埋もれちゃいけない名車たち vol.34 “ランチア”が独自性を保てた時代「ランチア・テーマ8.32」

アヘッド ランチア・テーマ8.32

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今やFCAという自動車ブランドの巨大な集合体に属し、多くのモデルが同じグループのクライスラーから供給されるクルマのバッジ・エンジニアリングでラインアップが展開されているランチア。そうなる以前は死に体といわれても仕方ないような状態だったから、現在も1906年から続く伝統的な名前が生きてることを喜ぶべきなのだろうが、古くからのファンにとってはひどく複雑な心境を強いられる状況でもある。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.150 2015年5月号]
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vol.34 “ランチア”が独自性を保てた時代「ランチア・テーマ8.32」

vol.34 “ランチア”が独自性を保てた時代「ランチア・テーマ8.32」

何せランチア、元は高性能車と高級車を作るメーカーとして世界的に認知された存在であり、モータースポーツではF1にもル・マンを初めとするスポーツカーレースにも参戦し、世界ラリー選手権では向かうところ敵なしの状態を何度も作り上げた強豪。

1969年にフィアットの傘下に入って以来、同グループ内のプラットフォームやエンジンを巧みに流用したモデル開発を行ってきたが、それでも独自性は保ってきた。さすがにバッジ以外はクライスラーそのものっていうのはないんじゃない? だ。このままだとブランドそのものが歴史に埋もれてしまいそうだ。

ランチアが独自性を保っていられた時代には、もう少し奔放なクルマ作りがなされていた。ラリーで6年続けてメイクスタイトルを獲得したデルタ・インテグラーレはその筆頭だけど、こういう希有なクルマがあったことも忘れちゃいけない。ランチア・テーマ8.32である。

テーマは1984年にデビューした前輪駆動の高級サルーン(ワゴンも存在した)だったが、8.32は、そのボンネットの下にフェラーリ308用の3リッターV8DOHCC32バルブユニットを詰め込んだ究極のテーマ。

最高出力は240psから215psへとドロップしていたが、それはサルーンとしての使い方を念頭にトルク特性の調整などを図ったためであり、逆に最大トルクは26.5㎏mから29.0㎏mへと向上、同時に低回転域から高回転域まで満遍なくチカラを得られる性格を手に入れた。

それに伴って当然ながらシャシー周りの強化も行われたが、8.32は単なる高性能版としての位置づけではなくフラッグシップ中のフラッグシップとしての役割も担っており、インテリアには高級家具に使われるような本革やウォルナットがふんだんにあしらわれるなど、凄まじくゴージャスな仕立てがなされていた。

見た目は控え目な4ドアサルーン。走れば常に心躍る官能的な快音とスピードの世界。テーマ8.32はクルマと常に情を交わしていたい大人の男の、最高のアイテムだったのだ。

FCAはここ数年来、抱えているブランドの再構築に力を注いでる。いや、ここまででなくてもいいから、どうかランチアらしいランチアを再び復活させてもらえないものか─。心からそう願ってやまない。

ランチア・テーマ8.32

8.32は1986年にランチア・テーマのラインアップに加わった、超高性能&超豪華仕様のフラッグシップ。フェラーリ308クアトロバルボーレのV8ユニットを搭載し、最高速240km/h、0-100km/h加速6.8秒というサルーンらしからぬ強力なパフォーマンスを発揮した。

室内はフェラーリすら凌ぐ豪華絢爛な仕立てとされ、電動で収納可能なリアウイングを備えるなど通常のテーマと異なるところは多々あったが、それでも街中を走る姿は穏やかでクリーンな印象のテーマそのもの、という完全な“羊の革をかぶった狼”であった。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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