全日本ラリーで活躍するヴィッツの秘密、スポーツCVTってなんだ?!

DL WPMS Vitz CVT

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ラリーというモータースポーツをご存知でしょうか。トヨタがヤリス(日本名:ヴィッツ)で参加している世界ラリー選手権(WRC)は何となく見たことがあるかもしれませんが、全日本ラリーのような国内選手権についてはまったく情報がないという人も少なくないことでしょう。ここで紹介するのは、そんな全日本ラリーのJN6という主に1.5L以下のAT車で競われているクラスで、2戦連続で2位となっている競争力のあるマシンです。ATなのにモータースポーツ? と不思議に思うかもしれませんが、ATだからこそ楽しめるモータースポーツの世界を探ってみることにしましょう。

文・山本晋也

山本 晋也|やまもと しんや

自動車メディア業界に足を踏みいれて四半世紀。いくつかの自動車雑誌で編集長を務めた後フリーランスへ転身。近年は自動車コミュニケータ、自動車コラムニストとして活動している。ジェンダーフリーを意識した切り口で自動車が持つメカニカルな魅力を伝えることを模索中。

山本 晋也
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女性新人ドライバーが連続表彰台をゲット
最高出力を引き出す変速比を確実にキープ

女性新人ドライバーが連続表彰台をゲット

ゴールデンウイーク中の5月3日~5日にかけて愛媛県久万高原町(くまこうげんちょう)で開催された全日本ラリー第4戦、JN6クラスで2位となったのは、板倉麻美/梅本まどか組の「DL WPMS Vitz CVT」(ウェルパインモータースポーツ)でした。今シーズンからラリーを始めたという板倉選手は、そのセンスをいかんなく発揮して、タイムを競うスペシャルステージのひとつでトップタイムを奪っています。まさに全日本ラリーで勝負できるマシンというわけです。ちなみに梅本選手の顔に見覚えがあるという方もいるかもしれません。彼女はSKE48を卒業後、名古屋を拠点に活躍しています。WRC招致応援団に参加するなどモータースポーツやオートバイに詳しいタレントとしても知られている存在です。このチームではコ・ドライバーとして欠かせない存在となっています。
さて、見ればわかるかもしれませんが「DL WPMS Vitz CVT」のベースとなっているクルマはトヨタ・ヴィッツのスポーティ仕様といえるヴィッツ GR SPORT“GR”です。もちろん、安全性を高めるロールケージを張り巡らすなどラリー仕様に改造したマシンです。当然ながらJN6クラスのレギュレーション(競技規則)に合わせてATがベースに選ばれています。ヴィッツの採用しているATは、対になったプーリーを金属ベルトでつなぎ、プーリーを動かすことで変速比を変えるタイプ、すなわちCVTです。CVTというと古くからのクルマ好きは「ラバーバンドフィール」という言葉を連想するでしょうし、スポーツドライビングにもっとも向いていないATという印象もあるかもしれません。しかし板倉選手からはCVTだからといって乗りづらいとは思っていないようです。むしろ乗りやすいとさえ感じているように見えます。なぜなら、このマシンに使われているCVTは、市販車とは制御が異なる「スポーツCVT」なのです。では、モータースポーツ用に作られているという制御プログラムは、どのような内容なのでしょうか。

最高出力を引き出す変速比を確実にキープ

百聞は一見に如かず、まずは板倉選手が運転する「DL WPMS Vitz CVT」の助手席に乗り込みます。スリムな梅本選手に合わせたバケットシートから体がはみ出しそうになりますが、特等席で「スポーツCVT」の走りっぷりを眺めることができるのは、あまりにも貴重な機会。なお、本気で走ってもらうのは千葉県の茂原ツインサーキットの東コース。板倉選手が昔から走り込んできたというホームコースです。コースは十分以上に把握していますから、ピットロードからコースインした直後から様子を見ることもなく全開です。ギューンと減速Gを感じて、板倉選手の足さばきを見ると、右足でアクセルを、左足はブレーキの位置に置いています。いわゆる左足ブレーキを駆使しているのです。そのため、コーナーではブレーキを緩めながらタイムラグなくアクセルを踏み込んでいます。
こうした運転を通常のCVTで行なうと、プーリーが動いて変速するまでのタイムラグが気になったりするものですが、このスポーツCVTではそうした印象はまったくありません。ヴィッツの積む1.5Lエンジンは最高出力80kW(109PS)を6000rpmで発生するというスペックですが、スポーツCVTは6100rpmをキープするような変速制御になっています。つまり、アクセルを全開にしているのであれば、常に最高出力を発揮できるようなプログラムになっているわけです。たとえば茂原ツインサーキットの複合ヘアピンとなっている8コーナーでアクセルを踏まずに我慢しているときも6000rpm前後をキープしているので、立ち上がりでアクセルを踏み込むとグッと力強く加速するのを感じます。最終コーナーから上りのストレートに向けての区間では、そうした加速が途切れることなく続きます。これがMTやステップATであったら、シフトアップのタイミングでエンジン回転がドロップするので加速感が途切れるのですが、そうしたストレスは皆無。スポーツCVTの走りを味わってしまうと、従来からのCVTへのネガティブなイメージは吹き飛んでしまうことでしょう。
ちなみに、スポーツCVTの制御プログラムを作っているのはトヨタ自動車のパワートレインカンパニー。つまり、このスポーツCVTは市販車にフィードバックされる先行開発という位置づけなのです。市販車に搭載されているCVTの制御は市場ニーズに合わせて燃費重視の傾向にあります。そのためCVTはスポーツドライビングに向かないと思われがちなのですが、スポーツ性を最優先にしたプログラムで制御すれば、これほどのスポーティな走りが楽しめるポテンシャルを持つというわけです。実際、全日本ラリーマシンでもハードウェアそのものは市販車と同等といいます。モータースポーツでの経験をフィードバックした「スポーツモード」を持つCVTが量産モデルに搭載される日は、そう遠い話ではないのかもしれません。
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