ペダル踏み間違い事故にも有効か?! 身障者用運転装置が持つ多用性とは

2019 ミクニ 福祉車両

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警視庁による平成30年当時の運転免許保持者は、全国で約8,200万人。そのうち、2万人が身障者のドライバーです。その運転を支えているのが、福祉車両というカテゴリー。今回はその運転装置について、スポットを当ててみました。

文/写真・山崎 友貴

山崎 友貴|やまざき ともたか

四輪駆動車専門誌、RV誌編集部を経て、フリーエディターに。RVやキャンピングカー、アウトドア誌などで執筆中。趣味は登山、クライミング、山城探訪。小さいクルマが大好物。

山崎 友貴
Chapter
シンプルな操作系を実現した福祉車両
身障者の苦労を軽減する様々な運転支援装置
後退している身障者への社会理解

シンプルな操作系を実現した福祉車両

福祉車両というと広義的ですが、「乗せる」ための車と、「乗る」ための車があります。埼玉県にある『ミクニライフ&オート(旧ニッシン自動車工業)』は、身障者のドライバーが自ら運転するための装置を45年ほど前に初めて世に送り出した会社です。

身体の障害のケースによって、残された身体能力を十二分に発揮するため、やはりハンディキャッパーだった同社創業者が、自分や仲間のために開発したのが始まりだったといいます。現在では手動運転装置をはじめ、左脚運転装置、障害に合わせたサポート用品、車椅子収納装置など、多種多様な福祉車両用の商品を造っています。
現在、こうしたメーカーは同社を含めて国内に2社ありますが、ミクニライフ&オート社が市場シェアの約7割を占めており、社内での取り付けだけでなく、全国の自動車販売店での出張取り付けを行っているということです。

福祉車両と言えば、トヨタの「ウェルキャブ」など、自動車メーカーも造っているイメージがありますが、実はその販売台数は微々たるものだと言います。同社のサービス部部長である佐藤勝彦氏は、次のように語りました。
「メーカーの車両もほぼ弊社と同じ装置が付いているのですが、どのメーカーも運転装置が1種類だけです。しかし人によって障害のケースが異なるため、その装置だけでは楽に運転できるとは言えないのです。弊社では残存能力の違いによって多様な装置を開発しているため、自動車販売店で車を買われる時に、オプション扱いで装置を付けさせていただいております」。

実際に、トヨタ シエンタに付いている手動運転装置を見せていただきました。センターパネル付近に付けられたジョイスティックのようなレバー1本で、ドライバーは運転を行います。レバーは金属製のロッドでアクセル、およびブレーキペダルに連結されているという非常にアナログな装置です。しかし、これには理由があります。
「プログラム上で制御するという話もあるのですが、現在の車はすべてがCPU(車両制御用コンピュータ)で動いているため、後書きのデータを加えると、不具合が起きる可能性があるらしいのです。そのため、自動車メーカーはデータを開示してくれません。また、デジタルで動かすよりもアナログ的な装置の方が、信頼性や耐久性が高いということもあります」。

レバーを動かしてみると、想像以上に少ないアクションで、しっかりとアクセルとブレーキを動かすことができました。前方に倒すとブレーキ、手前に引くとアクセル。操作時には、ペダル操作時に近いトルクを手に感じることができます。レバーの脇には電気式のスイッチが付いており、ホーンやウインカー、ハザードの操作も可能です。
モデルによっては、ブレーキロックという機能が付いている装置もあります。これはボタンを押すとブレーキをかけたままの状態にするというもの。坂道などでは、この状態にしてセレクターレバーを操作すれば安心です。この装置は走行中に巡航したい時に使用すれば、簡易的なクルーズコントロールとしても使うことができます。

身障者の苦労を軽減する様々な運転支援装置

身障者が車を運転しようとした時、健常者にはなかなか気がつかない苦労が多くあると言います。そのひとつが、乗降です。最近の車は、サイドビームなどの安全対策が施されているため、ドアが厚くなっています。

そのため、車椅子から腰をずらして車内に乗り込むまでの距離が長くなり、人によっては身体を移乗する際にドアシルの上に落ちてしまう人がいるといいます。健常者には安全性につながっている部分が身障者には危険…というのは、なかなか気づけない部分です。
同社では、移乗を安全かつスムーズに行うために、「サイドサポート」という補助席のような商品を発案しました。昨今は車椅子を載せる積載性も考えて、ミニバンを選択する人が多く、高低差があるために移乗はさらに困難に。そこでサポート用の椅子が電動で上下する装置を考えました。

車椅子のドライバーが、ひとりで運転をする時に苦労するのが、車椅子の車内への収納。ドアの開口部が狭かったり、力のないドライバーには大変な作業だと言います。そんな苦労を解消してくれるのが、「オートボックス」という商品です。
ルーフボックスにクレーンが付いている補助装置なのですが、ドライバーは車椅子を吊り下げフックに下げるだけ。後は、リモコンで操作すれば、ルーフボックス内への収納を自動で行ってくれます。

この商品のメリットは積み込み時の省力化だけではなく、ドライバーが自由に愛車を選べるという点です。開口部形状が狭いスポーツカーでも、オートボックスを付ければ車椅子を積載することができるのです。

後退している身障者への社会理解

佐藤氏によれば、全国を見てみると、実は事故によって身障者になった人数は、年々減っているといいます。主な要因は若者のバイク離れ。バイクに乗る人が圧倒的に減ったため、重大事故の発生率も下がったのです。これ自体は非常に望ましいことですが、一方で国や行政のサポートが年々手薄になっていると佐藤氏は警鐘を鳴らします。

「スウェーデンや韓国では、こうした自動車の補助装置への補助金が100%支払われます。しかし日本ではその額が年々減っていき、現在では約10万円しか支払われません。手動運転装置は安い物でも20万円はしますので、取り付け費などを考えれば、半分以上がユーザー負担になります」。

補助金以外にも、消費税の非課税や自動車税・自動車取得税の減免など、身障者のカーライフに対してのサポートはあります。しかし、肝心の自動車や運転を補助する装置に対してのサポートが手薄なのです。

「車椅子の身障者は、自動車がないと外出や出勤ができません。日本は大分変わったとは言え、身障者は安全な家に囲っておくという意識が強いんです。今後、身障者がどんどん社会進出をしていくためにも、もっと国や行政はこうした補助金の交付を考えてもらいたいと思いますね」と佐藤氏は語る。

ちなみにミクニライフ&オートは現在、手動補助装置の“転用”を考えているといいます。それは、昨今問題視されているペダル踏み間違い事故を、手動補助装置で対応してはどうかという案なんだとか。手元で運転操作をする同商品であれば、操作ミスを大幅に減少させることができます。レバーを離せば、アクセルが解除になるというのもメリットです。
事故解消への特効薬になるのか、そんな新しい使い方も注目される福祉車両の様々な装置。高齢化が進み、地方の交通インフラが次々と消えている日本で、こうした装置は新たなる使命が課せられるかもしれません。
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