶する)。

「マンタ・ファーラー」、つまり〝オペル・マンタに乗る人〟の小噺である。

マンタ・ファーラーはプロゴルファーのジャンボ尾崎とかプロレスラーの天山広吉みたいに短髪だけど後ろだけ長くしている髪型で、ようするにドイツのヤンキーなんですね。

ある日、マンタ・ファーラーが信号待ちしていると、横断歩道をペンギンが渡っていた。隣のレーンに並んでいたゴルフGTIのドライバーが窓を開けて、「迷子ですね。

かわいそうだから動物園に連れて行ってあげてください。私はいまから用事があって行けないので」とマンタ・ファーラーに頼んだ。「わかった!」と言って彼はペンギンを乗せて走り去った。

翌日、同じ信号で、たまたまくだんのゴルフGTIとマンタが赤信号で並んで止まった。ゴルフ・ファーラーがふと見ると、マンタの助手席にペンギンが乗っている。

あれ? 動物園に連れて行かなかったのか、と尋ねると、マンタ・ファーラーが答えた。「動物園は昨日行ったから、今日は遊園地に連れて行くんだ」

後輪駆動+クーペのマンタに対して、前輪駆動+ハッチバックのゴルフGTIは知性の代表とされた、ということをお伝えしたかった。
VW・Golf R

■プジョー205GTI

Peugeot・205 GTI
「ホットハッチ」ということばが日本で広まったのは、筆者の記憶によると80年代後半のことで、筆者個人の印象でしかないかもしれないけれど、プジョー205GTIを指していたように思う。

クールなゴルフGTIに対して、1983年に欧州で発表され、日本には'86年にやってきた205GTIはそれこそホットなハッチバックだった。アクセル・レスポンスがビンビンで、スーパーボールが弾けるようにカッ飛んだ。

ウィキペディアによると、「Hot hatch」なることばは、「Hothatchback」を縮めたもので、1980年代にイギリスで広まったとされる。初期の使用例は、なんと、クリックして初めて知ったのだけれど、1984年にプジョー205GTIをテストした英誌「Motor」の記事だった。

もしいま、「ホットハッチ」なるものの火が消えそうに思えるのだとすれば、このことばが指していた対象であるところのプジョー205GTI(の後継モデル)の不在がポッカリ大きな空洞をつくっているからではあるまいか。

冷静になってみよう。ゴルフⅦ型のGTIに加えて、いまやRがあり、国内では限定だけど、ニュルブルクリンク最速FWDのホンダ・シビック・タイプRがあり、ルノー・メガーヌR.S.がある。
Honda・CIVIC TYPE R
MINI・cooperS “John Cooper Works Package”

プジョー205GTIはないけれど、その後継である208GTi、さらに208GTi by プジョー・スポールなる「ピュアスポーツ」すらある。

ちょっと下のクラスには正統派のスズキ・スイフト・スポーツ、変わりダネでは日産ノートeパワーNISMOとか、あるいはハッチを持つにいたったミニ・クーパーSのJCWなんてのがあり、後輪駆動で直6、340psのBMW M140iがあるかと思えば、メルセデスAMG A45 4MATICやアウディRS3、400ps(!)なんてのもある。ハッチバックは百花繚乱、80年代よりも咲き乱れている。

だけど、なんか違うんだよなぁ……。

80年代にあって、2017年のいま、ないもの。プジョー205GTIと、「自由・平等・博愛」。「ホットハッチ」ということばには、それが込められていたように思うのは私だけでしょうか。

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text:今尾直樹/Naoki Imao
1960年生まれ。雑誌『NAVI』『ENGINE』を経て、現在はフリーランスのエディター、自動車ジャーナリストとして活動。現在の愛車は60万円で購入した2002年式ルーテシアR.S.。

ボーイズレーサーよ、永遠に

昔はボーイズレーサーなんて呼ばれていた、いわゆるホットハッチは、実用性のあるコンパクト2ボックスボディに強烈なエンジンをブチ込んで荒々しいまでの走りを展開した。それらは走りを愛する若者にとって強力な味方だった。

