岡崎五朗のクルマでいきたい VOL.93 キーワードは“余白”

もう半年以上経ったからここで紹介してもいいだろう。昨年の夏、ある雑誌の取材でカーデザイナーの和田 智さんと対談をした。日産自動車を経てアウディに移籍し、先代A5をはじめとする数々の名車を世に送り出した。現在は独立しフリーのカーデザイナーとして活躍している。

text:岡崎五朗 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]

Chapter
VOL.93 キーワードは“余白”
ポルシェ カレラ911GTS
ボルボ S/V90
スズキ ワゴンR
トヨタ プリウスPHV

VOL.93 キーワードは“余白”

アヘッド 岡崎五朗のクルマでいきたい ロゴ

和田さんに会ったら、絶対に聞きたいと思っていたことがあった。それは「いまの日本車、とくにトヨタ車のデザイン、どう思いますか」ということだ。プリウスやシエンタなど、突飛とも言うべき攻撃的なデザイン構成を仕掛けてきているトヨタ。でも僕の目にはどうしても魅力的に見えない。ならばプロはどう見ているのか?

フリーのデザイナーという立場上、個別のモデルに対する感想を言うのは避けたいのですが…と前置きしつつ、いろいろなことを話してくれた。詳細は伏せるが、和田さんの言葉のなかでもっとも印象に残ったのは「余白」というキーワードだった。美しいデザインに必要なのは余白であると。

これを聞いて、僕のなかにあったモヤモヤがスッと晴れ、最近のトヨタデザインに対する違和感の原因がストンと腑に落ちた。雑誌に例えるとわかりやすいだろう。ゴシップ記事を売りにしている週刊誌の誌面はたくさんの小さな写真や文字やタイトルでびっしりと埋め尽くされている。

それに対し、高級ファッション誌は一枚の写真を大きく使い、余白も多い。写真集や画集に至っては、上質な紙に贅沢なまでに余白を使って写真や絵をより美しく見せようとしている。

クルマのデザインも同じことなのだ。線を引いたり曲げたり膨らませたり凹ませたり、デザイン要素が多くなればなるほど、派手にはなるが、本来の美しさはスポイルされる。逆説的に言えば、プロポーションが美しくないと、それをカバーするためにたくさんのデザイン要素を与えざるを得なくなるということだ。

美しいカーデザインのキモはプロポーションにあり、線や面の凹凸はそれを引き立たせる、あるいはカバーするものに過ぎない。そんな視点でクルマを眺めると、いままで気付かなかった新たな発見があるに違いない。

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