心地よい“旧さ”を味わうべき一台…3,873万円ベントレー ミュルザンヌ スピード 試乗レビュー

ベントレー ミュルザンヌ スピード 2019

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ベントレーのフラッグシップ「ミュルザンヌ」は、今から10年前、2009年の「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」でワールドプレミアに供された。2017年モデル以降はフロントマスクを中心にフェイスリフトを受けたが、残念ながら筆者自身はこれまでドライブする機会に恵まれなかった。しかし、このほどベントレー・ジャパンが開いたメディア向け試乗会では、ミュルザンヌの高性能バージョン「スピード」にも乗ることができるというご案内を受け、ようやく念願の新型ミュルザンヌ・スピードと対面することになったのだ。

文・武田公実
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「伝統の称号を冠する」ベントレー ミュルザンヌ スピード
「心地よい“旧さ”を味わうべき一台」

「伝統の称号を冠する」ベントレー ミュルザンヌ スピード

これまで再三に亘って明言してきたが、筆者は「ベントレー」というブランドに、特別な感情を抱いている。1919年に開祖W.O.ことウォルター・オーウェン・ベントレーが創業し、20年代のル・マンなどでも大活躍を収めた「クリクルウッド・ベントレー」の時代から、コンチネンタルGTシリーズの成功で大躍進を遂げた現代に至るすべてのベントレーを、心から敬愛してやまないのだ。

筆者がベントレーに惹かれる最大の動機は、その気高さにある。高貴な志を秘めつつ、ヴァイキングの末裔を自認する勇猛さを身上としてきた英国貴族さながらの精神が、現代においても一台一台に沸々と感じられる。中でも旧き良きV8エンジンを搭載したフラッグシップ「ミュルザンヌ」こそが、ベントレー古来のスピリットを現代に最も色濃く継承したモデルと確信している。

ミュルザンヌの名は、往時のベントレーが大活躍したル・マン24時間レースのコース、サルト・サーキットの名物ストレートに続く90度コーナーから名づけられた。そのネーミングが示すとおり、R—Rファントムやマイバッハなどと並ぶ世界最高のプレステージサルーンでありながら、同時にスポーティな気質を持つ稀有な一台と言えるだろう。中でも「ミュルザンヌ スピード」は、ベントレーが長らく高性能モデルに与えてきた伝統の称号を自ら標榜する。

名門ベントレーにとって「スピード」は、実に96年もの歴史を持つ称号。W.O.ベントレー時代の第一作として1921年に正式販売された「3リッター」に、デビュー二年後となる23年から追加されたハイパワー版「スピードモデル」がその元祖である。そののち6気筒24バルブユニットを搭載する「61/2リッター」にも高性能版「スピードシックス」が設定され、1929-30年にはル・マン24時間レースの優勝マシンともなっている。

ベントレーにとっては歴史的名跡とも言うべき「スピード」が復活したのは、2007年夏のこと。初代「コンチネンタルGT」高性能版としての登場だった。現在ではミュルザンヌのみならず、SUVのベンテイガにも用意されることになったのだが、いずれの「スピード」についても、ブラッシュアップの内容はかなり玄人好みと言えるだろう。

特に昨年から日本でもデリバリーの始まったミュルザンヌのマイナーチェンジ版では、スタンダード・ミュルザンヌとの外見上の違いは最小限に抑えられているのだが、ベントレーの謳う「スピード」の真骨頂は、あくまで心臓部にあると言わねばなるまい。

「心地よい“旧さ”を味わうべき一台」

その起源を遥か半世紀以上前、1959年まで遡ることのできるベントレーV8ユニットは、古典的なテクノロジーの集大成。それでも、二基のターボチャージャーの追加などによって極限までソフィスティケートしたことで、現代のミュルザンヌでは500psオーバーの高性能ユニットとなっている。中でもスピード用エンジンは燃料システムの全面的改良やターボチャージャーの最適化を施した結果、最高出力は標準型から25psアップとなる537ps、最大トルクも80Nm上乗せした1100Nmを発揮するとのことである。

そしてこのパワーアップは、独特の雄々しいフィールにも如実に表れているようだ。標準型ミュルザンヌが、スポーティながらも滋味溢れる仕立てであるのに対して、スピードのベントレーV8は明らかにホット。もちろん絶対的な音量は抑えられつつも、プレステージサルーンにあるまじき重低音を放ちながら、胸のすくような加速を披露してくれる。

もちろん絶対的な数値だけ見れば、ミュルザンヌより速いスーパーサルーンは世界に数あまた存在するだろう。また同門のフライングスパーW12にも、いささかながら及ばない。しかしミュルザンヌ スピードでは、その速度域に達するまでの「ドラマ」が格段に熱いものとなっているのである。


加えて、ミュルザンヌ/ミュルザンヌ スピードに共通する個性的なスタイリングも大きな魅力。見る者によっては露悪的とも思われそうなゴシック調のエクステリアは、ほかのあらゆるクルマにも似ていない、まさしく孤高のものである。

また最上のマテリアルを贅沢に使用し、下品に堕する寸前のテイストで巧みに設えたインテリアも、我々外国人がイメージするシックで渋めな近代英国趣味から一歩踏み出し、「ケルト神話」や「アーサー王伝説」を今なお愛するイギリス人のDNAをも垣間見せてくれるのだ。

正直な心境を吐露してしまえば、ベントレー ミュルザンヌ スピードは内外装から乗り味に至るまで、たとえマイナーチェンジ後の最新モデルであっても明らかに古臭いことは認めねばなるまい。また、自動運転テクノロジーを応用した運転支援システムや、スマートフォン対応のコネクティビティなどとも無縁である。でもこの古さこそ、ベントレーの伝統を愛する好事家にとっては、素晴らしく心地よい。ほかに代え難いものなのだ。

EVなどの電動車が当たり前になりつつある今、こんなに古い、いや「旧い」内燃機関の息吹、そして高級車の伝統的様式を味あわせてくれるのが、世界で唯一ベントレー ミュルザンヌ スピードなのである。
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