その最たる理由は何といっても価格がこなれていたことだろう。数多く販売する実用車をベースとすることで専用設計品はエンジン以外にそれほど必要がなく、おかげでコストはそれほどかからない。

だからこそ若者でも手が届きやすい環境が整うことになる。すなわち、ホットハッチの第一の定義は安いこと。これをハズしているようではダメだ。

そしてホットハッチに必要なことは速さだろう。その気になればひとクラス上のスポーツカーだって追い回すことが可能であること、これぞ重要なファクターだ。昔話をすればスターレットターボがレビン・トレノを、シビックがシルビアや180SXを抜き去ったように、カッコは実用車でもソノ気になればスポーツカーをカモれてしまうという事実は爽快感極まりない。

これは一寸法師と同様。弱者に見えても軽さを活かした身のこなしや、小排気量でも大パワーを振り絞る知恵がホットハッチを支えている。

おかげで乗り味もキビキビとした応答があり、かなり気持ちいい。そもそもコンパクトクラスのボディを有していることから、クルマの動きに無駄がなく、贅肉を削ぎ落としたアスリートのような出で立ちをしている。

実用性を考えて前後オーバーハングは短く、さらにはコンパクトカーらしくホイールベースも短く収まる。そうなればタイトターンでの回頭性は抜群によく、くるりとクルマの向きを変えて鼻先はコーナーの脱出方向へ。

そこでアクセルを全開にすれば、怒涛の加速が襲ってくるという流れだ。

近年はホットハッチとは違った価値観を提供しようとコンパクトクラスにもSUVの波が押し寄せ、それはそれでかなりヒットしているし、ホットハッチばりに走れてしまうものもある。

だが、言ってみればそれらの走りは化学調味料で仕立てられた世界。重心の高さを、グリップの良いタイヤと硬めの足回り、そしていざとなればロールオーバーさせない電子制御で補ってこそ成り立つ世界だといっていい。

ホットハッチはその真逆にあり、重心の低さと軽さを武器にして走る。だからこそオーガニック素材のごとく、自然でキビキビとした応答があり、結果として気持ちの良い走りにつながるのだ。
爽快な理由はそれだけじゃない。手の内に納めやすいということもホットハッチの定義のひとつのように思える。

その昔、マーチとスカイラインGT-Rの2台をタイトなワインディングコースに連れ出し、「一体どちらが気持ち良いのか?」という企画をやったことがある。

共にアクセル開度を示す機材を搭載し、アクセルが100%踏めた時間を比べてみたのだ。すると、マーチはGT-Rの3倍以上もの時間アクセルを踏み続けており、結果としてタイムはほとんど変わらないということがわかった。

使えない大排気量よりも、使い切れるホットハッチって面白いよね、という結論である。

ただし、手の内に納めやすいとはいえ、ナーバスな操縦特性があったことも事実。テールの軽さやトレッドの狭さは、限界域で突如としてグリップを失う危うさがあったし、大パワーの振り絞り方を間違えると、突然アンダーステアに見舞われることも少なくなかった。ジャジャ馬をどう乗りこなすか? そこがホットハッチ乗りのウデの見せ所だった。

だが、近年はその状況もかなり変わったと痛感した。そう思わせてくれたのがこの前登場したスズキのスイフトスポーツである。3ナンバー化や200キロオーバーの世界を視野に入れる走りはこれまでとは一味違う。

重量は1トン以下でどう安定させるかに苦労したらしいが、乗ればたしかに安定感も質感もなかなか。けれどもキビキビさも失っておらず、乗りこなしにそれほど気を遣う感覚がない。

それでいて車両価格は200万円以下!ホットハッチも現代流に改まったのだと感心せずにはいられない。

それに追従するかのように、間もなくルノーのメガーヌもR.S.を投入する。前モデルでも一級品のスポーツカーのように速く、そして懐の深いシャシーを有していただけに、きっと今度もそんな世界を守り抜いてくれると期待している。

車両価格はスイフトのようにはいかないが、同じ速さのスーパースポーツを手にすることを考えたらリーズナブルだろう。

このようにホットハッチの火はまだまだ消えることはない。走りは愛しているが、お財布に厳しい若者&パパの皆様、まだまだ、というかいつまでも、ボーイズレーサーでいられそうですよ!

