フォルクスワーゲンの乾式7速DSGと湿式6速DSGは何が違うのか?

フォルクスワーゲンの「DSG」

MT(マニュアルトランスミッション、手動変速機)を油圧アクチュエーターなどを使って自動化する2ペダルMT,あるいはセミATミッションが増えています。

シングルクラッチ式で単純にMTを自動化したスズキのASGやアルファロメオのセレスピードもありますが、現在の主流はBMWやホンダ、VW(フォルクスワーゲン)が採用する、デュアルクラッチ式です。

2枚のクラッチディスクを駆使して、一方が駆動伝達している間、もう一方は変速している事で駆動の切れ目を無くした、自動化だけでなく効率化を求め、燃費向上にも大きく貢献しているデュアルクラッチ式ミッションは、「DCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)」と呼ばれます。

DCTは大きく分ければBMWなどが採用するゲトラグ製、日産などが採用する愛知機械製のボルグワーナ式、そしてホンダなどが内製しているシェフラー式などがあるのです。VWが作っていて「DSG(ダイレクトシフトギアボックス)」と呼ばれるDCTも、ホンダと同じくシェフラーと共同開発したもので、クラッチシステムは基本的に同じです。

量販車初のDCTだったVWの湿式6速DSG

VWが2003年から採用した世界初の量販車用DSG(DCT)は、湿式多板クラッチ6速でした。

複雑で重く高価な反面、クラッチを切っている間の空走距離が存在し、かつMTとは異なりドライバーの意思でその時間やタイミングの制御ができないシングルクラッチ式セミATに比べ、瞬時に変速しロスが極限され、ダイレクト感に溢れたDSGは大いに歓迎されます。

初搭載されたゴルフR32の走行性能とあいまって、それまで「MTでなければダイレクトなレスポンスを味わえない」と言っていたMT信者に対し、オートマ派が「DSGならAT限定免許でも乗れるし、シフトチェンジのスピードでMTには負けない!」と大きく力づけられたものです。

その湿式6速DSGは何が湿式かというと多板クラッチの冷却機構で、6.5Lもの大量のオイルを循環させる事で、デュアルクラッチシステムを冷却しています。これにより発熱によるトラブルから守られるので、ハイパフォーマンスモデルの大トルクにも耐える事ができました。

そのため、現在でも2リッターTSIエンジンで280馬力、38.8kg-mを発揮する「ゴルフR」のような高性能エンジン搭載モデルには、湿式6速DSGが使われています。

簡易化でコストダウンを図り開発された乾式7速DSG

しかし、湿式DSGには「大量のオイルが必要な上に、定期的な交換が必要」という致命的な問題点がありました。

今やATをメンテナンスフリーにしてATフルード交換用のドレン(オイルを抜く穴。ドレンボルトで塞がれてる)すら無くしてしまった車種すら存在する中で、定期的に数万のコストをかけてクラッチ冷却用のオイルを交換するのは大衆車用ミッションとしては現実的ではありません。

ハイパフォーマンスカーや高級車用としては許されますが、そこは大衆車メーカーであるVWですから、低コストのDSGが求められました。そこで再びシェフラーと共同開発で作られたのが、乾式単板クラッチ7速DSGです。

湿式から乾式に、多板クラッチから単板クラッチに変わるという事はクラッチの冷却を省略した上にエンジントルクに対する容量も小さくなるという事で、これまでのように大トルクのエンジンとは組み合わせができなくなりました。

しかしVWは小排気量の「ダウンサイジングターボエンジン」をメインにした大衆車メーカーに変わろうとするときだったので、それで良かったのです。

その簡易型DSGに換装する事でミッションオイルもクラッチ冷却に6.5Lから1.7Lまで減らせたので、オイル交換が安くなり、ミッションそのものも軽くなりました。その分6速から7速に増やしてキメ細かい変速を行う事で走行状況に対してより適したギアを選択できるようになり、燃費も良くなりました。そして何より、安い大衆車にも採用できるようになったのです。

環境への耐久性で問題の出た乾式DSG

もっとも、低コスト化で得るものもあれば、失うものもありました。

冷却機構が省略され、容量に余裕の無い乾式単板クラッチDSGは高温多湿の環境でクラッチ板の加熱による異常磨耗や変形によるトラブルが多発し、日本や中国などで大規模なリコールを発生させたほか、他の高温多湿地域でもクレームが多発してしまったのです。

こうした気候でのテストのツメが甘かったのか、VWではソフトウェアの改良で問題は改善された、としていますが、今でもVWの乾式DSGに対する信用は完全に戻ったとはいえない状況です。

ここはディーゼルエンジンの排ガス検査偽装問題も含め、自動車生産台数世界一の座をトヨタと争ったVWが、少しばかり焦ってしまった結果と言えるでしょう。

同じシェフラーの乾式単板クラッチシステムを使ったホンダの「i-DCD(インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)」もVWと同様のクレームやリコールに苦しめられた事を考えると、シェフラーに対する疑問や共同開発の難しさなどの問題も浮かび上がってきますが、高性能でありながら低コストのDCTの信頼性回復に向けて、関係者には努力を続けてほしいものです。

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