車のオーバーハングの長さはどのように変わってきたか?衝突安全性との関係は?

日産ファアレディZ(S30・240Z)

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自動車のタイヤから前後端までの距離を意味する「オーバーハング」。昔の車と比べると短い車ばかりになりましたが、衝突安全性とはどんな関係があると思いますか?
Chapter
かつてのショートホイールベース、ロングオーバーハング
小さい車は昔からオーバーハングの短い車が多かった
大型車はオーバーハングが長くなりがち
クルマ作りが変わっていった90年代
クラッシャブルゾーン確保との戦い
パッケージのバランスをとる上での「密接な関係」

かつてのショートホイールベース、ロングオーバーハング

自動車のタイヤから、ボディの前後端、一般的にはバンパーの先までの部分を「オーバーハング」、さらに前後タイヤの間隔を「ホイールベース」と言います。

自動車の設計におけるさまざまな制約の中で、かつてはタイヤはもっとボディ中央、重心部に近い方にあり、前後タイヤの間隔が短い「ショートホイールベース」の車が多かったのです。

エンジンや燃料タンクの搭載位置、信頼性の高い駆動系、求められる走行性能などから導き出された配置により、大型車やスポーツカーでは現在よりもホイールベースは短く、必然的に人が乗るキャビン(車室、デッキ)は短く、エンジン部分の長い「ロングノーズ・ショートデッキ」が多くなりました。

小さい車は昔からオーバーハングの短い車が多かった

例外はFFやRRレイアウトで駆動系をコンパクトに収めた小型車の類で、昔のミニやスバル360などがこれに該当します。

日本では本田宗一郎が提唱したMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)に代表されるように、こうした小型車では重く高価になる事を避けつつ、走行安定性や動力性能と居住性の両立を図りました。

その結果として、可能な限りホイールベースを伸ばしてキャビンを大きく取り、その一方でエンジンなどキャビン以外のメカニズム部分は小さく短く、タイヤは四隅に置かれて前後のオーバーハングも最低限とされたのです。

衝突安全性が重視される時代となって大型バンパーが装着されるようになっても、バンパー以外の部分は同じような作りが続きました。

大型車はオーバーハングが長くなりがち

一方、大型車はどうだったというと、主にストレート6(縦置き直列6気筒)、あるいはV12エンジンを縦置きで搭載した車では「ロングノーズ」が必然でした。

居住性を重視した大型セダンではキャビンを大きく取るためロングボディに、走行性能を重視したスポーツカーではリアセクションを切り落としたような「ロングノーズ・ショートデッキ」が定番となり、いずれのケースでも走行性能、ことに旋回性能や取り回しの容易さを確保するためもあり、今の目から見ればショートホイールベースオーバーハングの長い車が多かったのです。

そこから変化が生じる直前に登場し、目に見える形でわかりやすい比較的新しい車の代表が、ラゲッジを長く取るために異様なほどリアのオーバーハングが長かった、日産のステージアでしょう。

クルマ作りが変わっていった90年代

そこから大きな変化の流れが生じたのは、1990年頃からです。多くの車でロングホイールベース化と、それにともなうオーバーハングの短縮化が始まりました。

小型車やコンパクトカーはもちろん居住性の改善のために、大型セダンなどはそれに加えて直進安定性の向上による快適性、スポーツカーはエンジンのフロントミッドシップ化による重心位置の改善のために。

そのためにコンパクトカーでは燃料タンク位置の変更やサスペンション形式の単純化によるレイアウトの自由化の確保、大型車やスポーツカーでは電子制御デバイスを駆使する事による、ロングホイールベース化で失われるはずだった走行性能の確保など、さまざまな努力をしていきます。

例外だったのは、その性質上異様なほど小さい旋回半径が求められた軽トラなどごく少数で、ホンダ・アクティや一部にロングホイールベースボディのあったスズキ・キャリイのように、ロングホイールベースからショートホイールベースに戻していったほどでした。

クラッシャブルゾーン確保との戦い

ロングホイールベース化によりオーバーハングを削る中で、特にコンパクトカーや軽自動車では衝突安全性に関わる「クラッシャブルゾーン」の短縮は問題になります。

大型車は旧き良きストレート6やV12エンジンに決別し、エンジンがコンパクトなV6やV8に切り替え、配置も可能な限り後退させたフロントミッドシップ化で縦置きエンジンでもクラッシャブルゾーンを確保していきましたが、元よりメカニカルスペースがミニマムなコンパクトカーにはその余裕がありません。

それに対してわりと初期に回答を出していた例の一つがメルセデス・ベンツが初のFFコンパクトとしてリリースした初代「Aクラス」で、前方衝突時にはエンジンが下に落ちてキャビンから逃げる構造を採用しました。

そうしないと、ミニマムスペースの中でそのまま後方に押されたエンジンが、エンジンルームとキャビンの間のバルクヘッド(隔壁)を突き破ったり大きく変形させ、乗員に致命的なダメージを受けてしまいます。

そこで、エンジンを下に滑らせるように脱落させる事で、衝突時のクラッシャブルゾーンを最大限確保する狙いがあったのです。現在ではどのコンパクトカーや軽自動車でも、似たような方式でクラッシャブルゾーンを確保しています。

パッケージのバランスをとる上での「密接な関係」

「自動車」というさまざまな要素がパッケージされた工業製品は、「オーバーハング」という一つの要素だけで語ることが許されません。それが変わって行く時はホイールベースも変わる時であり、そのクルマのクラッシャブルゾーンの設計思想が変わっていく時でもあります。

オーバーハングの長さで衝突安全性が変わる」というよりは、そのパッケージを実現した上で必要な衝突安全性を確保するため、オーバーハング以外の部分でさまざまな努力がなされてきた歴史があります。

衝突安全性が変わったのではく、変わらず確保するために各メーカーが苦心したのです。

さらに近年では「歩行者衝突安全」という要素もあり、オーバーハングの短い車が歩行者への接触時にどのようなバンパーの高さを持つか、それにより跳ね上げられた歩行者の生存性を高めるため、ボンネットの長さや高さの制約も生まれてきました。

現在は、一見見た目で配慮されているように見えても、テストの結果からパッケージのバランスに疑問符を持たれてしまう事もあるため、各メーカーはのクルマ作りに一層慎重になる事が求められています。。

中には「結局のところ、エンジンの配置、ノーズやトランクの長さの問題」として衝突安全性とオーバーハングの長さとの関連を否定する考え方もあります。しかし、ロングホイールベース化とショートオーバーハング化が衝突安全性をも考慮したパッケージに与える影響、あるいはその逆にパッケージから与えられた影響で決まる事を考えれば、むしろ密接な関係にあるとも言えるのです。あなたはどう思いますか?
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