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text:橋本洋平/Yohei Hashimoto
自動車雑誌の編集部在籍中にヴィッツ、フォーミュラK、ロドスターパーティレースなど様々なレースを経験。独立後は、レースにも参戦する“走り系モータージャーナリスト”として活躍している。走り系のクルマはもちろん、エコカーからチューニングカー、タイヤまで執筆範囲は幅広い。「GAZOO Racing 86/BRZ Race」には、84回払いのローンで購入したトヨタ86 Racingで参戦中。

ホットハッチ・スピリッツを継承し続けるスイスポ

●スズキ・スイフトスポーツ
車両本体価格:¥1,836,000(6MT、税込)
       ¥1,906,200(6AT、税込)
排気量:1,371cc
最高出力:103kW(140ps)/5,500rpm
最大トルク:230Nm(23.4kgm)/2,500~3,500rpm
*写真のセーフティパッケージ・全方位
モニター用カメラパッケージ装着車は¥144,720(税込)プラスとなります。

今も昔も、手頃なサイズと価格で走りも満足できるクルマと言えば「ホットハッチ」である。筆者が若かりし1980年代、ホットハッチは全盛だった。

それこそ国産各社に1台は強烈なモデルが用意されていた。それが衰退の一途を辿るのはユーザーのクルマに求める価値感が変化したからだ。ワゴンにミニバン、SUVしかり…。

クルマを移動のアシと考えるなら何も〝ホット〟の必要はない。ただの「ハッチバック」で十分。しかしクルマに刺激を求めるムキにはやはり〝ホット〟が必要なのだ。

そのホットハッチが復活の兆し。いや、今日のスイフトだけは従来から孤軍奮闘していた感がある。ホンダはシビック・タイプRで、トヨタはGRMNヴィッツと、どちらも欧州から逆輸入モデルが盛り上げるが、コスト高はマイナス要因だ。
スイフトのホットハッチ、スイフトスポーツは、やはり欧州の影響を色濃く受けている。ボディサイズを専用のワイドボディとしたことも驚きだ。と言ってもコレ、欧州仕様のスイフトがベースである。

スポーツ専用に各部を強化して剛性を高めながらの軽量化はスズキのスゴ技。エンジンは1.4ℓターボ。「ダウンサイジング」という言葉が流行ったものの、小さな排気量でも従来以上にパワフルでパフォーマンスに優れていると感じさせるのは欧州のエンジンだけ。

国産のはその排気量なりの線の細い印象しかなかった。

しかしスイフトスポーツのターボエンジンは違う。前モデルの、高回転まで引っ張りが効かないことを嘆くマニアは多い。が、6000rpm手前で頭打ちになっても小気味良く、鋭いダッシュ力は前モデルを上回るのだ。

6MTが用意されたことをおおいに喜ぶべきだが、個人的には6ATがエンジン特性とマッチしている。あっという間に回転リミッターを連打して失速するMTよりも、自動シフトアップで加速がスムーズに続くATのほうが走りのリズムとして正しい。
サスペンションはリアにトーションビームと呼ぶ一本の棒の両端に後輪が固定され、ソレ自体がバネとアブソーバーで上下動する仕組み。FF2ボックスカーの世界〝基準〟であるVWゴルフも、過去にはこのサスで路面を捉え、片輪を浮かせながら踏ん張り安定した。

