期待を裏切らないポルシェ911の完成度

ターボとカレラ、その住み分けをどーする?

ポルシェ 911 ターボ

“50km/hで走っても911は911”という、その昔、大先輩が某誌に書いた有名なフレーズがあります。

ポルシェ911には911にしか持ち得ない独特のテイストがあって、その“らしさ”を全身で享受できることが911乗りにとっての最高の幸福──という真実。それはいつの時代の911も変わらなかったし、これからも変わって欲しくない。それは僕も含めた911ファンにとっての共通の願いでした。

だから2015年秋に991型の911にマイナーチェンジが行われ、フラット6エンジンが自然吸気から全車ターボ付きになることが発表されたとき、多くのファンは目をむきました。それじゃ“911”じゃなくて“911ターボ”じゃないか──と。

説明を添えておくと、ポルシェ911シリーズにはいわゆる“ポルシェ・ターボ”の流れを汲む超高性能ヴァージョンの911ターボがあります。けれど、1964年の初代911がデビューしてから50年以上、基本的なモデルは自然吸気のフラット6を搭載し続けてきました。

その驚くほどシャープな回転レスポンスと情感たっぷりの鳴くようなサウンドが、“らしさ”のもっとも大きな部分であったと記しても過言ではないでしょう。

得られるスピードや加速の強力さでは速さがドーン!と炸裂する911ターボに譲るものの、エンジンのフィールのよさではターボのネガに邪魔されない自然吸気の911の方が断然優ってる、と主張するファンが大多数でした。

911と911ターボは、よく似ているけれどテイストそのものは別モノなのです。

ところが、さすがに自然吸気のままではさらなる高性能化と環境性能をバランスさせるのが難しくなってきます。そのため自然吸気であることを諦め、ポルシェは排気量を小さくしてターボでパワーとトルクを補いながら環境性能を向上させるダウンサイジング・テクノロジーの路線をチョイスしたのです。

つまり、名前に“ターボ”とつかない911カレラ系にもターボエンジンが搭載されたわけで、多くのファンはプチ911ターボのような性格になってないか、あるいはダウンサイジングテクノロジーありきのエンジンの多くがそうであったように、回す楽しみに欠ける冴えないものになってないか、強く不安視したのです。

カレラのエンジンは、自然吸気的な味付け

ポルシェ911 ターボ

しかし、なんのなんの。心配無用でした。

リアに搭載される3.0Lのフラット6ツインターボには3種類のチューニングがあり、272kW(370ps)/6,500rpmと450Nm(45.9kgm)/1,700-5,000rpmの仕様が911カレラ用、309kW(420ps)/6,500rpmと500Nm(51.0kgm)/1,700-5,000rpmの仕様が911カレラS用、331kW(450ps)/6,500rpmと550Nm(56.1kgm)/2,150-5,000rpmの仕様が911カレラGTS用となる。

カレラGTSには未試乗ですが、少なくともカレラとカレラSに関していえば、ファンたちの心配は取り苦労でした。

パワーが小さいほうのカレラでは、小さいとはいえエンジン出力は272kW(370ps)と450Nmもあって先代991型カレラと較べて20ps(257kW/350ps)と60Nm(390Nm)アップ。想していた以上に、速さを増していました。

わずか1,700rpmから最大トルクを得られるおかげでスタートダッシュからして力強さが違うし、そこから先の伸びも違う。ギアを1段ずつ上げていくたびにメキメキとスピードに乗る。294kW(400ps)に440Nm(44.9kgm)だった先代カレラSを思わせる勢いで、鋭くスピードを上げていく。回転を上げるにつれて加速度的に力を解き放っていくかのようなフィールが文句なしに気持ちいい。

カレラSもまったく同様で、なにひとつガッカリさせられるようなことはありません。

吹け上がりのシャープさやトルクの出方など、性格はカレラのそれに似ているのですが、パワーの出方もトルクの強さも当然ながら一段階上。自然で直線的なフィールも、レヴリミット付近まで頭打ちを感じさせずに綺麗に回りきるところも素晴らしいポイントです。

どちらも低速域から豊かなトルクをフラットに発生し続けるあたりに、昨今のターボエンジンらしい美点を感じるのですが、それ以外はスロットルを踏み込んだ直後のレスポンスの遅れがほとんど感じられないことまで含め、ターボであることを意識させられることがありません。

吹け上がっていくときのシャープな感触も、パワーの盛り上がり方も、メリハリ感も、まるで自然吸気のフラット6のよう。サウンドもごくわずかに角が丸まった感はあるけれど、どの回転域でも間違いなくあの“911サウンド”。つまり、ターボのネガは感じられず、あらゆるところがこれまでと同じようにエモーショナルで、あらゆるところが“911は911”だったのです。

ターボを熟知したポルシェだからこそ達成された911の高性能

ポルシェ 911 ターボ

考えてみたら、ポルシェは厄介なところのあるリアエンジンの物理特性のネガを綺麗に潰したどころか、加速性能にはもちろん、コーナリングの速さや楽しさにまで積極的に活かしてきた熟成力を持つメーカー。

そのポルシェは市販車で40年以上、レーシングカーの開発段階から数えたら軽く45年以上にもわたって、ターボをやってきているわけで、ターボを飼い慣らしていても、なんの不思議もないのです。

いうまでもなくマイナーチェンジでは、パフォーマンスと環境性能の両方を高めたこと以外にも、たとえばサスペンションにも手が入って街中や高速道路をゆったりと走るときには、さらにフラットな乗り味を示して快適性が高まっているし、さらにはステアリングギア比が変わりブレーキにも手が入ったことで、コーナーでは911特有のシャープな回頭性にさらに磨きがかかり、リアホイールがワイドになったことでさらに踏ん張りが効くようになったなど、エンジン以外の進化の度合いには大きなものがありました。

けれど、911が911のテイストをキープしたまま発展したということが、やはりなによりも素晴らしい。“ポルシェ911”というのは、もはや伝統芸や文化のようなもの。そこに流れている精神性が尊重されていたことが、なによりも喜ばしいこと。“最良の911は最新の911”という昔ながらの伝統的なフレーズも、やはりまた真実なのです。

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