欧州ではMTが当たり前、なぜ日本ではATが主流になってしまったのか?

シフトノブ

「イージードライブ」アメリカで生まれ育ったAT

ATの歴史を遡ればアメリカで開発が進み、1940年代には実用化されて以後急速に普及した、という事実はすぐわかります。

ガソリンが安く、大排気量車をゆったりドライブするのがメインのアメリカでは初期のATでトルクコンバーター(トルコン)のスリップによる駆動ロスと燃費悪化はそれほど問題とならず、それより簡単操作でスムーズに走る「イージードライブ」が国民性にはピッタリとハマったのです。

しかし、それだけであれば、単にアメリカではATが主流で、それを搭載したクルマが発展しました、というだけの話に過ぎません。現実には、アメリカで売られるクルマと言えば日本車やドイツ車など多種多様ですから、それらの国でもアメリカでクルマを売るにはATを設定しなければいけません。

結果、ボルグワーナーなどアメリカの変速機メーカーからライセンスを購入したり、変速機そのものの開発を依頼したり、あるいは特許をかいくぐって自社開発したりと、相次いでAT車を投入しました。

日本車で言えば1958年には岡村製作所がミカサ•ツーリングに、1960年にはトヨタがトヨグライドをクラウンに搭載し、同時期にドイツでもメルセデス•ベンツなどが独力でATを開発するなど、1960年代には既に、ATはアメリカの専売特許どころか、どこのメーカーでもアメリカ市場に参入する限りATを大量生産するようになっていたのです。

しかし、その後欧州ではATは普及せず、日本ではATが急速に普及しました。この差はどこにあるのでしょう?

クルマは応接間じゃない!移動手段なんだ!という欧州

現在でも欧州のMT車比率は8割から9割と言われています。その理由としては3つあり、その1つが「燃費が悪く、価格も高いAT車を何で好き好んで買うのか?」という理由です。

割と最近までAT車が燃費で劣り、価格もMT車より高かったのは常識でしたから、この主張はある意味当然とも言えます。しかし、それだけでは単なる「安い車を買うために理屈をこねている」だけになってしまいますが、そうではありません。

日本同様、ガソリンを輸入に頼る事が多い欧州ではガソリン代が高いため、少しでも燃費がいいクルマに乗りたい事、そして渋滞が激しいわけでも無いので、ATの「イージードライブ」という恩恵にあずかりにくいため、ATにメリットを見いだせない時期が長く続きました。

そして、2つめの理由が、「ヨーロッパの人々にとって、クルマとは移動手段である」という事です。え?移動手段としか見ていないのは、イージードライブでクルマの運転を楽しまない日米の方じゃないの?と思うかもしれませんが、移動手段の意味合いが異なります。

無駄に豪華で新しいクルマをポンポン買い換える傾向のある日米のドライバーは、欧州の人々からすれば「なんでそんな、走る応接間みたいなものを買ってるの?クルマは移動のための手段だから、そのために必要な装置がついていればいいんじゃないの?」と感じるもので、全く話がかみ合わないというわけです。

最後にこれが最大の理由ですが、欧州ではクルマを買い換える頻度が低いことです。

古いクルマばかり走っているので旧式エンジンの排ガスによる汚染が大問題になったほど…。昔の動力伝達効率が悪く、燃費が悪い時代のATには乗らず、MT車にずっと乗っているのは当たり前になっているのです。

最新のクルマではそのような事も無いので、買い替えのタイミングでATを選ぶ事も増えており、富裕層の乗る大型車や高級車では既に過半数がAT車となっています。それでもMT車への想いは捨てがたいようで、イージードライブとダイレクト感や変速操作を両立できる、DCTなどセミAT車が発達したのも欧州の特徴です。

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