同じサスのスイスポだが、過去の日本車でここまで優れたビームサスは初! と言える程の完成度の高さに唸る。

後輪をしっかり接地、安定させながら前輪の向きのとおり正確に曲げる。ベースのスイフトが欧州で多くのライバルに揉まれ成熟したことがハンドリングカーとしてのスイスポに受け継がれている。

〝これぞホットハッチ〟の特性が詰め込まれた1台、200万円を切る価格で提供するスズキに惚れた。

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text:桂 伸一/Shinichi Katsura
1959年生まれ。自動車雑誌「OPTION」を経てフリーランス・モータージャーナリストに。クルマの印象を判りやすく各媒体に寄稿すると同時に、幼少の頃より憧れたレーシングドライバーとしても活躍。アストンマーティンとは2008年から5回ニュル24時間にワークスドライバーとして参戦。2度の優勝を飾る。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。WCAワールドカーアワード選考委員。

ホットハッチの国の最高峰

●ルノー・メガーヌR.S.
エンジン:ターボチャージャー付筒内
直接噴射 直列4気筒DOHC16バルブ
価格:未定 
排気量:1,798cc
最高出力:205kW(280ps)/6,000rpm
最大トルク:390Nm/2,400~5,000rpm
*欧州仕様の数値となります。
日本発売時の諸元・仕様は変更となる場合があります。

4代目ルノー・メガーヌ、いわゆる「メガーヌ4」がデビューしたのは2015年のフランクフルトモーターショーで、欧州では'16年からショールームに並んだ。

その姿にひと目惚れした筆者は、同年5月のF1スペインGPで、チーム関係者専用駐車場を徘徊した。お目当てはメガーヌGTで、予想にたがわず、ドライバーが通勤に使っていると思しきブルーアイロンのGTと対面。実物もイケルことを確認した。

そのメガーヌGTの国内販売が'17年11月9日から始まった。9月のフランクフルトモーターショーでは、R.S.が発表されたばかりだ。R.S.はサーキット走行に軸足を置いて開発されたモデルで、味つけで言えば激辛。

GTはドライビングプレジャーを追求すると同時に乗り心地の良さを合わせ持ったキャラクターで、中辛といったところか。

モータースポーツ活動を行うルノー・スポールが開発に携わっている点でR.S.とGTは共通している。スポーツ性と快適性をバランス良く両立させなければならない点で、GTの方がチューニングのさじ加減は難しいかもしれない。
メガーヌ R.S
メガーヌ GT
ダンパーやスプリング、ブレーキやESC(横滑り防止装置)などのセッティングはルノー・スポールの手による。「4コントロールシステム」と呼ぶ4輪操舵システム(ステアリング操作に連動して後輪も操舵する)を搭載している点も、R.S.とGTの共通項だ。セッティングはやはり、スポーティな走りを知り尽くしたルノー・スポールが行う。

4コントロールは車速やステアリング舵角などの情報をもとに1秒間に100回の演算を行い、後輪の舵角を決定する。60‌㎞/h以下の低速走行時(スポーツモード選択時は80‌㎞/h未満)は後輪を前輪とは逆の方向に向け(最大2.7度)、旋回半径を小さくする。クルマの動きが俊敏に感じられるはずだ。

一方、60‌㎞/h以上(スポーツモード時は80‌㎞/h以上)の高速域では後輪は前輪と同じ向きに動く。旋回姿勢へ移行するラグが短縮されるのに加え、ヨーやロールといった重心軸まわりに発生する動きの量とスピードが抑えられるのがメリット。真価を発揮するのは切り返しのあるコーナーで、狙ったラインを安定した姿勢で駆け抜けるはずである。

4輪操舵は80年代に実用化された技術で、多くのモデルが採用した。だが、後輪操舵ユニットの追加は重量増になるし、制御によっては違和感につながることもあって近年は下火だった。

それをあえて復活させたからには、相当な自信があるはずである。乗り手をどれだけホットな気分にさせてくれるのか。ルノー・スポールのお手並み拝見といきたい。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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